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【カミーノ巡礼】サンティアゴ・デ・コンポステーラまで800km歩いてきた(フランス人の道)

サン・ジャン・ピエ・ド・ポー(ゴールまで800km)

フランス人の道、スタート地点

フランス、バイヨンヌのホテルを朝早く出発し、10時頃にスタート地点のサン・ジャン・ピエ・ド・ポーに到着した。巡礼事務所で色々と説明を受け、巡礼者の目印にもなるホタテ貝も手に入れた。ようやく!全800kmの最初の一歩目を踏み出すことができた!

巡礼事務所の様子

フランス人の道における最初の難関が、初日のピレネー山脈越え。冬には毎年ここで遭難し、亡くなる人もいる。景色や動物を眺めたり、音楽を聴いたりと、自分にとって心地いい巡礼スタイルを探しながら進む。10kg近くあるバックパックの軽く感じる持ち方も試行錯誤した。早く着きたくてほとんど休憩せずに歩き続けた。道中で他の巡礼者と出会った時は「ブエンカミーノ!」と声をかける。「巡礼楽しんで!」みたいな意味。ラテン系の人たちは、人生を楽しもうとする前向きな力の強さを感じる。

目印があるので道に迷わない

到着したのは16時。途中までは楽勝だと思っていたのに、だんだん山が急勾配になってきた上、雨が降り始めてきて到着した時はもう一歩も歩けないくらい疲れ果ててた。でも、道を間違えた時に教えてくれたおじさんや休憩中にバナナをくれた巡礼者に出会えたりして、心はほっこりしていた。みんながみんなを応援し、応援されて進んでる。1ヶ月間の長い旅がようやく始まった。

アルベルゲ内の様子

アルベルゲ(夕食、朝食込み) 32ユーロ

ララソアナ(ゴールまで755km) 

ゴールまではハイペースで歩き続け、最速ゴールを目指そうと意気込んでいた。多くの巡礼者が設定する街よりも、より先の街を目指して歩いた。道中は、昨日バナナをくれたドイツ人デイビッドと一緒だった。大手スポーツショップの法人営業を4年間続けていたのを辞めて、今後の人生で自分がやりたいことを見つけるためにこの道を歩きに来たらしい。

巡礼2日目の朝

ララソアナという人口100人ほどの小さい街に到着した。アルベルゲのベッドにバックパックを降ろし、一息ついた。アルベルゲにはまだ誰も到着していなかった。ベッドの上でこれからのことをボーッと考えていると、いつのまにか寝てしまっていた。
目を覚ますと、他の巡礼者が到着していた。イタリア人、オランダ人、イギリス人2人の合計5人。巡礼者はヨーロッパ系の人と韓国人、台湾人で大半を占めていた。韓国と台湾ではなぜかこの巡礼路が人気らしい。他のアジア圏の人もちらほらいたが、日本人はいなかった。ヨーロッパから来た5人組と一緒にスーパーに買い出しし、晩ごはんを作って食べた。「日本人は米を炊くのが上手だよな?」ということで、白米担当を任された。みんなでご飯を作って食べるのって、いつぶりだろう。旅していた時には出来なかったことを、もうすでにこの巡礼路で出来ている。

アルベルゲのベッドと荷物

夜、明日の計画を立てる。「どこまで行こう」「この山道は大変かな?」と、考えることは多い。でもなんか計画するのも疲れてきた。計画通り歩くことになんの意味もないと思えてきた。そして計画立てるのをやめた。ついでに、最速ゴールなんていいやとも思った。なにに急いでたんやろう?時間がかかってもいいから、自分のペースでゆったり進めればいいや。一生懸命早く進んでも、ダラっとゆっくり進んでも、行き着く先は同じサンティアゴということを忘れてしまっていた。
イギリス人の男の子が言ってた「大きな挑戦こそ、楽しまないとね。」

お菓子 3ユーロ
アルベルゲ 15ユーロ
ビール 1ユーロ

パンプローナ(ゴールまで711km) 

7:30ごろにアルベルゲを出発。サンティアゴからフランスに向かって逆走する人に出会った。1分くらいしか話さなかったけど、ニコニコで楽しく喋る素敵な人だった。道が分からなくなった時、散歩してたおじいちゃんが教えてくれた。人生みたい。間違えそうになったら、いつも誰かが正してくれた。

ひたすら続く一本道を歩く

パンプローナのアルベルゲで、ルーマニア人のガビに出会った。洗濯用の洗剤がなくて困っていたら、一緒に洗濯してあげるよと言ってくれた。彼女は経営している英語教室を従業員に任せて、夫と子どもをおいて巡礼に来たらしい。「街を散策しよう」と誘ってくれて、ぶらぶら雑談しながら散歩する。一緒にケバブを食べて、「また明日からお互い頑張ろうな」と言って解散した。

カラフルで美しいパンプローナの街並み

パンとハム 2ユーロ
アルベルゲ 11ユーロ
ケバブ 9ユーロ
朝ごはん用のパン、ハム、チーズ 7ユーロ
ビール 0.76ユーロ

プエンテ・ラ・レイナ(ゴールまで687km) 

