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ギガントシャーク 第二話 その名はギガントシャーク


エジプト近海にて
「お、おいサメ!船にぶつかるぞ!」
「何だって?ぬぉっ!」
ちょっとした客船ほどの船が目の前にあった。甲板には背の高い金髪の女性と白衣の科学者たちが何人かいる。
サメ怪獣は船を慌てて避けようとする。
「ちょっと待ってちょうだい。」
女性がサメ怪獣を呼び止めた。
「あなた、言葉はわかる?」
「あぁ。話せるぜ。」
「私たちに同行してくれる?」
「オレ様にはこれから行くところがある。悪いが相手してる暇は‥」
「どこに行くの?」
「日本の北海道だ。怪獣が目を覚ましそうなんでな。」
「私たちもあなたと目的は同じ。怪獣を研究、観測し、倒すこと。」
「何だと?」
「あんたら、怪獣のこと知ってんのか?」
ブレットが尋ねる。
「えぇ。怪獣は遥か昔からこの惑星にいるわ。長いこと観測を続けていたけど、今日まさに蘇ったていうわけ。きっとこれから世界中で目を覚ますわ。」
「あんた、分かってるじゃねぇか。オレ様が動いたのはまさにそのためさ。」 
「ところで、背中に乗せてるこの人たちは‥」
「あぁ、コイツらは‥」
サメ怪獣はことの経緯を説明した。
「なるほど、あなたには人間を助ける意思があるということね。」
「いや、そういうわけじゃねぇけど。まぁ奴らに好き放題されたら困るからな。コイツらの身も危ねぇ。」
「コイツらって‥うわっ!」
マークが海面をみて驚く。海上には何十というサメがうようよしていた。
「何だよマーク‥ぎゃぁ!」
ブレットも驚いて叫び声を上げる。
「落ち着け。危ないことなんかねぇよ。」
「あなた、サメと仲がいいの?」
「まぁな。ダチが少なくとも十万匹はいる。」
「あのサメの大移動は‥」
「オレ様の指揮だぜ。」
「やっぱりそうだったのね。」
女性はそう言って海面のサメたちを見た。そして一匹を指差してそう言った。
「待って!それ、クラドセラケじゃない?」
「コイツがそんなに珍しいか?」
「絶滅種よ!」
「お前ら豆ツブが勝手に絶滅したことにしたんだろ。深海には色んなサメがいるぜ、顎がぐるぐる巻きのやつとか‥煙突みたいなミョーな背鰭のとか‥」
「それってもしかしてすごい発見かも‥今度連れてきてちょうだい!」
「いいぜ。アンタは気に入った。仕事が終わったら会わせてやるよ。」
「ありがとう。約束よ。」
「ちょっと聞きたいんだがよ、あんたは一体誰なんだ。」
「紹介が遅れたわね。怪獣対策機構調査員のミスティよ。」
「怪獣ってのはどういう奴らなんだ。」
「怪獣‥簡単に言うならば巨大で、常識の通用しない生き物、そして大半が地球生態系に大きな害をもたらす存在よ。」
「その通り!だからオレ様が片っ端からのしてやろうってわけよ。」
「話の分かる怪獣がいて助かったわ。あなたたち。私たちと一緒に行かない?世界中を旅してたなら悪くないはずよ。食事も出すし仕事も与えるわ。」
「よぅし決まった!怪獣ぶっ殺しツアーの始まりだぁ!」
「マーク、俺、少しワクワクしてきたかもしれない。」
「もう何でもいいよ‥」
「さぁて‥行くとするか。」
「待って。あなたに個体識別名を与えるわ。怪獣にはみんなついてるの。先ほど現れた奴は「セベク」よ。エジプト神話のワニの神からとったの。そうね‥あなたの名前は「カイアレアレ」なんてどうかしら?ハワイの民話に登場するサメの王様よ。」
「貝‥あられ‥汁‥」
「気に入らない?『ミシュナーマ』っていうのは?北アメリカの伝説のサメの怪物よ。」
「みそ汁‥生‥」
「ミスティさん、コイツの知能程度に合わせた名前の方が‥」
マークが小声で言う。
「『ギガントシャーク』はどうだ!分かりやすいだろう」
ブレットが言う。
「それなら好きだ!カッコいい!」
「それで決まりでいいか?」
「いい!好きだ!」
サメ怪獣ーギガントシャークは快諾した。
「それじゃあ行くぜ!」

