ベーシックインカムが作る地獄

 私は、今の日本でベーシックインカムを唱える政治家は全く信用できないと思っています。ベーシックインカムは現実味もないうえに実現しても全然良いシステムではないからです。それを唱える政治家は信用なりません。
 ベーシックインカムは、すべての国民に、その名の通り基礎的な収入(生活に必要な収入)を公的に給付するというシステムです。働かずに暮らしていけるなんて、とっても素敵!ということで、そこそこ人気のあるこのベーシックインカムですが、ちょっと考えるとそんなにいいものじゃないということがすぐにわかります。
 世の中そんなに甘くない…ベーシックインカムの行きつく先を考えてみましょう。

そもそもの莫大な財源問題

 ベーシックインカムの抱える最も大きな問題は、財源です。簡単に仮定を置いて試算をしてみましょう。ひと月あたりに必要な最低限の生活費を…仮に10万円としましょう。年間では120万円になりますね。これが日本人の人口分ですから、約1億人分です。120万×1億ですから、必要な財源はなんと…120兆円です。これがどれくらいの額かというと、2023年度の日本の一般予算を超えるくらいで、社会保障給付費の約9割に相当します。
 ベーシックインカムを実現するには、日本もう1個分くらいの財源を新たに確保するか、年金や健康保険といった社会保障をほぼ全てバッサリなくしてベーシックインカムに回すしかありません。まだ現実的なのは、現行の社会保障システムをリセットする方でしょうか。まぁ、とはいってもこちらも実現するにはかなりの政治的ハードルがあるでしょうから、実現することはまずないでしょうが…。
 ただ、非現実的とはいえ、今回はせっかくなので、仮にベーシックインカムが実現したら…という仮定で考えてみましょう。

現行の社会保障がなくなると…

 ベーシックインカムが実現すると、月々の一定の給付を健康保険や年金の代わりに使ってね、ということになります。確かに、普通に働いて稼ぎながらベーシックインカムで10万円程度収入にプラスがあれば貯金もたまるでしょうし、これをもって社会保障に代えることができるように見えます。
 しかし、ベーシックインカムだと、社会が「究極の自己責任社会」になってしまいます。さらには、経済的にも悪影響を及ぼす可能性があります。これを理解するために、まずは社会保険のはたらきをざっくりと紹介します。
 人生の中での収入と支出を考えてみましょう。一生の中で支出や消費には、波があります。つまり、急に支出が増えたり、収入が減ったりするタイミングがあります。
 支出で言えば、大きな怪我や病気で医療費が必要になってしまった…とか、親の介護が必要になった…といった出来事が支出の増大という波を生みます。収入の方では、定年退職や失業で一気に落ち込むので波が起きますよね。
 社会保険は、このような収入や支出の波をなだらかにすることができます。保険料を徴収する代わりに、何かあった時に恩恵にあずかることができるのです。健康保険は窓口負担の割引という形で恩恵を受けているので、実際にお金を受け取るものよりも実感しにくい部分かもしれません。しかし、医療費で言えば7割は社会保険がカバーしてくれるわけですから、十分に大きな役割を果たしてくれています。
 さて、では社会保険がベーシックインカムに置き換わったらどうなるでしょうか。全体の収入が底上げされますが、波の大きさ自体は変えることができません。
 現行の社会保険では、収入が下がる代わりに波を小さくすることができ、ベーシックインカムでは収入が底上げされる代わりに波が大きいままです。これだとどちらも一長一短で、「どっちもどっち」と思ってしまいそうですが、そんなことはありません。ベーシックインカムの方が不都合だと言えます。なぜなら、支出の波は大きさもタイミングも事前に予想することなどできないからです。病気や怪我を事前に予期することはできません。もちろん、子育て費用などはある程度自分でコントロールできますが、そうでないものがほとんどでしょう。いつ、どれくらいの支出の増大の波に直面するかわからないのが人生です。
 ベーシックインカムでは、そうした波の対応をベーシックインカムによる収入増で補うようにしなければなりませんが、例えば、若いうちに怪我や病気をしてしまって、ベーシックインカムの収入増分があったとしても貯金が足りないような状況に陥ったらどうなるでしょうか。借金をしたり、親族や友人に融通してもらうほかありません。社会保障をベーシックインカムに回すとなれば、ここでかかる医療費も10割負担です。10割負担になれば、その額は重くのしかかります。さらに言うと、仮に借金地獄に陥ってしまった時に、ベーシックインカムは、「お金あげるからその中でやりくりしてね」という自己責任のシステムである以上、社会からは「貯金しておかなかったお前が悪いんだ」という目を向けられてしまうことも考えられます。
 怪我を負っても自己責任、病気になっても自己責任、親の介護も、子育ても自己責任。それでお金が足りなくなっても、政府は助けてくれない…そんな究極の自己責任社会がベーシックインカムの行きつく先です。私は、そういった社会が良い社会だとは思えません。

経済に与えるマイナスの影響

 さて、ここまでで述べたように、ベーシックインカム社会では、有事に備えてしっかり貯金をしておかなければなりません。もし貯金をできていなかったら、借金をするしかなく、貧困に真っ逆さまです。
 このような状況下では、社会の人々は稼いだお金も贅沢に使わずにできるだけ貯金をすることが合理的な選択となりますよね。社会の一部の人だけならまだしも、みんなが貯金を優先し始めたらどうなるでしょうか。社会全体で消費が落ち込み、経済は負のスパイラルに陥ってしまいます。
 将来不安を増加させるベーシックインカムは、経済的には良い政策とは言えないでしょう。

ベーシックインカムを唱える人々

 ここまで見たように、ベーシックインカムはパッと見ただけでは良いシステムのように感じますが、社会保障の機能としても、経済政策としてもあまりいい政策とは言えません。
 それでもこの政策を唱える人はいます。そういう人は、おそらくですがあまり経済学や社会保障を勉強したことがない人か、目先の利に走っている人でしょう。無知ゆえにベーシックインカムを支持しているのであればまだ救いようがありますが、選挙に当選したいから…働きたくないから…と短絡的な理由でベーシックインカムを唱える人は悪質です。
 ベーシックインカムを唱える政治家は要注意…と思う理由でした。

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