日本の友だちと電話するために、12時過ぎには到着しようと頑張って歩いた。今、できることはただ歩くだけ。それに気付いてしまって、「友だちとお酒飲みながらダラダラする」みたいな俗世的なことを無性にやりたくなった。意味もなく集まって、内容のない話をするだけの時間が、今となっては恋しい時間に変わった。
街に到着して、日本の友だちと電話した。日本語でストレスなく話せるありがたさを実感した。時差の関係でスペインはお昼なのに、日本は夜。遠いところまで来たな。離れて気づくことが、たくさんあった。

道中で見つけたおしゃれしたサボテン

ファンタ 2ユーロ
アルベルゲ 9ユーロ
晩ごはん 15ユーロ
フルーツ 4ユーロ

エステラ(ゴールまで665km) 

22km歩いてエステラへ。半分くらい歩いたところで、ふと後ろを振り返ると、遠くに山が見えた。山頂には風車何本もたっていた。そういえば、昨日登った山の頂上に風車があったな。もしかして、昨日の山かな。こんな遠くまで歩いてきたんや。ゴールまでの距離は確実に減っていってる。でもまだまだ数字が大きすぎて、実感がわかない。

デイビッドと黙々と道を歩く様子

デイビッドと行ったバルで、50〜60歳代のグループと出会った。グループの内の1人が誕生日らしく、パーティをすることになった。ついさっき出会った人の誕生日を祝う不思議さにちょっと笑える。パーティではみんな子どもみたいにふざけて、無邪気に喋って笑っていた。自分で自分が楽しいと思えることに向かっていく力が高いなと思った。自分が幸せになることに対して、遠慮する余裕なんてないもんな。

デイビッドとワインで乾杯

パーティが終わり、デイビッドとアルベルゲに帰る。彼は脚が痛いらしく、療養のためにこの街でもう一泊するらしい。
「そしたらもう、今日で会えるの最後やね」と言うと、「いや、また会いたいからタクシーで追いかけるよ。」って。
そうか、なんでもありなのがカミーノだったね。

誕生日パーティの様子

教会でのローソク 0.5ユーロ
パンとサラダ 6.3ユーロ
バルのビール 2.2ユーロ
晩ごはん 16.5ユーロ
パーティ代 15ユーロ

ロス・アルコス(ゴールまで643km) 

昨日のパーティで出会ったアメリカ人マイケルとアイルランド人ロバートと3人で歩き始める。「昨日は会えて嬉しいかった!」っていう、ストレートな嬉しい言葉をかけてもらう。どうでもいいことで笑い合いながら歩いた。どうでもよすぎて、なにで笑ったかは忘れてしまった。

グレーがマイケル、黄色がロバート

「なぜ歩くのか」という話題になった。「お母さんが3週間前に亡くなったんだ。彼女の夢はこの道を歩くことだと言ってた。なぜかは上手く言えないけど、歩くことを決めたんだ。」と、マイケルが話してくれた。
ロバートもガンで家族を亡くして、人生の意味を考えるためにここに来た、と言っていた。「確かに、俺は悲しい理由でここに来たよ。でも今、俺たちはこうやって笑ってる!」って元気に微笑んでた。「でも最初は死ぬほどビビってたんだ。1人で全部歩けるのかな。友だちが出来なかったらどうしようって考えてたよ。今はこんなに笑えてるのにね。」とも言って、また笑ってた。

周りには他の巡礼者が歩いてる

カフェ代 3.5ユーロ
アルベルゲ 9ユーロ
スーパー食材 12ユーロ

ログローニョ(ゴールまで615km) 

今日もマイケルとロバートの3人で一緒に歩く。おじいちゃん2人を引き連れてゆったり歩くのが心地いい。大声で歌いながら歩いたり、大爆笑しすぎて歩けなくなったりした。その瞬間は自分達が最高で最強になってる感覚があった。

ワールドクラスの陽気な人々

歩き進めていると、亡くなった人を祀るところに着いた。石が積み上げられ写真が添えられていたり、思い出のものが木に引っ掛けられたりしていた。普段は陽気な2人が黙り込んで、それぞれ何かを思い出してる様子でいた。マイケルはいつもはしていないサングラスをかけていた。

亡くなった人のために歩く人も多い

ポテチ 1.2ユーロ
アルベルゲ 10ユーロ
スーパー食材 7.8ユーロ
寄付 0.5ユーロ
ワイン 2.1ユーロ

ナヘラ(ゴールまで586km) 

オランダ人の女の子と出会った。考え方がしっかりした、独立心の持った人だった。スケジュールの関係で、ゴールまで半分くらいの街でオランダに帰るらしい。
「ゴールすることよりもプロセスの方が大事だから。」って言っていた。人と会って話し、色んなことに考えを巡らせる。そういうプロセスにこそ本当に大事なものがあるのかも知れない。そういう意味で、ゴールは虚像かもなのかも。これまでゴールを目指しすぎてた。

巡礼路には色んな言葉が書かれている

街に着いてアルベルゲで休憩してると、韓国人のおばちゃんが「今日はタクシーに乗ってしまった。って悲しそうに話しかけて来た。「それもカミーノやから、問題ないよ」って言ったら、「でも私はズルしちゃった」って。
やっぱりアジア人は真面目すぎるのかも。どうしても真面目になりすぎちゃう。分かるよ、その気持ち。おばちゃんを見て、自分のことを振り返ることができた。「もっとリラックスしようよ」っておばちゃんに言ったけど、本当は自分に向けて言った。