日本、北海道の雪が降り積もる山地に、轟音が響いた。山の岩肌にひびが入り、白い毛で覆われた剛腕が姿を表そうとしていた。

数日かけてエジプトから日本という無茶な航海をした一行は北海道の北端に近い場所に辿り着いた。海から少し離れた場所に鄙びた田舎の村があった。小さな学校が一つ、商店が一つ、あとは民家という過疎化した寒村である。サメたちは海が冷たくなるに連れ離れていき、ネズミザメが数匹とウバザメが一匹残るほどになった。
「オレタチ ツイテイケルノ ココマデ」
「アニキノケントウ イノッテル」
「ブジニ モドッテコイヨ」
「安心しな。オレ様が負けるわけねぇ。」
サメたちは身を翻して去っていく。
「サメと会話ができるのね。」
「奴らと話せるのは世界でオレ様だけだ。」
「そう、うらやましいわ。人間も話せたら無駄にサメを殺さずにすむのに‥」
ミスティがそう呟く。
「おい!シャークが上陸したら目立っちまうぞ。」
ブレットが言う。
「心配はいらねぇ。怪獣が出るまでは隠れてるぜ。世界中の沿岸部に隠れ穴を掘ってあるからなぁ。」
「そうか。大人しくしてろよ。」
一行は上陸し、村に辿り着いた。
「あの山の断崖から凄い生命反応が検知されている。復活しつつあるわね。」
ミスティがアンテナとモニターのついた機械を山の方に向けながら言う。
「急がないと‥」
一行は雪で覆われた畦道を歩いて行った。
一方、村の学校の使われていない旧校舎の中には、二人の少年がいた。
「おい。まずいって。先生にバレたらヤバいぞ」
「平気だよ。今日は休みだもの。一度旧校舎を探検してみたかったんだ。」
少年たちは軋む木製の床を踏みながら古びた校舎を探索していく。すると突然、山の方から轟音が響いた。驚いた少年たちが窓からその方向を見ると、山が音を立てて崩れ始めていた。そして岩肌を突き破り、拳が飛び出した。白い剛毛で覆われた巨大な何かが山から出てきたのだ。雪煙の中からその姿が顕になる。体毛は真っ白、二足歩行で顔はニホンザルに似て青黒く、目は青く輝いている。体はゴリラのように筋骨隆々で頭にはヤギのような曲がった角が生えている。
「おい‥何だよアレ‥」
グァオオオオオォォーン!
巨獣は咆哮し、木々を踏み荒らしながらこちらに向かってくる。
「か、怪獣だ!」
「逃げろ!」
怪獣はまっすぐこちらに迫ってくる。二人が逃げようとしたその時、雪煙を立てて巨大な逆三角形の背鰭が現れた。
「待ってたぜぇ!」
背鰭の主が雪の中からその巨体を現した。それはサメが立って歩いたかのような怪獣だった。
「おらぁ!」
サメの怪獣ーギガントシャークが体当たりをかまし、白い大猿の体が横倒しになる。ギガントシャークは大猿に馬乗りになり、その顔を何度も殴りつける。そして今度は角を掴み、地面に何度か叩きつけた。
「オレ様最強!イェーーーイ!」
「なんか‥テレビのヒーローみたい‥」
「ちょっと荒っぽいけど‥」
少年たちが言う。
しかし、大猿は少し怪我をしただけでほとんどダメージを負っていないようだった。すぐに起き上がり咆哮する。
グァァァァッ!
「シャーク!戦況はどう?」
ミスティから無線が入る。ギガントシャーク鼻先のロレンチーニでそれを受けた。
「このエテ公、意外とタフみたいでな‥中々大変だぜ。」
「今、村の人たちの避難誘導をしてるところよ。怪獣の個体名は『クランプス』よ。すぐに電磁レーザーで援護するわ。」
ミスティはトレーラーの荷台についたパラボラ状のものからレーザーを発射し、クランプスに当てたが、ダメージは少ないようだ。
「マーク、ブレット!仕事よ!これを持ってちょうだい!」
ミスティはバズーカ砲を二人に手渡した。
「俺たちこんなもん持ったことねぇぞ!」
「大丈夫。簡易バズーカは誰でも撃てるから。そこのスコープで照準を合わせてスイッチを押せば発射される。」 
ブレットはバズーカの照準をクランプスの胸に合わせて発射した。バズーカは見事命中して爆発したが、その胸板には傷一つついていない。
「全然手応えがないぞ!」
「硬いヤツだ‥」
グァァァァァァァァッ!
