見出し画像

1-26 concrete epic

人の感情にたずさわる仕事は昨今非常に人気が高くケアワーカー・看護師・風俗嬢・芸術家・葬儀屋・児童相談所などの職業は高校生の将来つきたい仕事ランキングトップを独占しているゆえに倍率が高いのはもちろん人間の感情というセンシティブなものを扱う職業は専門性が重視され給料も高く例えば新卒の介護士3年目でも年収2000万は軽く超えるそれはおよそ50年前に演繹的な知能は全てAIに置き換わったためそれまで高給を受け取っていた医者や法律家や公務員はほとんど廃業し今のような事態となっているまたこのように感情を重視するようになったきっかけとしては医療の発展と臓器売買が世界で合法化され人間の平均寿命が約200歳になったことも大きな要因であるおまえは中学生の頃祖母が孤独死したことをきっかけに一流の介護士になりたいと考えそれから一切の恋愛感情や友情を捨てて学業に打ち込みエリート国立大学でも最難関の文学部介護学科へ入学そのとき一瞬気持ちが緩んでしまったためか新入生歓迎コンパで酔い潰れたところを3年生の先輩の自宅へ連れ込まれ処女を奪われてしまい翌朝付き合おうと告白された初めての異性に一瞬ときめいたが夢のため今はこの気持ちは封印するべきだとテーブルに置いてあったアイスピックで先輩の喉仏を突き刺すと相手は驚きのけぞり倒れたのですかさず顔面を本棚の辞書で数発殴り「カヒュ・・カヒュ・・・」と空気のまじった血が喉の裂け目からぶくぶくと湧き出でるのを確認するとフラフラした足取りで帰路へ着いた「恋なんかにうつつを抜かしている暇などない…意志が揺らいでしまっていたわ夢を叶えるためにはもっと努力しなきゃ」おまえはその一件からまた気持ちを新たに勉学に打ち込み専門性の高い知識を学ぶためそのまま大学院へ進学し修士をおさめ一流の介護企業へ入社研修後は介護技術の向上を目的に設立された研究所へ配属となりおまえが大学院で研究の題材としていたネイルピーリングの効能や技術的課題の解消に取り組んだネイルピーリングとは読んで字の如く「爪を剥ぐ」ことである介護を必要とする高齢者の多くは120歳を過ぎたあたりから感情に起伏がなくなりそれに伴って身体能力も低下していくというケースが多くまた逆に感情の幅を取り戻すと身体の老化も遅延するという研究報告があり介護士たちは高齢者たちが若い頃の豊かな感情を取り戻す方法の開発に取り組んでいた現在は尿道にびっしりと細かいトゲのついた直径3mm(女性用は尿道の大きさによる平均1.5mm)ほどの鉄の棒を突き刺しその激痛を繰り返し与えることで感情の復元を試みるピッキング法が主流であるが一度の施術で尿道がズタズタになり長くても半年間カテーテルで過ごす必要があり継続的な施術が困難また挿入したショックで意識を失い効果が現れないパターンが多発する(西洋では代替え案としてトゲではなく熱した鉄棒を尿道に突き刺すヒートピッキングが発明された従来のピッキングより少ない回数で高い効果を得れるが火傷による合併症や挿入時のショック死率が極めて高いという難点がある)それに変わる新たな方法として現在介護業界で注目を集めているのがネイルピーリングであるペンチで爪を剥ぐという簡単な行為は指の本数つまり一度に20回行うことができ最長でも3ヶ月で爪はまた生え揃い回復するのでピッキングと比べると驚くほど短いスパンで施術を繰り返し行えるという利点があるおまえは世界にまだ数少ないピーリングのスペシャリストとして日夜被験者の爪を剥いだどの角度で引き抜かれるのが1番痛いのか?どれ程のスピードがもっとも痛みを与えるのに適した速度なのか?どのような道具が被験者に恐怖を与えるのか?相手が泣き叫び許しを乞うてきた時の適切な対話とは?爪を剥がされた指を海水につけるとさらに高い効果が期待できるのでは?ネイルピーリングの効果が被験者の感情に現れてくる平均回数とは?睡眠中の被験者の爪をいきなり剥いだ場合意識があるときより高い効果が得れるのでは?