お肉屋さんのお茶目な一枚

カフェ 3.8ユーロ
スーパー食材 7.4ユーロ
アルベルゲ 6ユーロ

グラニョン(ゴールまで559km) 

韓国人のレオと出会った。26歳で親と一緒に農家をしてるらしい。彼は自分の人生で何か達成したと言えるものを作りたくて、巡礼旅に来た。「これからの人生で、自分に何ができるかを考えながら歩いてる。でもそんなの、別に見つからなくてもいいんだけどね。」って言ってた。話しながら歩くとめっちゃ早くて、楽にグラニョンまで着いた。

春らしい空と土地

カミーノ巡礼の象徴になっているホタテの意味を初めて知った(諸説あるらしいけど)。韓国人レオから聞いた理由によると、貝には「守る」意味があるらしい。歴史的に(宗教的に)そういう逸話があるらしい。また、巡礼者を色んな苦難から守るという意味合いも含まれてるとのこと。「守る」かあ。なぜかよく分からないけど、この意味がすごく気に入った。

サンティアゴへの道のりはまだまだこれから

教会前の広場のベンチに座り、猫を眺めながらミサが始まるのを待っていると、地元のおじいちゃんとおばあちゃんが話しかけて来た。スペイン語しか喋らない2人がなにを話してるか分からなかったけど、心地いい太陽の下で20分くらい3人で談笑した。明日はもう10日目。早いような、短いような。

新しくできた地元の友だち

スーパー 4ユーロ
カフェ 1.8ユーロ
アルベルゲ 5ユーロ
バル 14ユーロ

ビジャフランカ・モンテス・デ・オカ(ゴールまで531km) 

日本語を少しだけ話せる台湾人の女の子と道中で一緒になった。日本語で話ができるというだけで、自分の中の心理的距離感がすごく近くなった。同じアジアということもあってか、英語もなんとなく伝わりやすい気がする。英語が母国語の人たちは、こんなに心地よく、楽に歩いてたのか。英語でもストレスなく喋れるように頑張ろう。

過去の巡礼者のメッセージにも背中を押されてる気分

13時ごろ、街に着いた。14時から16時ごろは、シエスタ時間で閉まってしまうスーパーが多い。晩ごはんの食材を買うために、スーパーの近くにあるベンチでシエスタが終わるのを待っていると、韓国人と台湾人の女の子がやって来た。一緒にベンチに座って喋りながら待っていると、スーパーが開いた。適当に晩ごはんと次の日の朝ごはんを買ってスーパーを出ると、さっきの2人が待っててくれていた。なりゆきで、一緒に晩ご飯も食べる。いつもとは違った雰囲気でほっこりほんわかした。というのも、欧米系の女性はガタイがよく、声が大きくて、野生的な人が多い。そんな人たちを見慣れてしまった中でアジア人を見ると、全員が可愛らしく見えてくる。身なりをしっかり整えていて、清潔感があるように見える。グループの輪を大切にするような気遣いも感じられる。海外で日本人女性が人気だというのも大いに納得した。

サンドイッチが美味しかった

アルベルゲ 15ユーロ
カフェ 4.3ユーロ
スーパー 7.4ユーロ

ブルゴス(ゴールまで493km) 

今日は38kmという長距離を歩いて、ブルゴス目指すことにした。多くの人はブルゴスまでの道のりを2日に分けて歩く。一部のチャレンジャーは1日でそれを歩く。1日で歩けるのは間違いないと思っていたものの、ケガや疲労のリスクもあり、若干の不安はあった。そもそもそんな挑戦に意味があるのかも分からない。でも、出来ると思ってるのになぜやらないの?って自分に問いかけてしまう。そんなに大きな挑戦というわけでもないけど、歩ききって自分を肯定したかった。

カミーノらしさを表した絵

ブルゴスまで5kmほど手前のところで、おもしろアフロに出会った。イタリア育ちのアメリカ人オリバー。イタリア人らしい陽気なマイペースさと、アメリカ人らしいイカれたところを併せ持ったやつ。朝誰よりも遅く出発し、誰よりも道草をしながらゆっくり歩き、結果的に20kmを9時間かけたりするようなぶっ飛んだアフロだった。道中でなにしてるの?と聞くと「朝ごはんをゆっくり食べた後、道の植物や虫を観察しながら歩く。お昼はお酒を飲むから午後の歩くペースは落ちる。家族に電話もしなくちゃいけないし、面白そうな店に入ってたら、いつも遅くなっちゃう。」って話してた。「あとさ、この杖を完成させないといけないんだ。」と、手作りの木で出来た杖を見せてくれた。木の皮をめくり、やすりがけをし、丁寧に飾り付けまでしている。どこかで針金を手に入れたい。杖に巻いて補強したいんだ、と今後の計画まであった。ミュージシャンになりたいという夢やマリファナがいかに最高か、一番酔い安いカクテルの作り方など、色んなことを歩きながらずっと喋ってた。
「先週、道であった人におすすめのアルベルゲを教えてもらって泊まろうとしたんだ。でもその時に気づいた。俺はまだ6kmしか歩いてなかった。メチャクチャ迷ったけどもう少し歩くことにしたよ」っていうオリバーの話には笑った。

