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ギガントシャーク 第三話 翼ある蛇

ギガントシャークとサメたち、ミスティ、ブレット、マークは南米グアテマラに向かっていた。この地のアティトラン湖周辺でコンドルほどもある巨大なスズメバチが確認されたのだ。
「今度はそのデカい虫を退治しに行くのか?」
ブレットがミスティに尋ねる。
「いいえ。これはおそらく前兆に過ぎないわ。詳しいことはまだよくわかっていないのだけれど、怪獣が現れる前には巨大な節足動物も姿を表すことがあるの。まるで古生代にいたようなね。」
「本当かなぁ‥」
マークが首を傾げる。
「本当だぜ。オレ様の体にもついてる。ほれ。」
ギガントシャークが体を少し揺すると、鰓孔から何かが飛び出し、甲板の上に乗った。
「うわっ!」
「なんだコイツら!」
「カニカニ?」
「カニッ!カニッ!」
そこにいたのは中型犬ほどもある三匹のカブトガニだった。
「マーク!銃もってこい!」
ブレットが慌てていう。
「待て!そいつらは何もしない。」
シャークが制止する。
「カニ‥カニ‥」
「カニカニ‥」
怯えている一番小さな個体の上に一番大きな個体が慰めるように鳴きながら覆い被さる。
「キシャーッ!」
尻尾の長い個体が威嚇するように尻尾を上げる。
「カニカニ。」
一番大きな個体が尻尾の長い個体を宥める。
「オレ様の体についてる奴らだ。何もしなけりゃ大人しいからペット代わりにかわいがってやってくれ。」
「カニカニカニ。」
「カニー!カニー!」
「カニィ‥」
三匹はあいさつらしき動きをする。
「しかし‥ちょっとグロいなぁ‥」
「かわいいじゃない。」
そんなやりとりをしていると
「ソロソロツクゾ」
「ミズウミ コッチ」
船を囲んでいたオオメジロザメたちがグアテマラが近づいてきたことをシャークに告げる。
「オレ様は水中トンネルを通って先に湖に行ってるぜ。またな。」
シャークは船を追い越して泳いでいく。船が港に着くと、一行は搭載されたヘリに乗り換え、アティトラン湖周辺にたどり着いた。するとすでに軍用車が何台か湖畔に停まっていた。そして目の前には湖に浸かった長いホースがある。
「うむ。この湖で間違いないのだな。」
「はい。湖底に巨大な生物の反応が。蛇に似た形をしています。」
壮年の軍人と科学者が何か話している。
「蛇か!そいつは好都合だ。このアンソニー・アトキンスの作戦は必ず功を奏すぞ。」
軍人は余裕を見せながら笑った。
「あ、米軍だ。」
「何してんだろう。」
「お話を伺いたいんですが‥」
ミスティが話しかける。
「何だね?今重要な仕事を‥あなたはミスティ氏ではありませんか!私は怪獣対策機構の兵器開発、対怪獣作戦考案代表者に命じられたアンソニー・アトキンスです。」
「そう。よろしくね。」
「おっさん誰?」
ブレットが尋ねる。
「む?貴様らアメリカ国民だな?」
「まぁ一応生まれはそうだけど、それがどうかしたか?」
「私を知らないのか?アンソニー・アトキンスだぞ!」
「知らないよ。」
「知らん。」
「アンソニー・アトキンス軍曹の名を知らんのか?アメリカで生まれながら?」
「アメリカ国民だろうがなんだろうが知らんもんは知らん!」
「そもそも俺たち、アメリカにいるより他んとこにいる方が長いからな。」
「ミスティさんだってあんたのこと知らなかったじゃねぇか!」
「ミスティ氏はカナダ国籍だからいいのだ!だが、もうすぐ私の名は南北アメリカ全土、いや全世界に広がることになるだろう!」
「ミスティ氏。この無礼な男たちは‥」
「紹介するわ。ギガントシャークに助けられて私たちと一緒に行動することになったブレットとマークよ。」
「ギガントシャーク?あのサメの怪獣か。今はどこにいる?」
