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1-23 concrete epic

恋愛っていいよねおまえを見てるとすごく人間的に輝いるなっておもうよ恋愛ってさ無意味であるからこそ美しいよねホイジンガの提唱した『ホモルーデンス(遊ぶ人)』て概念は言い得て妙で生存本能とは無関係に時には反する形で人間は自身の遠くない未来に訪れる破滅を受諾しそれまでの少ない猶予期間の中で己の燃えたぎる存在を賭けた無用な創造に興じる事以外人間を人間たらしめる行為が無いんだよねその中でも物体にその力を付与する類のものを昔は呪術や芸術と呼んでいたが「遊び」という点において現在では内容に大差は無いと考えられている何?あぁそうだ恋愛の話ねちょっと待って今ちょうどアレが頭に回ってきていいところなんだそうそう約500年前に産業革命という人類史に残る革命が起きて忌まわしき人新記への終止符をラオスが宣言した2035年までを人は『クリンカ紀』と呼んでるのは知ってると思うんだけど昔は「近代」「現代」とか呼んでいたらしいよヤバいよねなんで今はそう呼ばないかっていうと人間が作った穴ボコだらけの法律や制度に従う事なんかバカらしいから全部辞めにしてその辺の合理的な制度創案を全部テクノロジーに取っ替えてそれまでの過去を振り返ってみたら当時の楽観的な人間のエゴ全開進歩主観丸出しのひどいネーミングに辟易したんだまるで久々に実家に帰りふとタンスを開けてみたら離婚した両親の若い頃のコスプレハメ撮り写真や当時のラブレターが大量に出てきた時のような気まずさがあったのだろうねだから代わりに反省を込めて『クリンカ記』って呼称を変えたんだクリンカってのは産業革命真っ只中の19世紀にレンガ職人が発見して特許を取得したセメントの元となる焼成物を指す言葉で近代的人間=合理性の価値観の下あらゆるエネルギーを資本に還元しまくったコスパ至上主義の時代に安価で早期建造可能大量製造可能で長期耐久性を持つコンクリートというアルカリ性人工石の主成分になっているのがクリンカから作り出されるセメントなんだその技術を駆使して人間は殆どの地表を「都市計画」や「国の方針」の下埋め立て人工増加に従い民間企業も建造物の乱立を続けたコンクリートを製造する際山や森や川を削って骨材に使うもんだから地球の外観は次第と灰色へ変化したそんな消滅への衝動を賛美し刹那を笑っていた中2のように稚拙な時期を見返すと死にたくなる程過恥ずかしい過去の遺物に見えてたってわけコンクリートを現在製造してるところはないけど今でも新宿跡地公園に灰色でデザインも味気なく無機質でダサさの極みって感じの建造物の名残りが沢山あるでしょ古くて大きい墓標が乱立しているように見えることから昔の人間が長年信奉してきた『合理性の墓場』なんて言われてる今の現状をもし昔の人が見たらなんて言うかな泣くのかな前に中学校の修学旅行でおまえと一緒にあの公園歩いたよねもう20年も前のことか懐かしいね何百年も資本拡大のため孤独と破滅を笑顔で享受しハムスターみたく滑車の中を死ぬまで走り続ける世界ってのもさっき言ったみたいに人間的な無意味な遊びって言えばそうなのかもね今こうしておまえに手紙書いてる行為もまさしく無意味な遊びだよ死んでしまったおまえにまだ恋してるよだから寂しい恋愛こそ人間を人間たらしめる最後の希望だと思わない?5年くらい前さ広島現代美術館へ向かう途中の山道の脇にヌルヌルしてて大きな石彫のある小さい公園みたいな広場があってそこの端の草陰に隠れて青姦したの覚えてる?久しぶりの外での行為に2人ともめちゃ盛り上がってさあの時もこ終わった後こんな風に恋愛について深めのピロートークしたよね話に夢中になってたらいつの間にか夕方になっちゃってて結局当初の目的だった細木数子展へは行かずに下山して牛丼食って帰ったよねあの頃はおまえが刑期を終えて6年ぶりに再会できたってこともあるけど人生が華やかで何もかもが輝いて感じたものだよ「愛ってこういうことを言うんだな」てねこれから先どんなに機械が進化したって恋愛だけは人間のものさ人間の不安定で非合理な感情や行動こそ何よりも美しいんだよところで天国はどんな感じ?寒い?暑い?死んでるからそーゆー感覚とか無いのかななんかボンヤリと春ってイメージあるよね天国ってさおまえの死を仲間もまだ受け入れられないようだよ夜中強盗に忍び込んだらその家で飼われてたトイプードルに足首噛まれてそれに驚いて横転したらたまたま床に置いてあったヘラジカの角で脳天貫いちまうなんて運が悪すぎるよおまえと一緒に住んでいたマンションは来月引っ越すことにしたよ色んなこと思い出しちゃうからさ遺品整理はだいたい済んだよおまえが愛用していた…ミートミキサーて言うんだっけ?ひき肉作る機械はおまえのお母さんに渡したよ料理好きだって言ってたからさ無職のはずのおまえが「仕事で余った」とか不可思議なこと言って知らない人の財布と30ℓビニール袋5袋分ほどの肉塊を持って帰って来る謎イベントがだいたい月一の頻度であってそれがあると2週間くらいはぶっ続けでハンバーグが食卓に並んでたよねおまえはキッチンで一心不乱にミンチを作ってくれてた当時は内心硬くて美味しく無いし飽きるしで辟易してたけど今となっては懐かしいよまた来世で一緒になろうね。

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