見出し画像

ダダダイアリー、主に映画。2023/9/18ー9/30


9月18日
菊川の映画館Strangerで開催のジョン・カサヴェテス特集にて2本鑑賞。

「ハズバンズ」
帰れない夫たちの倦怠の逃避行。ベン・ギャザラ、ピーター・フォーク、ジョン・カサヴェテスの名優3人がどうしようもなくて始末に追えないアメリカ白人男性の醜態を晒しまくる142分。カサヴェテスのしつこい演出にウンザリして全体の9割は不快だが、ラストのジョンの子供たちとの再会で帳消しにされてしまう不思議な作品。
Strangerマガジンによると、当初205分バージョンでドン・シーゲルにこの長さのままにしなさい、と言われたとか。確かにこの作品はもっと長い方が良かったと思う。

「ア・チャイルド・イズ・ウェイティング」
知的障害児施設にやってきたジュディ・ガーランドと校長のバート・ランカスターに、施設に子供を預けたジーナ・ローランズに実際の施設の子供たちも多く出演したカサヴェテス感よりも寧ろ羽仁進感が満載の感動的なヒューマンドラマ。

上映後には遠山純生さんと上島春彦さんによる解説付き。プロデューサーのスタンリー・クラークとカサヴェテスが揉めに揉めた件やジュディがボロボロの状態だった事とか羽仁進との類似とか作品の制作背景が知れてまた観直してたくなった。作品的には本当に良くできた作品だと思った。

遠山純生さんと上島春彦さん

9月20日
角川シネマ有楽町で開催のPeterBarakan's MusicFilmFestival2023にて2本鑑賞。
先ずはプロマ・バスー、ロブ・ハッチ=ミラー監督「アザー・ミュージック」
これでこの店に来るのは3回目。初見の時から長年の常連客の様な熱心な従業員の1人の様な気分にさせる親密さに溢れた音楽ドキュメンタリー。私たちにはどんな形であれアザーミュージックの様なオルタナティブなコミュニティが必要なのだという事を再確認。

続いて、エドワード・ラックマン監督「ソングス・フォー・ドレラ」鑑賞。
アンディ・ウォーホル追悼の為に再開した元ヴェルヴェットアンダーグラウンドのジョン・ケイルとルー・リードによる2人ぼっちの無観客ライヴ。緊張と親密と愛憎が行き交うステージだけを見つめた「ストップ・メイキング・センス」スタイルのライヴドキュメンタリー。最高という言葉しか思い浮かばない。やっと観れて感無量。

9月22日
南青山のAKIO NAGASAWA GALLERY AOYAMAにて開催の蛭子能収「最後の展覧会」展へ。
認知症を患う漫画家蛭子が芸術家として放つ個展。予想を超える素晴らしい色彩とタッチに胸を打たれた。企画監修にあたった特殊漫画家の根本敬さんが在廊してたので制作過程とか色々聞けて良かった。展示された絵は全て売約済み。凄いな。

根本敬さんと

そのまま歩いて渋谷へ。
シネマヴェーラ渋谷にて開催のウクライナ・ジョージア・ソ連映画特集にて2本鑑賞。
先ずは、カレン・シャフナザーロフ監督「メッセンジャー・ボーイ」
大学受験に失敗した無気力な青年の行き当たりばったりの適当な毎日。口から出まかせでその場凌ぎの日々。どうせ兵役につくだけさ、という絶望感と虚無感が公園のブレイクダンスとバカな友達に表出された味わい深い作品だった。

続いてゲオルギー・ダネリア監督「私はモスクワを歩く」鑑賞。
朝の空港から夜の地下鉄まで。歩き走り踊り歌う。長くて忙しなくて素敵な1日。最初から最後まで映画の運動に満ちた全てのシーンが愛おしく、最後は素晴らし過ぎて勝手に涙が溢れてしまう永遠レベルの傑作。3年ぶりに観たけど凄まじく良かった。
ダネリア監督は「不思議惑星キンザザ」だけじゃない。他にも素晴らしい作品がいっぱいあるのでBOXとか出して貰いたい。先ずは本作を早急にソフト化して欲しいし、もっと色んな所で上映して欲しい。

9月23日
斎藤久志監督「草の響き」レンタル鑑賞。
佐藤泰志の短編を映画化。原作には登場しない主人公の妻を奈緒が好演。舞台設定や新たなエピソードの大胆な追加により返って作品の本質が浮かび上がる濱口竜介監督「ドライブ・マイ・カー」に匹敵する出来栄え。やっと観れた。結果的に見事な遺作となってしまったのが残念。もっと斎藤作品観たかった。

江戸川橋のコ本や内thecaにて開催の三浦秀彦個展「モトトナル モノノアリヨウ」本の可能態について へ。
プロダクトデザイナーでもある三浦の視覚的観点から本という既存の価値を転換させる個展。読むという行為や言葉に触れる感覚を今一度刺激させる楽しい展示だった。特に石のやつ。こちらの経験を問われる様なユニークな作品だったな。
ついでに阿部和重の文庫を一冊購入。

そこから歩いて神楽坂へ。
東京日仏学院で開催中のアルノー・デプレシャン監督特集にて「イスマエルの亡霊たち」鑑賞。
失踪して死亡したと思われていた映画監督の妻が21年振りに突然現れた事により歪み始める世界。製作中の映画のシーンとか現在の妻との2年前のシーン等とモザイク状にした構成が物語を長くして後半のトゥーマッチな展開にグッタリ。ボブ・ディランで踊り出すマリオン・コティヤールがピークだったな。

