神照寺 十一面観音菩薩坐像

 雪が消え、琵琶湖を渡る風はまだ幾分冷たいものの、日差しに春を感じられるようになった頃、伺いました。
 真新しい本堂に通され、前住職から様々なお話を伺いました。このお寺には、十一面観音様の他にも、廃寺になった3つのお寺から仏様が集まっているので、本尊さんも3つであることや、檀家さんが20軒であることなど、教えて頂きました。
 前住職はたいへん書に秀でた方のようで、お書きになられた物が、掛け軸や額装されて、本堂のあちこちに、掛けられていました。そして、書かれたものの意味どころか読むことすらできない私に、一つ一つ丁寧に説明して下さいました。

 「観音の里」と言われる長浜には、素敵な十一面観音様がたくさんいらっしゃいますが、その中でも、写真で見て、どうしてもお会いしたかった十一面観音様でした。

 
 十一面観音様は、写真で見たままのお姿でした。高さ30センチの可愛い観音様は、こちらを向いて手を上げておられました。近くで拝見すると、その手が小さく、また、指も短く、幼児の様です。
 ふくらんだ頰に、団子鼻とつぶらな瞳をされています。頭の上の小面も小さな子どもが誕生日に、王冠をかぶっているようにしか見えません。

 この十一面観音様は、元は、この地区の香取神社の神宮寺に祀られていたもので、明治時代の廃仏毀釈で神宮寺が廃寺になり、神照寺に移されたのだそうです。
 隣に祀られている鬼子母神様と十羅刹女様も、同じ時に神宮寺から移されたそうですが、よく見ると、十一面観音様のお顔が鬼子母神様や十羅刹女様のお顔と、とてもよく似ています。どちらも鼻が団子鼻で、可愛い瞳なのです。
 鬼子母神様は子どもや安産の神様だから、お顔が優しいのかなと思いました。
 比べて見ていると、どちらかが先に造られ、もう一方は、後からそれに倣って造られたのかなと思えてきました。

 それにしても、どうしてこんなに可愛い仏様を造られたのでしょうか?

 何処にもない、平和そのものようなお顔を見ていると、自然とこちらも笑顔になってきて、世の中には悪いことは起こりようがないように思えてしまいます。
 毎日、この仏様を拝んでいたら、日常生活で、少しくらい嫌なことがあっても、「まーいいか」と思えそうな気がしてきます。
 もしかしたら、この仏様を造られた方も、案外、拝む人たちがそう思ってくれたらいいなと、思いながら、造られたのかもしれません。

 「どんな時も、スマイル、スマイル。にっこり笑って!」それが、この仏様の御利益なのかなと思いました。

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 滋賀県長浜市には神照寺と云う同名のお寺が他にもう1つあります。どちらも曹洞宗のお寺です。今回伺ったのは、西浅井の神照寺さんです。
 (長らく、西浅井は長浜市ではありませんでしたが、平成の大合併で西浅井も長浜市になり、何だかややこしいことになっています。)
 時々、お間違えになられる方がいらっしゃるようです。拝観の際は、お気をつけください。