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お読書のコーナー③ ─『鏡の中は日曜日』

リアルタイムで読んだものは書いていかないとね。
やっぱ。魚と肉とゴシップとワクチンと本を読み終わったときの感想は鮮度が命っていうから。


さて、今回紹介するのは、殊能将之『鏡の中は日曜日』です。

著者名は「しゅのうまさゆき」と読みます。
2013年に亡くなられているんですね。しかも49歳…

この人の作品で最も有名なのが『ハサミ男』でしょうか。映像化もされているみたいですね(観たことはありません)。
こちらも以前に読んだことがあり、それで殊能さんのファンになりました。

著者の作品を一言で言い表すならば「破天荒」ですね。前述した『ハサミ男』も書き方が非常に特徴的だったんですが、今回取り上げる『鏡の中は日曜日』も非常にユニークな書き方です。そしてそれを裏付ける文章力と破天荒なミステリが、殊能将之という「天才」の手によって生まれたすべての作品のコアにあるでしょう。

それでは、次項に移っていきます。


あらすじ・紹介

2001年の日本。
名探偵・石動戯作(いするぎぎさく)は出版社の殿田(とのだ)から、14年前に神奈川県・鎌倉の梵貝荘(ぼんばいそう)で起きた殺人事件の再調査を依頼される。その依頼を受けて調査に取り組むさなか、石動は何者かの手により殺害されてしまう──。

物語は全3章立て。
第1章は「ある病人の視点」から、
第2章は「現代の」石動の視点と、「14年前の事件当日」に梵貝荘に居合わせた学生の視点で書かれた小説(要は作中作)の2つを交互に、
第3章は主に石動の視点から、途中にある人物の「手記」を挟む形で、
それぞれ話は進行していく。

1つの事件を追い、名探偵は現在と過去の2面から捜査をおこなう。
その結末と真相はいかに?


感想

この人の作品は読み終わった後に「もう一回読み返してぇ~!」となる点が最高なのだろう。それほどまでに種あかしが上手だし、トリックも珠玉の一品だ。一本の軸となるトリックで書かれていた『ハサミ男』と比べ、本作品のトリックは幾重にも糸が張られており(若干ネタバレ気味だって?大丈夫、絶対気づかないから)、それがいくつも配置されているのだからたまらない。これに気づく人がいたら本当にすごいと思う。

かといって人間描写などが書き込まれていないかといったら、そうではない。ある人物の内面をはじめ、非常によく書き込まれている。
特筆したい点は、登場人物である2人の学生の現在と過去の対比描写である。一方はある程度の成功を収めており、もう一方はあまり成功したとは言い切れない生活を送っている。しかしながら一点だけ共通項があり、それは両者とも学生時代の「美しさ」を失ったかのような描写をされている、という点だ。
月日が流れることで、人の心情や内面は変化するという描写を書くことで、のちの手記の著者が抱いている、14年前とまったく変わらない「ある志」のおかしさを強調しているようでもあった。

基本的に本格ミステリ物であり、文章も読みやすい。このような読みやすさで、様々な伏線を(それもフェアーな)よくも仕込めるな、と「天才」の文章力に陶酔するばかりである。

ただ、第1章の文章構成が賛否両論あると思われる。
読みながらパッと頭に入れるのは少しむずかしいように感じられるかも。「ああ、そういうものなんだな」というふうに思いながら読みすすめるのが吉かも。
ある種では本格ミステリ「らしくない」書き方でもあるから、本当に「本格ミステリ」だけが好きな人には首をかしげる点なんだろう。

本当におすすめです。
なんだけど、ミステリ読んだことない人がこれを読むと「え、あ、んん???」ってなってしまうかもしれない。
探偵(ミステリ)のお約束を知っている前提で話が展開されたり、探偵小説そのものの構造に触れたりする場面があるからだ。
ある程度ミステリ小説に親しんだ人間が読むと「なんだこれは?!」と驚き腰を抜かして、何倍にも面白くなる作品だと思う。

なによりの理由として、ミステリ小説愛好家は過去に解決してきた様々な事件の記憶(=これまで読んできた作品のトリック)に基づいて、読み進めながら考察してしまう節がある。
それをやっていると、より面白くなるから、この作品はミステリ好きにはたまらないのだろう。
殊能将之、もっと知名度があってもおかしくないはずなんだけどなぁ…。


(終)

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