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髙山正之[監修]『完全図解 中東で起きている本当のこと』試し読み

・パレスチナ問題の本質は?
・ハマスとはどんな集団か?
・ガザとは何か?
・イスラエルはどうつくられた?

【図解】と【55項目】
60分で紛争の理由が理解できる!

この記事では2024年3月1日発売の『完全図解 中東で起きている本当のこと』の「はじめに」を全文公開いたします。

はじめに  髙山正之


中東予測のカギは「宗教と民族」にある

ハマスとイスラエルが深刻に戦っている。今ではレバノン、シリアからイランまでを巻き込みそうな勢いだ。イスラエルとイランの交戦も十分あり得る。

中東では、戦後、数次の中東戦争の他にイラン・イラク戦争、湾岸戦争、イラク戦争、さらには安定した中東諸国をまとめて破壊した「アラブの春」まで常に混乱が支配してきた。

その背景を探ると、国際石油資本など外部からの誘導や干渉に行き当たる。中東の指導者と目されたサダム・フセインやカダフィが汚名を着せられ、ほうむられたのも、そうしたよそからの力が間違いなく関与していた。

混乱は作為的だから、だれかの都合のいいところで終息するものだが、ただ今回のガザ騒乱はそうした過去のパターンとは少し様相が違う。
混乱を仕切ってきた「よそからの力」が消えていって、今はさまざまな身勝手が制御なしに動き出しているというように見える。

例えばナゴルノ・カラバフだ。イスラム国家アゼルバイジャンの中にあったアルメニア正教の飛び地は、過去、めるたびに大国が干渉して、生き延びてきた。

ところがウクライナ紛争のさなか、イスラム側が強硬に出ても米国からもロシアからも声はなかった。あっけなくアルメニア人は追われ、飛び地は消滅してしまった。ウクライナ紛争も同じ。国連は無力をさらけ出し、米国もNATOもうろたえ、ユーゴ紛争の時とはまったく違う様相が続く。

ハマスはそれを直感して動き出したように見えるが、もしそうなら混乱は止まらない。では、どう展開していくのか。予測するカギは宗教と民族にある。

すべての宗教は中東で生まれた。ゾロアスター教はペルシアに生まれ、それを下敷きにユダヤ教(旧約聖書)が作られ、そこから、キリスト教とイスラム教が生まれて同じ神の民となった。

その旧約聖書にあるように、アラブ人とユダヤ人は同じセム系の兄弟民族になる。彼らが分布する中東を、東から侵略支配したのがアーリア系のペルシア人で、今の国名イランはそのアーリアンからきている。

しかし7世紀に、ムハンマドのイスラムの教えで団結したアラブ人がペルシアを倒し、改宗を迫られたイラン人はゾロアスター風にアレンジしたシーア派を信仰する。

その後、オスマントルコがカリフの座を取って中東の支配者となるが、第一次大戦後は中東の石油に欧米列強が群がり、中東を分断、植民地化した。

第二次大戦後、そのくびきを脱してサダム・フセインらアラブ民族主義の英傑が出てくるが、その芽を石油メジャーがつぶしていった。その総決算が「アラブの春」になる。

その力が衰退する中、今、中東には少なくとも三つの勢力が頭をもたげる。一つはエルドアンのトルコ。ケマル・パシャ以来の世俗主義を捨てオスマントルコ帝国への回帰を目指す。

もう一つがイスラムの異端、シーア派のイマム(指導者)が率いる復活ペルシア帝国だ。

彼らは異端を承知で、それでも「イスラエルを地中海に追い落とす」ことで中東のイスラム諸国をべるリーダーとなることを目指している。目下はその勢力をシリア、レバノン、イラクに広げて、イスラエルの包囲網を創り上げつつある。

ただ弱みがある。イランはもともとゾロアスター教の国で、その孫宗教に当たるイスラムとは一線を画し、イスラム聖職者政権には背を向ける。

三つめはイスラエルだ。イランを倒し、トルコと折り合いをつけ、ハマスをうまく処理しきってセム族の兄弟愛を復活できれば、中東の安定は可能だ。

ただ彼らも弱みがあって、じつは今のイスラエル人はディアスポラから帰ってきたセム系(セファルディ)ではない。ヒトラーに追われた白人系アシュケナージが9割を占める。

その公然の隠し事をどうアラブの民に納得させるか。中東は民族と宗教が複雑に絡み、自分たちの中にも混乱の根を内包する。それがどう転ぶか。神だけが知っている。

\ 本書の内容をチラ見せ /



目次


第1章
イスラエルとハマスの戦争は、なぜ起きたのか?
01 イスラエルは、なぜ過剰攻撃を止めないのか
02 ハマスのテロ攻撃に正当性はあるのか
03 脅威を増すイランと変化する中東の構図
04 ハマスを苛立たせた「アブラハム合意」とは?
05 ハマスに加担する「抵抗の枢軸」の正体
06 モサドがハマスのテロを防げなかった理由
07 中東を不安定化させた「アラブの春」とは?
08 求心力を失った「パレスチナの大義」
09 「2国家共存」はもはや期待できないのか
10 ネタニヤフ首相とは、どんな人物なのか

