見出し画像

「全世界的な不確実性の高まりにより海外口座での資産運用が増加している」Cygnos・三原 弘之氏

bitbank COOを経てCygnos Capitalを運営する三原 弘之氏に、海外法人設立や海外口座開設について伺いました。

三原 弘之氏 プロフィール

早稲田大学を卒業後、楽天株式会社にエンジニアとして入社し、楽天市場の開発業務に従事。2014年、ビットバンク株式会社へ社員第一号として参画し、執行役員COOとして国内最大級の仮想通貨取引所へ成長させる。現在は海外クリプトヘッジファンドの戦略へ分散投資する日本初のファンド、Cygnos Crypto Fund を運営。Twitter:https://twitter.com/h3hara Cygnos:https://fund.cygn.com/ https://oversea.cygn.com/

────────────────────
Burry Market Researchの公式LINEでは、ここでしか見れない「資産/収支管理シート」や「インタビューの録画」を公開しています。ぜひご登録ください。
公式LINE登録はこちら
────────────────────

取材実施日

2023年4月12日

さまざまなリスクを見越して海外口座の開設が増加している

ーー預金封鎖リスクなどもあって海外口座での運用が流行っている、について詳しく教えてください。
シンガポールでは、東南アジアやオーストラリアに移住した富裕層や日本在住の富裕層などに、プライベートバンカーがサービスを提供しています。
私自身、プライベートバンカーの方々と話す機会が多いのですが、日本在住者からの口座開設希望が増えていると聞きました。
海外口座にTAXメリットはなく、やることも多く、申請が必要で手間もかかります。それでも、海外口座を開設する人が増えているのは、さまざまなリスクをヘッジするためであると考えられます。
また、クリプトの業界においては、海外法人の設立も増える可能性が高いと予想しています。
ーーなぜ海外法人の設立が増えているのでしょうか。
一つ目の理由として、日本国内に法人を設立し法人の銀行口座を開設しても、日本の銀行口座がメインになってしまいますが、海外法人を設立し海外法人用の銀行口座を開設すれば、日本政府が止めようとしても難しいと予想されるためです。
ーー海外法人を作ってそこでビジネスをやりたいというよりは、海外の銀行口座を作るために海外法人を作る、ということでしょうか。
そのとおりです。
もう一つの理由は、海外の取引所が使えなくなっていく中で、海外口座が必要になってきているためです。
某グローバルで展開している取引所は、日本居住者からも人気でしたが、最近では利用の制限が厳しくなりつつあります。
まだ制限されていない国の居住者となることが最もシンプルですが、移住は簡単な判断ではありません。
そのため、日本に居住しながら海外法人を設立し海外口座を開設する、というのが魅力的な選択肢となってきています。

単に海外法人でトレードしたいだけならBVIやオフショアの法人を設立する方法が簡単

ーー日本居住の個人が海外に法人や法人の銀行口座を開設しそこで暗号資産の取引を行うことは、リーガル的なリスクはないのでしょうか。

ユーザー側の個人や法人が自発的に行うことは、法律に違反していません。
日本での交換業のライセンスを取得していない海外の事業者が、日本の居住者向けに勧誘や広告を行うことは完全に違法です。

ーー海外法人設立や口座開設にあたって、注意したほうがいいことはありますか。

法人口座を、例えばエストニアに作る方法がTwitterで見受けられます。
私はエストニアの税務に詳しくないため、メリットやデメリットは分かりませんが、より簡単に手続きできる国がたくさんある中で、なぜあえてエストニアを選ぶのか疑問です。

おそらく、エストニアでe-Residency制度が一時期流行ったためと予想されますが、エストニアの税務はそれほどシンプルではないはずです。
ペーパーカンパニーであればいずれにしても日本の税法が適用されるはずなので、単に海外法人でトレードしたいだけならBVI等のオフショア法人を設立する方が簡単で計算が難しくないかなと。

不確実性の高まりにより資産分散のニーズがより高まっている

ーー富裕層が預金封鎖のリスクを感じているとのことですが、特にどのような点でそういったリスクを感じ取っているのでしょうか。

現在、世界情勢は我々が生きてきた中で最も不透明な状況にあります。アメリカ一強ではなくなってきていますし、その中で中国やロシアが動き出していて、実際、ウクライナ戦争はまだ継続しています。
そういった中で、多額の資産を保有している場合に地理的に資産の分散を図るというのはすごく自然な発想です。資産を持てば持つほど、分散したくなるはずです。

分散の方法も、日本国内だけで日本円と米ドルを保有していても、預金封鎖のリスクヘッジになりません。

不確実性が高まり、明日どうなるかわからない状況で、一つの国に全ての資産を持つことはとてもリスクが高いです。ビットコインに人気があることもそういったことからのヘッジなわけです。

例えば、株を持つにしても、日本の会社を使うのか、アメリカ法人のアメリカ支店を使うのか、シンガポールを使うのか、選択肢は多数あります。
また、そういった話を置いておいても、富裕層からすると税金が高い国に住むメリットはありません。
岸田政権で増税の話が度々挙がっていますが、多額の資産を保有する富裕層が、税金がどんどん上がっていく前に海外に出て海外で資産を売却・運用する、というのは合理的な判断と言えるでしょう。