おもしろアフロと一緒にブルゴス着いた

ブルゴスのアルベルゲに到着したのは16時くらいになった。これまでで1番しんどかった。足の甲が赤く腫れて痛かった。痛すぎて、これから本当に歩き続けられるか不安になった。まともにストレッチしてこなかったのを少しだけ後悔した。
夜はデイビッドと再会した。お酒を飲みながらお互いの近況報告をした。デイビッドはカミーノの後、仕事をしながらお金を貯めて世界中を旅することにしたらしい。イギリスからエジプトへ、そしてインド。インドから香港。そこからアメリカに渡る計画らしい。みんな、ここで考えて人生を決めていくんだな。

ビールを賭けたサッカー盤でデイビッドに負けた

カフェ 1.4ユーロ
ランチ 4.8ユーロ
アルベルゲ 10ユーロ
ディナー 6.95ユーロ
ビール9ユーロ
ビール3ユーロ
スーパー2.78

オルミージョス・デル・カミーノ(ゴールまで472km) 

朝、ほとんどの巡礼者が出発する頃、オリバーは鼻歌をうたいながらシャワーを浴びてた。オリバーにまた会おうと言って、先に出発した。
歩き始めたものの、足の甲が痛すぎて歩けない。2時間かけて2kmくらいしか歩けなかった。このままだとヤバいと思いながらも、別の移動手段を試すいい機会だとも思った。大きな道に出たところで、親指を立ててヒッチハイクを始めてみた。開始10分ほどで赤いベンツのお兄さんが止まってくれた。娘を幼稚園に送りに行った帰りだったらしい。最寄りの街まで4kmくらい乗せてもらった。

ベンツに乗って進む巡礼

今日はもう歩くのは辞めようと思いつつ、アルベルゲがまだあいてなかったのでカフェで過ごすことにした。そのカフェで、ベルギー人のおばあちゃんとフランス人のおじいちゃんに出会った。足の甲が痛くて歩けないんだということを話すと、「靴を脱いで締め付けをとりなさい」「サンダルがあるなら、履き替えたら歩けるかも」「この薬は痛みに効くからつけてみな」って色々助けてくれた。そしたら面白いぐらいに良くなって、再び歩き始めることが出来た。助けてくれたおばあちゃんとゆっくりペースで歩く。夫が亡くなり、子どもが外国に働きに行ってしまい、家に一人になってしまったらしい。自分の新しい人生が始まった。これからなにをするのか、それを考えながら歩いてるって話してくれた。

たくさんの人に助けてもらって続けることができた巡礼

巡礼旅で、初めてこんなにゆっくり歩いた。これまでは、常に誰かを追い抜かし、アルベルゲに到着するのも1番早いことが多かった。もっと遅くに着いても問題がないことは分かっていながらも「早くアルベルゲに着いて洗濯したいな」とか「休憩するのは後にして、もうちょっと歩こう」とか思って、ペースを落とすことはしてこなかった。オリバーが「みんな、道を歩くことばかり考えていて視野が狭くなっている。もっと色んなものを楽しまないと」「早く着いて何するの?ベッドの上でスマホ見るだけじゃないのか?」と言ってたのを思い出す。実際、ゆっくり歩いたことで景色や動物を楽しむ余裕が生まれた。自分とは違うペースで歩いていた人に、新たに出会うことも出来た。いつものペースを変えたところで、なにも大変なことは起きなかった。むしろ、いつもと違うものが見えた。規律のあるルーティンもいいけど、面白みのあるカオスも楽しかった。

ゆっくり歩きはじめて、色んなものが見え始めた

15時ごろ、ようやく街に着いた。やっとの思いで20kmの道のりを歩ききった。歩くペースが同じくらい早く、よく一緒に歩いた友だちはみんな先に行ってしまった。洗濯を終え、昼寝して、晩ごはんを作って食べた。やることがなくなり、アルベルゲの外にある階段に座ってボーッとしていると、なんとオリバーがボロボロになりながら歩いて来た。夜の19時。20kmを11時間かけてきた。

写真左奥の角からオリバーがひょっこり現れた

常軌を逸したマイペース。オリバーと出会う前は、19時に到着するなんて、とんでもない大変なことが起こると思ってた。焦りも感じる。そもそも選択肢として思いつきもしない。そんなあり得ないことを目の前でやってる奴がいた。「スペインでおもろすぎるやつ見つけたよ!」って、日本のみんなに自慢したかった。自分が見ていた世界の角度が変わった。「こうしなきゃいけない」「ちゃんとしないといけない」「こうなったら困る」みたいな言葉で自分をいつのまにか縛ってしまっていた。すごいやつに出会ってしまった!と、ワクワクした。人に出会うだけでワクワクすることがあるなんて。今でも思い出せる、19時にアルベルゲに向かってくる人が見えた時のこと。それがオリバーだと気づいた時のこと。その瞬間に感じた興奮。この道を歩いてよかった!