第2章
そもそもパレスチナ問題とは何か
11 イスラエル、パレスチナの由来は?
12 3つの宗教の聖地が混在するエルサレム
13 600万人が殺害された「ホロコースト」
14 ユダヤ人の「ディアスポラ」とシオニズム運動
15 民族対立を生んだイギリスの「三枚舌外交」
16 パレスチナ人が故郷を追われた「ナクバ」
17 パレスチナ問題の「2つの悲劇」とは?

第3章
イスラエル建国からオスロ合意の崩壊

18 国連のパレスチナ分割決議とイスラエル建国
19 第1次中東戦争でイスラエルが領土拡大
20 地政学的なバランスを変えた第3次中東戦争
21 加速するイスラエルの「ユダヤ人入植活動」
22 アラファトとPLOが行った武装闘争
23 パレスチナ人の抵抗活動「インティファーダ」
24 歴史的な「オスロ合意」、その背景とは?
25 なぜ「オスロ合意」は崩れ去ったのか
26 なぜ自治政府に代わりハマスが台頭したのか

第4章
対立の根源——民族・宗教を読み解く

27 アラブ人もユダヤ人も同じセム族
28 ユダヤ教とは、いったい何か
29 イスラム教とは、いったい何か
30 キリスト教とは、いったい何か
31 自国の安全確保を最優先するイスラエル
32 イスラエルに依存するパレスチナ自治政府
33 アラブ諸国を主導するサウジアラビア
34 「テロの輸出国」と言われるイラン
35 シーア派が率いる国となったイラク
36 アサド独裁政権が生き残るシリア
37 最大の難民受け入れ国・ヨルダン
38 難民の流入を警戒するエジプト
39 18の宗派が存在するモザイク国家・レバノン
40 イスラエルと国交正常化したアラブ首長国連邦
41 紛争の仲介役で存在感を高めるカタール
42 「アブラハム合意」に加わったバーレーン
43 サウジとイランの代理戦争の場・イエメン

第5章
なぜアメリカはイスラエルを支援するのか

44 アメリカがイスラエルを軍事支援する理由
45 アメリカのユダヤ人口はわずか2.2%
46 アメリカの政界で際立つイスラエル・ロビー
47 キリスト教福音派とは、どんな存在か
48 イスラエルびいきだったトランプ前大統領
49 バイデン政権の対イスラエル政策とは?
50 アメリカは「3つの危機」に対処できるのか
51 中国は中東での影響力を拡大するのか
52 ウクライナ戦争の反転攻勢を狙うプーチン
53 ヨーロッパで拡大する「反ユダヤ主義」とは?
54 なぜ国連は紛争解決に役立たないのか
55 アメリカの指導力は終焉するのか

髙山正之の中東巷論
1 欧米の狙いは中東の石油。戦争の大義などない
2 パレスチナの民にテロを煽るイラン
3 宗教の狂信性に頼るイランは時代錯誤だ
4 3つの宗教の元となるゾロアスター教
5 「弱者の味方」の仮面を被ったアメリカ


ここまでお読みいただきありがとうございました!本書は全国の書店・ネット書店にてお取り扱いをしています。ぜひお手に取っていただけたら嬉しいです。



髙山正之[監修]
『完全図解 中東で起きている本当のこと』

髙山正之(たかやま まさゆき)
1942年東京生まれ。ジャーナリスト。1965年、東京都立大学卒業後、産経新聞社入社。社会部デスクを経て、テヘラン、ロサンゼルス各支局長。1998年より3年間、産経新聞夕刊一面にて時事コラム「異見自在」を担当し、その辛口ぶりが評判となる。2001年から2007年まで帝京大学教授。『週刊新潮』「変見自在」など名コラムニストとして知られる。著書に『騙されないための中東入門』(ビジネス社)、『変見自在 バイデンは赤い』(新潮社)など多数。

宇都宮尚志(うつのみや・たかし)
1960年愛媛県生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、産経新聞に入社。社会部、外信部記者を経てデューク大学に留学。バンコク特派員、外信部次長、論説委員などを歴任。現在はフリーランスの記者。著書に『浮世悠々たり』(産経新聞出版)。

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