9月24日
吉祥寺シアターにて開催の中村蓉単独公演「fマクベス」へ。
シェイクスピアの表層を戯れ倒しながらマクベスの「f」に導かれその本質に迫るコンテ。Youでなく蓉のまだまだ面白くなる余白と伸び代。いつの間にか様式化されたコンテ的ムーブから遠く離れ続け、結果コンテンポラリーダンスに1番接近したこれこそがコンテだと唸る演目。素晴らしく楽しかった。

吉祥寺シアター
中村蓉さんと

で、久々に吉祥寺に来たから瀬田なつき監督「PARKS」のロケ地再訪したらかろうじてまだ残ってた。もう完全に廃墟だったけど。

青山真治「宝ヶ池の沈まぬ亀Ⅱある映画作家の日記2010-2022ーまたは、いかにして私は酒をやめ、まっとうな余生を貫きつつあるか」読了。
boidマガジンに連載された日記の結果的に完結編。web未掲載の最終章は文学的な様相を帯びた未完作。最後まで忙しなく過去を検証し現在を見つめて学習に勤しんで真っ当な余生を貫いた事が記された充実な記録。

中本達男・野村光由監督「だからここに来た!」DVD鑑賞。
1970年開催全日本フォークジャンボリーのドキュメンタリー。六文銭「ゲンシバクダンの歌」や、高田渡、エンケン、そして岡林信康とはっぴいえんど「私たちの望むものは」などお宝映像満載。私の中ではウッドストックより遥かに貴重な作品。中古だけど遂にゲット。これちゃんとリマスターして劇場公開して欲しい。

9月26日
ル・シネマ渋谷宮下にて2本鑑賞。
先ずはアルノー・デプレシャン監督「私の大嫌いな弟へブラザー&シスター」鑑賞。
愛情の深さがある瞬間に憎しみへと反転する。憎しみの連鎖と止まらない怒りの増幅。言葉では説明できないエモーションをテーマに描いてそのエモーションに最後まで言葉を与えない見事な演出。デプレシャン苦手だけどこれは良かったな。というかマリオンが最高だった。

続いてセドリック・クラピッシユ監督「ダンサーインParis」鑑賞。
ドラマ自体は月並みな展開だったけど、ステージの舞台裏の撮影とかマリオン・バルボーの説得力ある動き、本人役のホフェッシュ・シェクターの振り付けやメソッドなどダンスファン必見の作品ではある。ただクライマックスもっと観たかったってのもある。

BS世界のドキュメンタリー「バック・トゥ・ザ・フューチャーあせない魅力の裏側」録画鑑賞。
BTTFがなぜこれ程までに長く広い世代に愛され続けるのか。その理由と魅力を分かりやすくキャストやスタッフと共に検証解説。あの駐車場は「ツインピークスモール」だったとか、未だに発見と気づきをもたらせてくれる名作だと再確認した。

9月28日
渋谷 WWWにて開催「WHITE SHOES&THE COUPLES COMPANY LIVE IN JAPAN2023」へ。
インドネシアの6人組WSATCC。シティポップ・ミーツ・インドネシアなコギゲンなメロウグルーヴ。バンド編成、衣装、そしてボーカルApriliaのキュートなダンスなど全部がツボ。観客全員残らず笑顔でハッピーになるピースフルでBagus(インドネシア語で最高の意味)なライブだった。また来て欲しい。

WWW
WSATCC
wsatccの2人と
wsatccの3人と

9月29日
ジョージ・オーウェル「カタロニア讃歌」読了。
退屈で複雑なスペイン内戦ファシストとの闘い。戦争の不条理とそのウンザリする状況をクールに時にユーモアを交えながら綴った渾身のハードボイルドルポタージュ。この時の経験が後の「1984年」に繋がるのだが、そんな事とは関係なく純粋に面白くて引き込まれた。

9月30日
ユーロスペースにて初日遠迎えた「almost people」鑑賞。
感情の一部が無い4人兄妹を4人の監督が描くオムニバス。試写会含めて3回目。色々あり得ない設定を皆んなで探って行くコメディなんだけど、これをマイノリティの人たちの話と捉えた時に、笑うというよりも兄妹全員を物語や映画そのものから解放してあげたいと思った。

上映後の舞台挨拶には石井岳龍監督、守屋文雄監督、加藤拓人監督、柳英里紗さん、嶺豪一さん、白田迪巴耶さんが登壇。皆さんの話を聞くうちに全くバラバラの個性的な4つの物語が一本の作品として不思議な整合性を帯びている事に気付かされた。

嶺豪一さん、石井岳龍監督、柳英里紗さん、加藤拓人監督、白田迪巴耶さん、守屋文雄監督

更にロビーでサイン会も開催。ちゃんずの端くれとして柳英里紗目当てで行ったのだけど、嶺豪一と久々に話せたのも良かったし、白田さんとか急に大ブレイクしそうな存在感があったな。作品の見どころは諸々あるが、やっぱり長女の話は突出してた。柳英里紗、塩塚モエカ、伊澤彩織のスリーショットだけでも本作を観に行く価値はあると思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?