ケーキとワインで人生を楽しむ

モンスター 2ユーロ
アルベルゲ 13ユーロ
スーパー 11ユーロ
バル 3.8ユーロ

カストロへリス(ゴールまで453km) 

二段ベッドの上にオリバーは寝ていた。ベッドの柱に引っ掛けていたウインドブレーカーが邪魔かもなと思い、「ソーリー」って言いながら回収したら、「あぁ、気が付かなかった。」って。枕元のすぐ横に他人の服がかかってたら少しは気になるだろうに、嫌どころか気付いてすらいないなんて。朝から衝撃を受けた。

巡礼スタートの朝

アルベルゲでは台湾人のエリンという女の子にも出会った。今日の巡礼路は
オリバーとエリンの3人で歩いた。みんなで道を外れて遺跡を眺めたり、カエルを見つけて観察したりと、ゆったり楽しみながら歩くことができた。オリバーが「やったことが時間の無駄だったとしても、自分の時間だから良いんだ」って言ってた。シンプルで効率的な物事は素晴らしい。でも、魅力を感じるのは一見無駄に見えるものにこそあるのかもしれない。

エリンとオリバーと昼ごはん休憩

夜、オリバーがアルベルゲでカルボナーラ作ってくれた。イタリアのどのレストランで食べたパスタよりも美味しかった。ご飯の後、屋根の上に出て、星を見ながらお酒を飲もうかという話になった。オリバーと話していると、人生を楽しむための案が色々と浮かんでくる。他の巡礼者が寝静まったのを見計らって、こっそり屋根の上に出た。空の星を眺め、車が遠くで走ってるのを感じ、遠くで人々が道で騒いでるのを聞いていた。3人とも何も話さず、スペインの田舎で目の前に起こっていることを、ただただ感じていた。

カストロへリスでの静かな夜

朝ごはんのカフェ 7.6ユーロ
アルベルゲ 10ユーロ
スーパー 6.44ユーロ
スーパー 4ユーロ
晩ごはん 4ユーロ

フロミスタ(ゴールまで428km)

歩きながら、オリバーが「日本に帰ったら忙しくなるね」と呟いた。「そう、これが人生最後のバケーションになるかも」と返した。この旅が終われば日本での生活が始まる。こういう場所にいれるのが、もう人生においてあまり残されてないかもしれないということに気が付いた。

山を登り切ってひと段落

フロミスタという街に着いた日の夜、オリバーとエリンの3人で外を散歩した。歩き疲れて、公園のベンチに3人が横並びに座った。すると、オリバーがおもむろに話し始めた。
「こうやってここに3人といれることが嬉しい。言葉が違うから、上手くコミュニケーションが取れないことがあったけど、君たちが好きだ。これからの人生は複雑で難しい。みんながそれぞれ問題を抱えているし、それぞれやりたいことがある。一緒に歩く中で、そんな話を聞けたことがすごく嬉しかった。昨日の夜、僕たちは屋根の上でスペインの空を見た。教育もバックグラウンドも違う。なのに同じ時間を同じ気持ちで過ごしていたように思う。リスクをとって、人の目を盗んでこっそり外に出た。何気ない景色だったけど、最高に見えた。あんな綺麗な景色はない。カミーノ巡礼を友達に誘ったら興味を持つ人はたくさんいるだろう。でも800kmを歩くなんて無理だと言って、ほとんどの人は来ない。でも自分たちは歩くこと選び、ここにいる。言葉でコミュニケーションができなくても、暑くてしんどい中を一緒に歩いたことで少しずつ理解することもできた。僕はアジアに行ったことがない。でも、君たちがアジアのことを教えてくれて、感じることができた。このカミーノが終われば、3人とはなかなか会えなくなる。これからの人生の中で、大変なことに出会うこともあるかもしれない。でも、今はここにいる。お互い連絡を取り合ってまた出会うこともできる。」って。
こうやってを考えてくれていたことが嬉しかった。オリバーの母国語は英語で、イタリア語とスペイン語も話す。巡礼路にはヨーロッパ人がたくさん歩いていて、コミュニケーションを取るのも彼らとの方が簡単で気軽で深く理解できるはず。なのに、全然違う言語を話す台湾人と日本人と一緒に旅をしてきた。また出逢って5日くらいしか経ってないけど、彼らと出会えてよかった。

3人で歩いてると面白い

ベッドの上でオリバーの話を思い出す。あれは本心だったと思う。だから響いた。自分には本心を全てさらけ出す勇気はあるか?勇気を持って相手に伝えたことがあるか?と考えているうちに寝落ちした。

バル 4.5ユーロ
カフェ 2ユーロ
アルベルゲ 14ユーロ
晩ごはん 10.5ユーロ

カリオン・デ・ロス・カンデス(ゴールまで409km)

8時半、マイペースアフロとようやくアルベルゲを出発した。カフェで朝ごはん食べて、歩き始めたのは9時になっていた。オリバーは「急ぎたくない。急いだら大事な瞬間を見落としてしまう」と言って、花の写真を撮ったり、カタツムリを眺めたりしていた。

壁に書かれた文章の意味をゆっくり考える

ある街で、お昼ご飯を食べるためにレストランを探していた。立ち話をしている2人組にレストランの場所を聞いてみると、「この時間にレストランは空いてないよ」と言われた。仕方ないかーってオリバーに言って、次の街に向かおうとすると「アルベルゲでパスタ作ってあげる」と、言ってくれた。アルベルゲのホスピタレイロだったらしい。ゆっくり歩いてたからこそ、立ち話してる2人に出会えた。そして最高の場所で美味しすぎるお昼ご飯を食べることができた。「全てが繋がってるな」って考えていると、オリバーも同じことを言ってた。オリバーは3/24に出発したと言ってた。4/1に出発した自分と、お互いのペースで歩き続けてた結果、たまたま出会うことができた。