個人で海外口座は開設できないため、海外法人を設立する必要がある

ーー海外法人を設立せず、個人として例えばシンガポールに銀行口座を開設するというのはできないのでしょうか。

銀行の口座開設には基本的に現地の住所が必要になっており、日本居住者が香港やシンガポールを訪れて銀行口座を開設することは難しくなってきています。

政府はマネーロンダリングを含め資金移動を制限しており、香港やシンガポールに限らず、個人口座を作るのは簡単ではありません。
もちろん、現地に住むことができれば問題はありませんが、多くの方にとって移住は簡単ではありませんので。

ーーそれでは、どこの国で海外法人を作るのがいいのでしょうか。

トレードに限定して言うと、取引所を開設したい、資産を海外に移したい、DeFiを触りたいなど多様な目的がありますが、銀行口座が不要な場合であれば、オフショアの国々、例えばケイマンやBVIなどが適しているでしょう。
手続きに関しては、海外法人設立は一般的なイメージと異なり、それほど大変ではありません。書類を用意するだけで簡単に手続きでき、オフショアやシンガポールでも2〜3週間で設立可能です。
維持費は国によって異なりますが、BVI等では年間数十万円程度です。それに対し、銀行口座の開設は難しいです。

ーーどのように難しいのでしょうか。

香港やシンガポールの有名なメガバンクは、クリプトなら1億円や2億円程度の入出金から口座を止められることがあります。
そういった入出金に対応可能な特殊な金融機関もありますが、個人口座は作れず実質的に法人口座のみに限定されます。そのため、銀行口座を必要とする場合は、海外法人設立が必須になるのです。

口座が止められると非常に問題で、トレードで稼いだお金を換金したくても、受け皿がない状況になってしまいます。

こういった入出金に対応可能な銀行が少なく、そのような銀行をいかに見つけてくるか、というのが意外とニーズがあります。弊社が取り組んでいるのもそのためです。
ちなみに、取引所についてはそもそも日本居住だと開かせてくれない取引所が多いです。そのために海外法人を作るという方は見受けられます。

世界の認識ではクリプトはダーティーマネーである

ーー口座が止められるとのことですが、それは手続きをすればすぐに再開されるのでしょうか。

いいえ、クリプトの入出金で止められると口座自体を閉じる処理になっているので、一度止められたら再開されることはありません。
これだけ厳しい対応を敷いているのは、間違いなくマネロン対応のためでしょう。

ーー日本人や海外居住者だから厳しいのでしょうか。それとも現地の人に対しても同じ対応なのでしょうか。

これは日本居住者、海外居住者に限らず、誰に対してもこのような対応です。世界の認識ではクリプトはダーティーマネーなんです。
そういう意味で、日本は世界の中でもトップレベルにフィアットからクリプトに交換しやすい国と言えるでしょう。

ーー銀行口座はどこの国で開設するとよいのでしょうか。

国によってレギュレーションや会計基準が異なるため、その人が何を目的にするかによって選択する必要があります。

例えば、経費支払いのためにカードを作りたい場合やトレーディングなどで使用する場合、貸し出し、出資の場合等、国によって税基準が異なるため、最適な国をまず選択する必要があるでしょう。

こういった内容については、国際税務に詳しい税理士の先生に相談することをお勧めします。

ただ基本的に口座開設は難しいと考えていた方が良いです。

世界中から資金が集中するシンガポール

ーー口座の利用停止など規制の厳しさが目立ちますが、今後厳しさはより増していくのでしょうか。もしくはクリプトに対する理解が進むことで制度がゆるやかになっていくのでしょうか。

基本的には、規制は強化される一方だと考えています。

レギュレーションが整えば緩和もありえると思いますが、それが世界的に納得できるレベルに達した場合にはレギュレーション自体が一定厳しくなっているはずで、その状態で取引所を利用したいと思う人がどれだけいるのか疑問です。

ーー台湾有事に関して日本、韓国、フィリピン、タイ、オーストラリアの国名が挙がっていました。これらの国に移住しても台湾有事という意味ではリスクはあるようですが、シンガポールは法人が作りやすい点の他にも台湾有事に巻き込まれにくいという魅力もありそうです。(参考:米軍高官、中国が台湾侵攻なら日本などが「姿見せるだろう」

いま、シンガポールは世界中からお金が集まっています。
結局、香港があんな状況になって、スイスでも最近、クレディスイスの問題がありました。そういったこともあり、一部、スイスから資金を移す流れがあると、プライベートバンクの人から聞きました。

ただ、何事も競争があったほうがよいので、シンガポール一強になるのは良くないと私は考えています。個人的にはもう少し香港が切磋琢磨してくれるのが望ましいと考えています。

────────────────────
Burry Market Researchの公式LINEでは、ここでしか見れない「資産/収支管理シート」や「インタビューの録画」を公開しています。ぜひご登録ください。
公式LINE登録はこちら
────────────────────

この記事を読んだ方はこちらもおすすめです。