「今は湖の底に向かってるとこだよ。」
「そうか。だが、立って歩く魚の手助けなど必要ない!私の作戦がうまくいけば、怪獣は目覚める前に死ぬ!」
「そう。それでどんな作戦を?」
「まぁ見ていてください!」
アトキンス軍曹が手を上げて合図を出す。すると兵士がスイッチを押し、巨大なホースから何かが湖底に流れる。
「何が出ているの。」
「超低温冷却ガスですよ。これにより怪獣を眠っている間に凍死させるのです!」
「ちょっと待って!怪獣が寒さに弱いとは限らないわ。」
「心配はありませんよ。相手はヘビ型だということが事前の調査で分かっています。変温動物が−200℃に耐えられるわけないでしょう。」
「あなた、怪獣が既存の生物学の物差しで測れるとでも思ってるの?」
「所詮はでかいだけの野生のケダモノです。そんな大袈裟に考えなくてもいいじゃありませんか。」
「よくないわ!怪獣についてはまだ分からないことが多いの。そんな安易な決断は‥」
「またまたそんな‥いいから続けろ。」
アトキンス軍曹が兵士に命じる。冷却ガスは湖底の穴に送られていく。
その頃、シャークはオオメジロザメたちと共にアティトラン湖に向かっていた。もうすぐ湖底というところで
「コノサキ ミズ ツメタイ」
「イツモトチガウ」
サメたちがそう言った。
「ミズウミノソコ ナニカナガレテル」
「カイジュウ ウゴイテル」
「何!?そりゃ急がなきゃだな。」
シャークは急いで湖底に向かった。
冷却ガスは怪獣が眠っている穴に次々送り込まれていく。だが、その巨大な体は衰弱するどころかますます活発になろうとしていた。
そしてその体が完全に覚醒し、黄色い鋭い目が開く。それは巨体をもたげ、浮上していった。
冷却ガス放出から数十分。アトキンス軍曹は湖のほとりに佇み余裕の表情を見せていた。
「さぁて。そろそろ死んだ頃かな。」
「軍曹!大変です!」
「なんだ!」
「湖底から巨大な生命反応が!急速に浮上しています!」
「何!」
湖の水が波立っている。さらに巨大な羽音が周囲から一斉に聞こえ出し、あちこちからから猛禽ほどもある巨大スズメバチが姿を現した。
「何ということだ!」
ギギギィーッ!
スズメバチたちは次々と現れ、金切り声をあげながら兵士や科学者に襲いかかった。兵士たちは機関銃や対怪獣用特殊レーザー銃を手に応戦するが、戦闘は想定されていなかったため全く人手が足りない。苦戦しているうちに湖面が大きく盛り上がり、水面に何かが叩きつけられるような音がした。そして鎌首をもたげて巨大な湖の主がその姿を現した。
ピシャァァァァァァァァァァッ!
それは灰色の巨大な蛇そのものの姿をしていた。だがその体の真ん中には「翼」があった。鳥のような翼ではなく、イトマキエイの鰭に近いものだったが、十分な貫禄があった。
「なぜだ‥−200℃の冷却ガスだぞ!爬虫類が生きられるはずがない!」
「だから言ったでしょう!怪獣に既知の生物の常識は通用しない!おそらくあの怪獣は温度が下がることで活発化するタイプね。」
「そんな生き物がいるか!」
「それが怪獣なのよ!」
怪獣は体をくねらせると鰭のような翼をバサバサとはためかせ、突風を起こした。
大風が巻き起こり、いくつかの軍用車と何人かの兵士が吹き飛ばされた。
ピシャァァッ!ピシャァァッ!
怪獣はヒレをバタバタと打ち鳴らしながら嘲るかのように鳴いた。
ミスティは大風が吹くと同時に特殊な傘を広げ、自分とマーク、ブレットを包むように守った。
「名前は‥『キングコアトル』とでもしておきましょうかね。」
ミスティはそう呟く。
その時、湖が大きく波立ち、聳え立つ巨大な影がキングコアトルの背後に現れる。
「待ってたぜぇ。」
他でもないギガントシャークである。
キングコアトルが振り向き
ピシャァァァァァァァァッ!