特別に作ってもらった最高のパスタ

サンドイッチ 5ユーロ
ランチ  8ユーロ
スーパー 5.58ユーロ
アクセサリー 3ユーロ
スーパー 10.71ユーロ

テラディロス・デ・ロス・テンプラリオス(ゴールまで383km)

一旦オリバーと別れて、自分のペースで歩くことにした。歩きながら、色々と思考を巡らせた。ここ数日のことを自分の中でしっかり消化したかった。これからの旅や、日本に帰った後に自分がやりたいこと、できることを想像しながら歩いた。考えごとをしていると、一瞬でアルベルゲに着いた。考えきった充実感もあるけど、まだまだ物足りない気がもした

花束片手に犬の散歩する街の住民

アルベルゲで出会ったフランス人ユリスに、将来やりたいことについて話していた時、「たくさんあって良いね、でも新しいことを始めるのに、そんなに一気にできる?」って言われた。彼の言葉が頭から離れなくなった。今はまだ、やりたいことをただ単に並べているだけだ。本当にこの先ずっとやりたいと思えることを見つけないと、やること全てが中途半端になってしまうかもしれない。明日も考える日にしよう。

アルベルゲ 12ユーロ
晩ごはん 14ユーロ

レオン(ゴールまで315km)

オリバーと別れてから自問自答しながら歩く時間が多くなった。そんな中で、韓国人のリーと出会った。彼は英語をあまり話せないけど、分かる単語とジェスチャーをうまく使って本当に楽しくコミュニケーションをとる。茂みの中で2人で立ちションした時に、リーが「ヘブン(天国)!」って叫んでいた時は笑った。

おもしろ韓国人のリー

リーは、この巡礼が終わればワーホリでオーストラリアに行くつもりらしい。本当は日本に行きたかったけど叶わなかったという話を聞いて、「日本の給料は良くないよ」って言うと、「お金は大事じゃない。メモリーだ」って言ってた。彼の口癖は「good memory」だった。
最近は多くの人が「日本の給料は低い」とか「オーストラリアへのワーホリで1000万円貯まった!」ってお金のことばっかり言っていて、それに流されてしまってた。大事なのはメモリーか。

立ちションロード

ランチ 2.9ユーロ
ホステル 25ユーロ
スーパー 5.43ユーロ
スーパー 2.85ユーロ

ヒホン(ゴールまで???km)

オリバーとエリンの3人で、電車でヒホンに2泊3日の旅に出かけた。事前に電車のチケットを調べ、Airbnbで最高の宿を予約した。カミーノでできた友達とこんな素敵なことが出来るなんて思ってもみなかった。
宿の居心地が良すぎて、あまり外に出たくない。というのも、ここ20日間アルベルゲで寝泊まりしていたこともあり、自分だけのくつろげる空間がベッドの上しかなかったからだ。ヒホンにいる間だけは、大きなスペースでリラックス出来る。そんな想いで、みんな部屋でダラダラ過ごしていた。
夕方になって、手作りサンドイッチを持ってビーチに出かけた。海で泳いだ後はサンドイッチとビールで日光浴!と思っていたのだが、風が強い上に気温も低く、オリバーが少し海に入っただけで他の2人は入らなかった。
日本風のハンバーグを作ったりもした。完璧なものは作れなかったけど、そこそこ良いものは作れたかな。夜はゆったりビーチを散歩して、バーで最高のレモンビールを飲んだ。

宿でダラダラしちゃう3人

カミーノが始まった頃は、外国人の友だちと一緒に旅行へ行くなんて想像できなかった。外国人しかいない環境下で日本語で話さない生活にも、もう慣れた。そういうことに気付くと、急に満足感が込み上げてきた。あ、もうこの旅を終えていいかも、と段々思えてきた。数ヶ月間、日本に帰ってない。そう思い始めた二日後に、日本行きのチケットを買った。

いきなり始まった街中鬼ごっこ

電車 41.35ユーロ
朝ごはん 9.55ユーロ
カフェ 1.4ユーロ
晩ごはん 17.7ユーロ

ベガ・デ・バルカルセ(ゴールまで173km)

再開したカミーノ巡礼も、いよいよゴールが射程圏内に入ってきたのを感じる。日本行きのチケットを買ってから、帰国後のことを考える時間が増えた。会いたい人、食べたいもの、やりたいことが山ほど出てくる。そうやって日本で暮らしていくうちに海外で感じた感動、改めて沁みた日本の良さ、日本でやりたいと願ってたことの大部分は忘れてしまうと思う。忘れてもいいけど、その度に思い出せるようにしたい。

馬がかわいい

杖 10ユーロ
ランチ 7.5ユーロ
アルベルゲ 10ユーロ
スーパー 10.79ユーロ

フォンフリア(ゴールまで146km)

