最後の楔
僕の気持ちはこうだ。
好きだった。
この上なく好きだった。
でも、付き合いたいわけじゃなかった。
ただ、離れたくなかった。
週に1回、教室で顔を合わせるだけ、ウェブ会議で雑談するだけの関係でよかった。
このままずっと続けばいいのに、なんて思っていた。
…
……
でもあっという間に2年経ち、僕たちは卒業する。
もう週1のゼミの時間は来ない。
僅かな繋がりが断ち切れる。
…
……
卒業式の日、
好きな子と少しだけ話をした。
たわいもない話だ。
これが最後の会話になった。
僕は臆病者。意気地なし。
これで最後なのに、面と向かって言いたいことが言えなかった。
式場を後にしてからもそれがずっと心残りだった。
だから、その日の夜に言いたいことをLINEで伝えた。
ずっと好きだったと。
そしてさよなら。
あの場で直接告げずに今更メールするのは本当にダサいと思った。
でも今を逃せばもう言えないと思った。
言わずに後悔するのはもうごめんだ。
好きと言い逃げた。言い逃げ告白。
自分が好意を持っていること、それだけ伝えたかった。どうしても伝えたかった。
どんな反応が返ってきても構わない。もう会わないだろうから。
後悔はしていない。胸の憂悶は過ぎ去った。
そして寝た。
…
……
しばらく経って返信が来た。
その子はとてもやさしい言葉を返してくれた。
…
……
これでよかったんだ。伝えてよかった。
ありがとう。
さよなら。
…
……
卒業式の日の寂しさに任せてたくさん綴りましたが、今にしてみれば、色々思うところがある。
付き合いたいわけじゃないっていうのは、逃げているだけなんじゃあないかな。
だって、付き合いたくないけど一緒にいたいって矛盾しているよ。
お前はいつも、「心のどこかでは1人でいる方がいいなぁって思ってるから彼女なんて必要ない」とか周りにほざいてるけどそれは、
自分に自信がないから付き合うことを最初から諦めていることの裏返しに他ならないんだよ!
「これで最後なのに」とか、「もう会わないだろうから」っていう表現に、その逃げの姿勢が表れているよ。
なんだよ言い逃げ告白って。
自己満足だな。
いや、満足もしてないな。
妥協点だろ。自己妥協だ。
怖いんだろ傷つきたくないんだろ。
でも、
本当に離れたくないって思うんだったら、
これで最後にならないように、また会えるようにお前が行動するしかねぇんだよ!!
好機に二の足踏まずに行動を起こせるように自信をつけんだよ!!
…
……
一頻り情けない自分にブチギレた後ですが、恒例のマイフェイバリットソングスのお時間です。(別の記事でやってくれよ…)
「ガーネット」
奥華子の歌。
時をかける少女の主題歌でしたね。
筒井康隆の小説もこの映画も好きです。
この歌、卒業という節目が来るたびによく聴いています。
以下、サビの一部。
いつか他の誰かを好きになったとしても
あなたはずっと特別で大切で
またこの季節が巡ってく
…
……
本当にその通りだなって思う。
卒業式で別れ、入学式で出会う。
そんな別れと出会いの季節、春を何度も経た。
いつも、新しい環境で他の誰かを好きになるのに時間はかからなかった。
冷めた補足を加えて歌詞を台無しにしたいわけじゃあないし、このサビに異を唱えるつもりも毛頭ないが、
他の誰かを好きになってからというもの、
中学の頃好きだった子は同じ高校に進学したのに学校で会っても話したことなかったし、
高校の頃好きだった子も同窓会で久々に会っても恋愛感情など湧かなかった。
…
……
それでも確実に言える。
みんな、ずっと特別なんだ。
好きな人が変わっても、それまで好きだった人のことはよく覚えている。今はもう好きじゃなくなっていても。
それは、
昔好きだったという記憶が残っているから。
それでいいじゃあないか。
それが特別っていうことなんだ。
同じ時を過ごした数多の学友の中から、その人だけを1人ひたむきに想っていたことがある。
それってやっぱり特別だよね。
その記憶を大切にしたいと思う。
それが歩んできた道、学生生活という青春を思い出させてくれるから。
過去の思い出話に花を咲かせてくれるんだ。
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