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終のすみかの乙女たち 「脳トレ」

「はい、どうぞ。脳トレでーす」と、職員が利用者にプリントと鉛筆を配る。
利用者は午前中のお昼までの時間、食堂で自由に過ごす。
テレビを見ている人、新聞を読んでる人、編み物をしている人などさまざま。
暇を持て余している人には、脳トレのプリントが配られる。
ここで配られる脳トレプリントは同じものが配られる。要介護度によって特に分けたりはしていない。文字が大きくこんな感じ。

脳トレ

みんな素直に配られたプリントを受け取り取り組んでいる。
プリントを受け取ったユリ。
「いつもこんな幼稚なのばっかりやらせないで、もっと難しいが欲しいね。
私ら小学生じゃないんだから」大きな声で文句を言う。

「じゃあ、あなたこれやってみない?」
ユリが振り返ると、白髪に眼鏡をかけた小柄が立っていた。
年の功は90を超えているだろうか。
女性はユリにクロスワード雑誌を見せた。このような。

数独

ユリは眼鏡をかけ、クロスワード雑誌を見る。しかし細か過ぎて見えない。

女性は小村さんと言う。小村さんはすごいのだ。
去年まで杖歩行だったし、いつもウトウトしていた。
けど、90歳を前に、歩行の練習を重ねクロスワードもこつこつ続けて、
杖が無くても歩けるようになり、難しい数独も楽しむようになったスーパー90歳。

残念ながらユリにはこのクロスワードはさっぱり解けなかった。

「簡単なものからやった方が良さそうだね」小村さんはユリにそう言い放ちニヤリ。
そしてゆっくり去って行った。

ユリは何か言い返したかったが、言葉が出てこなかった。
そしてユリは、大人しく脳トレプリントをはじめた。

the end


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