今日は、山道をひたすら登る日だった。ようやく山頂まで辿り着いたと思ったら、すぐに下山しなければいけない。下り坂は楽なようで、膝にダメージがたまっていく。
山頂近くのカフェで休憩し、出発しようと歩き始めると、「あっ!」と声が出るほどの大絶景に出会った。視界の半分は青空、もう半分は地平線のはるか奥まで続く山。ところどころに道が伸びていて、街が広がっているのが見えた。空を見上げると、太陽の周りを虹が囲んでいて、その真ん中を飛行機雲が突き抜けていた。感動のあまり、他の巡礼者にも「太陽が綺麗だよ」って言った。遠くでは、牛が首につけた鐘のなる音が聞こえる。鳥が羽ばたく音の方を見ると、青い鳥が飛んで木に止まってきた。色々なことが同時に起きている。これまで歩いてきた道の中で一番綺麗に見えた。

んー、肉眼で見る方がいいな…

カフェ 1.6ユーロ
アクエリアス 2ユーロ
アルベルゲ 13ユーロ
晩ごはん 13ユーロ

サリア(ゴールまで115km)

朝から小雨が降る。山くだりで膝が死にそうになる。なんとかたどり着いた休憩所は寄付で成り立ってる場所で、自然派なヒッピーがいそうな雰囲気があった。色んな旅人が立ち寄って、壁やノートにメッセージを残していた。テーブルに書かれたEverything is nothingの意味を考えながら、ジュースをがぶ飲みした。

自然は休憩所

巡礼路は100km以上歩くと、巡礼証明書というものがもらえる。多くの巡礼者はゴールからちょうど100kmほど離れた街サリアから歩き始める。修学旅行生や友だち同士でハイキングがてら歩くグループなど、楽しくワイワイ参加する人が増えた。1ヶ月かけて800km歩こうとしてる人と、5日間で100km歩こうとしてる人とでは雰囲気がまるで違った。巡礼路やアルベルゲでのマナーが一気に悪くなったのを感じた。逆にいうと、これまでがものすごかった。俗世から離れた不思議な道を歩いてたのだなと感じる。

あと100.000km!!

朝カフェ 6ユーロ
寄付 1ユーロ
アルベルゲ 11ユーロ
スーパー 9.53ユーロ

パラス・デ・レイ(ゴールまで68km)

歩き始めてから2時間、雨がどんどん強くなってきた。雨がヒョウに変わり始め、寒くて凍えそうになった。サンダルで歩いてたせいで、靴下が濡れて
足の感覚がなくなってきた。杖を持つ手もびしょ濡れになり、凍傷で指が取れてしまうのではないかと思った。今日計画していた25kmの道のりを全て歩くのは絶対に無理だ!と思いながら歩いた。
身も心も満身創痍で歩いていると、アイルランド人のクロエに会った。彼女はレンジャーの仕事している。雨の日も晴れの日も山の中を駆け回っているらしく、「これくらいの雨には慣れているから、へっちゃら」と言っていた。こんな状況でも楽しめる人がいることにびっくりする。雨は嫌いだと言うと、「サレンダー!そのまま身を任せたら大丈夫」ってアドバイス貰った。どんなに嫌がっても、雨という状況は変わらない。それならもう抗うより受け入れてしまった方が救われる。
(夜、クロエに再会した時に「流石に最後は大変だった」と言っていて、なんだか安心した。)

厳しい雨の中歩く

途中、入ったカフェの暖炉で靴下を乾かさせてもらう。カフェにはタクシーを呼んで次の街に向かう人がいた。心が揺らいだ。相乗りしたら楽に街につける。「もう十分頑張った。これ以上はリスキーすぎる」と、言い訳がどんどん浮かんできた。「今日はいいや」と、一旦はタクシーに乗ろうと決めた。タクシーがくるのを待っていると、だんだんとカフェで身体が温まっていき、歩く力が湧いてきた。結局、カフェで1時間以上休憩し葛藤した後、タクシーを辞めて歩き始めることにした。歩いていると、だんだん晴れてきて気持ち良い青空になってきた。歩く決断をしてよかった。雨の中必死で歩いてる一方で、オリバーのインスタ見ると「工房を見つけて杖を強化したよ」という投稿を嬉しそうに話す投稿をしていた。相変わらず、自分の世界で生きている。あのアフロが魅力で輝いているように見えた。

靴下の炭火焼き

カフェ 5.2ユーロ
カフェ 4ユーロ
アルベルゲ 14ユーロ
スーパー 13.44ユーロ

アルスーア(ゴールまで39km)

台湾人のエリンと彼女のお姉ちゃんのミニーと3人で歩く。エリンとは日を追うごとに色々な話をするようになり、段々と言語の壁を超えてきた気がする。少しずつ、お互いのクセのあるイントネーションの英語が理解できるようになってきた。彼女のバックグラウンドや人間性を理解するにつれて、何を言わんとしてるかが何となく予想できる。英語を使って話すしんどさをあまり感じなくなってきた。そうやっていいコミュニケーションを取れるようになってきた。

エリン、ミニー、ノリのいい人々みんなで写真

カフェ 1.4ユーロ
アルベルゲ 10ユーロ
ディナー 20ユーロ

ラヴァコーラ(ゴールまで10km)

夜寝てると、右膝の激痛で目が覚めた。これはヤバい。明日歩けないかもしれない。朝イチで病院に行く?1日安静にして治るのを待つ?色々な選択肢考えながらも、眠気が勝って明日考えればいいやと先回しにした。寝れば解決しているかもしれない。次の日の朝、相変わらず痛かった。でも、病院に行くのも、安静にするのもなぜか面倒だった。面倒なことはしたくない。それならもう歩いてしまえ!と、痛み止めのクリームをベタベタに塗って歩き始めた。

