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1-12 concrete epic

おまえは高円寺に古着を買いに行ったら駅前で迷子になってしまい通りすがりの大学生風の女性に声をかけたが無視されてしまい逆上して怒鳴ったら30秒後には警察に腕を掴まれ壁に押しつけられた「ちょっと待ってください古着を買いに来ただけなのです!」こーゆー時に小汚い40過ぎのおじさんがいくら免罪を訴えても状況が変わらないのはいつの時代も同じで結局警察署に7日間ほど拘留され暴力的な尋問を受け続けたおかげで解放された時にはおまえの身も心もボロキレのようになってしまっていた「トホホ」拘留中はなかなか自白しないおまえに業を煮やした警察によって食事が一切提供されず自分の糞尿だけで飢えを凌いだため釈放後に裸足で帰路に着く道すがら解放された実感が湧くのに比例して酷い空腹を覚えたので乗り換え駅で一度降車し近くにあったサイゼリアに立ち寄りミラノ風ドリアを3つ食べ終わると体はすっかり元気になってきたが国家権力から受けた暴力への恐怖と反抗心が癒えることはなかったそれから80年の月日が経ちおまえはちょうど125歳つまりあと2ヶ月で無事に定年を迎える65の時に派遣会社の上司にプロポーズしたが考える素振りも無く断られたために2ヶ月間のストーキングの果てに合鍵で自宅へ侵入し寝込みを襲い強制的に結婚前提の交際を開始し1年後にめでたく結婚するがその前後からケンカが絶えなくなりそのうち『ケンカで殴られた腹いせとしておまえの就寝中に身体を拘束し手足の指を一枚ずつ剥ぐ(気絶すると水をかけて起こされる)』『仕事の都合でおまえが結婚披露宴の打ち合わせに参加できなかったことに腹を立ておまえの後頭部をバッドで殴打し左手薬指を万力で引き千切る』など妻からのDVはエスカレートしていったが体の相性は良く普段は2人とも温厚だったためあの悲惨な事故が起きるまで近隣住民達からはハードなSMプレイが好きな仲の良いオシドリ夫婦として認識されていた妻は3年前に自らの凶暴性を悩みその頃若者の間で流行っていたセルフロボトミー治療を施術するため右手にスマホを持ち手順を確認しながら左手で菜箸を目から脳天目掛けて差し込んだ妻は何度かおまえの目玉をくり抜いたことはあるが自分に突き立てるのは初めてで少しドキドキしていた菜箸の先端が少し大脳に触れ始めたのを感じる「次の手順は…」片目の視線をスマホの画面に向けると視野の端っこに何か動くものがある足元に大きなゴキブリがいたのだゴキブリは妻の足に近づいてくる虫嫌いの妻は驚き一歩場所を動きゴキブリの進路を交わそうと考えたが恐怖と緊張で足がもつれ咄嗟の受け身が取れないまま顔面から倒れてしまい1時間後にうつ伏せで後頭部から血塗れの菜箸が飛び出た状態で帰宅した小学生の娘に発見される腹には潰れたゴキブリが張り付いていたという死因解明のため死体は一度警察に預けられ7日後不慮の事故という形で葬儀が行われたおまえは喪主を務めたがあまりに突然訪れた悲劇に自分の感情が分からず通夜も湯灌も納棺も火葬も終始無表情でmihimaruGTの『気分上々↑↑』を口ずさんでおり参列者を驚かせたおまえの娘もまだ母の死が受け入れられないようで葬儀の間中ニンテンドースイッチのどうぶつの森で魚釣りに集中していた葬儀後に親戚の1人に声をかけられた「そういえばおまえたちに子供なんていたか?」そういえばそんなものいるはずがないおまえは若い頃警察に取り調べを受けた際に焼きゴテで性器を焼かれそれ以来インポなのだった「じゃああの子は何なんだ…?」一瞬これは深刻な事件なのではないかと思ったがすぐに思い直した家族と言えど極論他人の集合に過ぎないし死が人間にもたらすものが一切の無意味であるように生が人間に与えてくれる唯一のものも一切の無意味だからつまりどちらにせよどんな受け入れ難い出来事も受け入れないと人生は進まないようにできている死の50日後に軒下から発見された妻の遺書の内容に沿って遺骨は道頓堀川に骨壺ごと放り投げた骨壺はドボンと落ちるとトプトプと水面を彷徨いその後ゆっくりとドス黒い川底へ引きずり込まれて消えた「ええ夢見るんやで〜」おまえと娘は帰りにお好み焼きを食べた。

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