と激しく威嚇する。
「かかってきやがれ、ヘビ野郎。」
ギガントシャークはキングコアトルに向かって中指を立てる。それを見たキングコアトルは体をくねらせ水中に潜る。
「どこに行った‥」
ザバッ!!
ピシャァァァァァッ!
キングコアトルが勢いよく飛び出し、シャークの体に食らいつこうとする。シャークはその両腕でキングコアトルの首をがっちり掴み、押さえ込む。そして、その頭に強烈な爪による一撃を見舞う。キングコアトルの顔に傷がつき、血潮が飛び散る。
ピシャァァッ!
キングコアトルは一瞬怯むもすぐに体制を整え、襲いかかってくる。
ピシャァァァァァーッ!
ギガントシャークの腕に喰らいつくキングコアトル。また払い除けるシャーク。キングコアトルは翼で突風を巻き起こし、シャークの進撃を阻止せんとする。
「ぐっ!」
シャークは一瞬歩を止めるが、すぐに慣れ、風に逆らって歩き出す。風とともに大量の巨大スズメバチが現れ、巨大な旋風の中に入って「スズメバチネード」を形成し、シャークに襲いかかる。スズメバチたちを蚊を追い払うかのようにあしらい、手を緑の体液で濡らしながら激闘を繰り広げるシャーク。スズメバチの死骸が湖面に落ちていく。次々と集まるスズメバチたちを鬱陶しく思ったシャークは全身に力を込め、
「シャークスパーク!」
と叫んだ。青い電流が走り、スズメバチたちが焼けこげて落ちていく。そしてシャークは食らいついてきたキングコアトルに襲いかかる。首元に食らいつき、離さない。キングコアトルは翼でシャークの胴を強く叩く。鋭い爪と牙の応酬で湖に大量の血が滴り落ちる。飛び散った血に寄せられたオオメジロザメたちがキングコアトルの体に食らいつき、シャークの連続引っ掻きが炸裂する。噛みつき引っ掻きの連鎖、降り注ぐ血の雨、翼ある大蛇の体に喰らいつくサメたち。まさに修羅の死闘である。やがてキングコアトルは大量の血を流して、湖の水面に体を横たえる。
「弱ってきたな。アレをやるか!」
シャークはそういうと水面に鼻先をつけ、ロレンチーニから電磁波を出した。
「シャークネットワーク!」
湖底に広がる電磁波の網。それに寄せられて地下のトンネルからグアテマラ近海のオオメジロザメたちが呼び寄せられる。1万匹以上がアティトラン湖に集結した。
「必殺ムラサメ流し!」
シャークがそう叫ぶサメたちは円を作り、弱ったキングコアトルを取り囲んだ。そしてそのまま回りながら大きな渦を作る。巨大な渦潮はキングコアトルの体をどんどん湖底に引き摺り込んでいく。やがてその巨大な体が見えなくなり、湖面が静かになった。
「決まったぜぇ。」
シャークは得意げに言う。
「さすがシャークだ!」
「やったぜ!」
ブレットとマークが言う。
「どう、これで分かったでしょう。軍人さん。怪獣を舐めると痛い目見るって。」
ミスティが呆然とするアトキンス軍曹に言う。
「くそっ‥サメ野郎め。いつか必ずお前を凌駕する兵器を作り、我々だけで怪獣を倒して見せるぞ。その時を待っていろよ?」
アトキンス軍曹はシャークにそう宣言する。
「望むところだぜ豆ツブ軍人さん。オレ様の目ん玉と歯グキが飛び出すぐらいすげぇ兵器を作ってみな。できたら鯨肉を一当分やるよ。」
シャークはそういうと、湖の底に姿を消し、ミスティたちもヘリに乗り込むのだった。

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