研究施設の地下2階は介護施設を伴った被験者たちの住居となっており200人ほど収容できる入り口の分厚い鉄の扉には何重ものロックが施され館内は365日全箇所をカメラで監視という非常に安全な設計が施されている監獄のようにも感じるが生活規則はゆるくひとりひとりに専属の介護士がつき談話室や室内運動場もあり食事のメニューや量は職員に申告すればなんでも食べさせてくれるし個室は高級ホテルのように広くて清潔だ数少ない制約としては情報漏洩防止対策として被験者にも実験における守秘義務が生じるため親族との面会は固く禁じられており外部との連絡を遮断するためインターネット接続可能なチップやアダプターを体内に移植している者には取り外しの手術を受けてもらう(募集では比較的身寄りの少ない人間を選別し移送時には失踪扱いと見做されるよう工作を徹底しているがわずかな痕跡から研究所への問い合わせが年に数件ある)また感情が回復したと診断を受けた者は施設の外に出すと実験内容を口に出してしまう可能性があるため経過観察のデータ測量後はすみやかに地下5階の火葬場にて処理させるおまえは管制室のモニターを眺め今日の実験対象を選別する品さだめを終えると対象の識別番号をタッチパネルに入力し引き出しからカルテと工具箱を取り出しネイルピーリング専用『第三介護研究室』へ向かうそうすると地下の施設には大音量で杉良太郎の名曲『ぼけたらあかん長生きしなはれ』が響き渡り被験者たちの表情は一斉に凍りつく職員達はタブレットで番号を確認するとにこやかな顔で対象の被験者に近づき拘束器具付きの移動式ベッドに縛りあげ直通エレベーターに乗せボタンを押す被験者の悲鳴は上昇音と共に小さくなってゆくおまえは器具の準備を終え大きな伸びをした「今日もがんばるぞっ☆」血と涙と涎でシミだらけのこの部屋に来ると気持ちが引き締まるアラームが鳴るのは被験者が地下から上がってきた合図エレベーターの手動扉を開けると被験者と目が合った「早く殺してくれ!早くっ殺して!!」声が震えているつまり彼は老化に伴い低下していた生の実感を取り戻しつつあるのだおまえは優しい笑顔で子犬を扱うように彼の頭をそっと撫でながら声をかけた「5502番さん今日で15回目の治療ですねうんうん見違えるほど感情にハリが出てきましたねもう退院も近いですよ今日も一緒にがんばりましょう!」感情を取り戻しつつある高齢者は喚いたり叫んだりする場合が多い非常に耳障りだが猿ぐつわなどは使わない舌を噛み切ってしまわないよう歯は全てシリコン性の差し歯にしてあるので滑舌が悪く聞き取りにくいが悲鳴も逐一録音し実験データとして採取するのだそれに中には痛みに苦しみながらおまえに呪詛の言葉を投げてくる者もいるおまえはその言葉を聞くと背筋からゾクゾクと喜びが溢れつい口角が上がってしまうだから耳栓などしない感情の昂ぶりこそひたすら不明瞭な人間の生に一瞬の輪郭を与えてくれる唯一の光であるとおまえは信じているベッドごと上半身を起こし被験者の指を革製のベルトで固定し直し爪の上に冷たいペンチをゆっくりそわせると震えが指から全身へと蔓延していく全身を縛る拘束器具の金具部分からカタカタと音がしはじめてきたら剥がし時だこのとき目を瞑らせないよう目蓋を器具で固定し自分の剥がされていく爪を直視させるのがポイントだ(足の指のときは目の前にモニターをもってくる)ゆっくりすぎると気絶させてしまう可能性があるし早すぎるとすぐに終わってしまうので楽しくない0.3〜0.6N/mmくらいのスピードと力加減でやや上向きに剥ぎ取るのがもっとも相手に苦痛と恐怖を与えるのに適している爪の根元だけ残す形になればあとは一気に引き抜くそうすると肉片もむしりとれるので見た目的にも良いもし気絶させてしまった場合はウォータージェットで放水し意識を覚まさせるのだがあまり体力を削ってしまうと思い通りのリアクションが得れなくなってしまうので気をつけなければならない爪が肉体から分離する瞬間に起きる叫び声と身体の硬直は被験者の心にまた感情が芽生えている兆候だ平日は1日約2人〜3人のペースで爪を剥ぎデータを採取し休日は付き合って3ヶ月の彼氏と自宅で映画など観ながらゆっくり過ごす彼氏も敏腕の介護士で出会いは都内で行われた大規模な研究論文発表会おまえの3つ年上もいうこともあり仕事やプライベートも気兼ねなく話せる笑顔が爽やかで優しい人だおまえはゆくゆくは彼と結婚して幸せな家庭を築きたいと考えている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?