こんな景色にたくさん出会えてよかった

あと少しでこの道が終わる。自分は何か変われただろうか。何か気付くことがだろうか。友達とたくさん出会うことはできた。それだけでも十分だけど、まだもう少し何かを得たい気がもする。明日、サンティアゴ・デ・コンポステーラに到着する。到着した時に感じるのは、達成感よりも終わってしまう切なさが勝ってしまう気がする。1ヶ月間アルベルゲに泊まりながら歩き続け、さまざまな人と出会い考えてきた。振り返ると短かった。明日のことを考え始めると止まらなくなるけど、とりあえず今日は今日のことに集中しよう。

サンティアゴまでの道で最後のアルベルゲ

カフェ 7.5ユーロ
レモンビール 2.3ユーロ
アルベルゲ 14ユーロ
スーパー 5.75ユーロ

サンティアゴ・デ・コンポステーラ(ゴールまで0km)

最終日。雨だったけど、それもまた人生。そして、歩ききった!

サンティアゴ・デ・コンポステーラ着いた!

大聖堂でミサに参加する。まだまだ実感が湧かない。黄色の矢印に従って歩いて来た日々ももう終わり。今日が終われば、自分で自分の道の全てを選んで進んでいく。そんな自由の中で決めた道にこそ、自分の人生がある。
巡礼証明書を受け取ってもなお。800kmを自分が歩いたような感覚がない。むしろ物足りないとさえ思う。大変なことも多かったけど、それ以上に楽しい道だった。月並みではあるけれど、最高の友だちにたくさん出会った。今思えば、友だちとは明日から別々の道を進み始め、もう会わなくなるということが重くのしかかっていたのかもしれない。その重みのせいで、感じたのは達成感よりも物悲しさの方が大きかった。みんな色々な理由で、時間とコストをかけてはるばる来ていた。だからこそ、スペシャルな出会いがたくさんあった。自分には、この道を歩く大きな理由はなかったけど、人生の色んなことを考える時間にすることができた。

サンティアゴの大聖堂

一旦バラバラに歩いていたオリバーも、1日で49km歩いて街にたどり着いた。お土産屋さんで3Dメガネやら変な形のキーホルダーやら、謎なもの爆買いしていた。そういう一見無駄なものたちがオリバーたらしめていて、魅力を生んでいる。最後の最後までオリバってて笑った。

お疲れの乾杯

フィステーラ

バスで『地の果て』と呼ばれるフィステーラへ向かう。バスターミナルまでの道のりで、カフェにいるエリンとミニーに偶然であう。バスターミナルでは、空港に向かう途中のオリバーとであった。こんな偶然2人に出会わせてくれるなんて、運命は優しい。オリバーとの別れ際、「お互い頑張ろう。俺はミュージシャンになって音楽で生きていく。たくまは神戸で大きくなって俺を待っていてくれ。」と言ってくれた。また会える日を楽しみにしている。とはいえ、会うのは最後になるかもしれないなとも思い、オリバーの後ろ姿を目に焼き付けた。自慢の手作り杖を持ってたのに、地面を見て歩く姿はちょっと寂しそうに見えた。

最果ての地フィステーラの教会

フィステーラには、バスで3時間弱で着いた。街全体に活気がなくはない。けど、なんとなく物悲しさを感じ、ユーラシア大陸の最果てまで来たことを実感する。日の入りを見る前に、教会で行われるミサにいった。インド系の神父さんが「どこから来たの?」「遠くからお疲れ様」と、みんなに優しく話しかけてくれた。これが世界の終わりにある教会か。優しい雰囲気で、強いていうと一番天国らしい教会だった。
日の入りを見るため、岬まで4kmほど最後の巡礼をした。フィステーラで見た太陽が沈む景色はこれまで見たどの夕日とも違っていた。見惚れて、なんだかふわふわして、何も考ることができなかった。これからも続く旅をしっかりと充実したものにできるのか、不安になるくらいに満足感でいっぱいになった。
日が沈みきって数分後、空は暗くなっていった。帰り道も、同じ巡礼路を歩いて帰る。これで本当にカミーノ巡礼が終わった。巡礼が終わったことで寂しくもあるけど、明日からまた別のステージが始まることが楽しみでもあった。

フィステーラの夕日

最後に

カミーノでは、毎日自分に向き合い自問自答を繰り返してきた。でもどれだけ向き合っても過去しか見えなかった。未来を想像しても、行動しない限りは鮮明にならなかった。そうやって過去と未来を往復しながら下を向いて歩いてしまうことが多かった。
自分の中で消化しきれていないことが、ただただ積み上がっていった。そんな中で、そんな思い悩みが全てぶっ飛んでしまう瞬間があった。目の前に広がる美しい景色を眺めている時、友だちとお酒を飲みながら大笑いしている時、極上のハムとチーズを食べている時。そういうことにふと気がついてしまった。
1ヶ月間、問いのない答えを追い求めて来た。やっと辿り着いた答えがあった。
『テキトーに生きること。毎日ニコニコ生きてるやつが優勝。』
難しいことを考えたり、意味を見出そうとしすぎていた。
もういいや、もうやめよう。

思えば、旅している中で「人生ってあんまり意味ないなあ」と思うことが何度もあった。
だからもう、いいや。

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