クランプスが吠えて雄々しく胸を叩くと、あたりに衝撃波が走る。そしてクランプスは再び進撃していく。
「させるか!」
ギガントシャークが立ちはだかり、クランプスを止める。そして
「サメハダショック!」
と叫び爪で引っ掻くとともにざらざらした楯鱗で顔面を攻撃する。
グァァァァァン!
クランプスは顔を押さえて倒れ、森を潰しながら倒れる。雪の上に緑色の血が飛び散る。
「シャーク!避難状況なんだけど、子供が二人、まだ避難所に来ていないみたいなの!周りに気をつけて戦って!」またミスティから無線が入る。
「なんだって?豆ツブのガキなんかのために‥」
「もし彼らにもしものことがあったら、あなたを駆除対象にしなければならなくなるわ!」
「そいつは大変だ!」
シャークはクランプスが起き上がらないうちに辺りを見回した。すると木造の古びた建物の窓から二つの小さな顔が覗いているのが見えた。
「おいそこのクソガキども!早く逃げろ!巻き込まれるぞ!」
「だって怪獣バトル見たいもん!」
「バカ!テレビじゃねえんだ。死ぬぞ!」
「デカサメマン!後ろ!」
「なんだよその名前‥ってうおっ!」
グォォォォォォォォォーン!
クランプスが起き上がり、猛然と突進してきた。ギガントシャークはその両手を掴んで相手を押し出そうとする。やがて戦いは取っ組み合いに発展した。
「いいぞバカデカザメ!」
「やっちゃえフカヒレパンマン!」
「うるせぇぞガキども!早く逃げろ!そしてオレ様はギガントシャークだ!」
クランプスの連続パンチが二発ギガントシャークの顔面に直撃する。
「ぬあっ!」
シャークも負けじと爪で引っ掻く。怯むクランプスだが、すぐにまた殴りかかってくる。シャークはその太い腕に噛み付くが、すぐに振り払われる。そしてクランプスが息を大きく吸ったかと思うと、拳がみるみるうちに凍りついていった。そして分厚い氷で覆われた硬い拳を振り翳して襲いかかってくる。その拳をまた顔面に受けたシャークは倒れ、雪の上にペッと血の混じった唾を吐く。クランプスは拳を振り回しながらまた殴ろうとしてくる。
「殴るしか能がねぇのかよ‥」
シャークは口元の血を拭う。
「それならこっちにも手があるぜ‥」
シャークは両手を上にあげ、手のひらからバリバリと電撃を発し始める。そして帯電状態の拳を握りしめ
「シャークエナジーパンチ!」
と叫び、クランプスを二発殴る。普通のパンチとは桁違いの衝撃波が走り、その体が山肌に叩きつけられて、雪煙が立つ。
「さぁて、こんどは海に届くかな。」
シャークの背鰭が青く輝き、光線が飛び出す。
「シャークサンダー!」
青い光線がクランプスの道に直撃し、そのまま山々を突き破り飛ばされていく。しかし、海まで後少しというところで山の一つに激突し、クランプスは体液を撒き散らして爆散した。
「またやっちまった‥」
シャークは頭を掻きながらそう言った。
「やったー!」
「デカデカザメが勝ったぞー!」
「ビッグカマボコの大勝利!」
「お前らまだいたのか!あとな‥オレ様はギガントシャーク!」
その後子供たちは家族や教師にこっぴどく叱られた。ブレットたちは村を後にし、皆シャークにお礼を言った。村の建物には一切の被害がなかったからだ。その後、怪獣対策機構は世界に怪獣の存在を発表。自然災害の一つとして各国軍に対策を呼びかけ、シャークが味方であることも公表した。セベクの死骸がこびりついたピラミッドは名所となり、怪獣災害の記憶として残されることになった。シャークたちの物語の序章はまぁこんな感じである。


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