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読書日記

アルキビアデス「おまえにひどいことをした覚えはない」
タイモン「したさ。俺を褒めた。」

『新訳 アテネのタイモン』
シェイクスピア

初シェイクスピアでした。

本作『アテネのタイモン』は、トマス・ミドルトンとの共作だそうで、解説を読むかぎり、つくりの粗雑さから「未完の作品」と言われることもあるのだそう。わたしは、マジで? と思いました。充分すごかったんですけど……。


ストーリーとしては、まずアテネにタイモンという貴族がいる。この男は、心優しく、博愛精神に満ちた人であり、アテネ中の人々から慕われている。けれども、欠点がある。先を読むのがちょっと苦手なのだ。

タイモンの周りにはたくさんの人が集まってくる。金に困った人、自分のところの商品を買ってほしい人、うまい汁を吸いたい人など。たとえ相手がどんな奴であろうと、タイモンは持ち前の博愛精神から、分別なく人に財産を分け与えている。(理解しがたい……)
また、派手な暮らしが好きなようで、毎晩のように食事会を開いてはどんちゃん騒ぎ。
それに加え、日頃のお付き合いでは高価な贈り物を欠かさない。お金は湯水のように消えていく。
見かねた執事から諫言されるものの、タイモンは自分のスタンスに謎の誇りと自信を持っており、人からの忠告に一切耳を傾けることがない(笑)

やがて案の定ともいうべきか、膨れ上がった借金によって首が回らなくなったタイモンは、仲間の貴族たちに助けを求めるようになる。けれど、どこへいっても冷たくあしらわれるばかりで、誰も助けてはくれない。やがてタイモンは人間不信モンスターへと変貌を遂げる。

貴族ニ「我々は、夏になると喜んでやってくる燕以上の喜びをもって、閣下につき従う者です。」
タイモン「そして、冬になると飛び去るのも、燕以上だろう。」

わろた


後味のよい終わり方とは言えませんが、登場人物たち同士のやり取りがあまりに見事なので、ほとんど喜劇として読めました。零落したタイモンのこれでもかあ!というほどの罵詈雑言をご賞味あれ。

泥棒の例を教えてやろう。
太陽は泥棒だ。
すごい引力でもって広大な海から水を奪う。
月も名うての泥棒だ。
太陽から青白い光を盗んでいる。

p118


なぜよりによって数あるシェイクスピアの作品からこれを選んで読んだのかというと、本作が『青白い炎』に出てくるからでした。タイトルの元ネタも発見したし、内容は面白かったし、なにより格の違いを見せつけられて(笑)、大満足です。



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※冒頭の引用(「したさ。俺を褒めた」)には註釈があります。『新約聖書』「ルカによる福音書」第二十六節「すべての人にほめられるとき、あなたがたは不幸である」を参照とのこと。


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