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BUoYお直し

こんにちは、初めまして。はしもとさゆりと言います。
BUoY(ブイ)には2017年の立ち上げ期から関わっていて、自分でも驚くことに、芸術監督の岸本佳子さんに次いでの古株になりました。現在は、遠隔でカフェスタッフの勤務の管理などを担当しています。BUoY以外では、お直しカフェという屋号で「自分でお直し、つまり手入れや修理、修復をする人をジワジワ増やす」を目的とした企画や執筆、ダーニングと呼ばれる繕い技法のワークショップなどを行っています。ちなみにこれは私の靴下。擦り切れたかかとをお直ししています。

さて、ここnoteでのBUoYスタッフリレー投稿企画、第5回目となる今回は、私のBUoY(主にカフェ)に関する独白と、お直しについて、これからの取り組み(種)について、のらりくらりお送りしたいなと思っています。好きなところだけ読んでもらっても構いません。それでは、ドン!

私はカフェが好きだ

BUoYは、ひょんな繋がりから人生3度目となるカフェ開業、構想や内装施工から立ち会った場所。元銭湯とボーリング場という廃墟同然だった場所を最低限の手直しで劇場やカフェにした、ヘンテコな空間だ。

私が店番をしていて好きなのは、一日中その場所のことを考え、整えながら、誰かがやって来たらその一角を明け渡すようなところにあるなとふと考えた。店を開ける日は、朝なるべく家でコーヒーを飲まない。それで、到着してまずお湯を沸かしてテスト抽出の一杯を淹れながらコーヒーまわりの機材を徐々に整えはじめる。それをひとくちふたくち飲んで、体にカフェインが巡る感覚をほんの少し感じたのち、テーブルやトイレの掃除をはじめたり、客席に水とグラスを出したり、少しずつ場所を整え、そこに体を馴染ませるような小さな儀式がそこにはある。毎日自分が立つ店じゃないのでなおのこと、前に来たときとのものの配置の違いや、そのとき置かれている花やチラシを少しずつ視界に入れながら、今日はここで何をしたらいいかゆっくり考えはじめる。ロンドンやブルックリンの倉庫街みたいと言えば聞こえがいいかもしれない、永遠に工事現場みたいな元廃墟然としたその場所の、今日はどこを整えようかなと、時折客席の方に座ってコーヒーをすすったりする。

店に到着して、飲み物を頼んで、少し待って、ひとくち飲む。同じような小さな儀式が、場所を訪れる全ての人にやってくるから、カフェという場所は、見ず知らずのところであっても、ある種の居場所性を担保できるのではないか。」そういうことを2年前の今頃、少し考えた。

エプロンのお直しと作ることの暴力性

すこし前になるが、お店のエプロンをお直しするために持ち帰ってきた。使い続けているうちにコーヒー滲みなどが目立つようになったからだ。「新しく黒いエプロンを買おうか」と言う芸術監督に、それだったら、少しの手間と予算をかけて私にお直しさせてくださいと願い出た。

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開業時にスタッフのお母様が手作りで準備してくださったエプロン。どうやってお直ししようか迷って、ひとまず手芸店にある染料や布用のスタンプを入手してみたけれど、手が止まっていた。それがあるとき、木のテーブルの塗装用に柿渋を手に入れて「あれ、これでエプロンも染められるじゃん」と、一気に染め直した。

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柿渋屋さんのアドバイス通り、刷毛で色付け。染色と言えば、染め液にざぶんと布をつけるのが一般的なようにも感じるが「もったいないから塗ったらええよ」と。ふむふむ。染めたいのは白い布のところだけだったので、このやり方は、その点でも好都合だった。絶妙に、コーヒーみたいな色。シミを隠すだけでなく、これから着くだろう汚れもきっと目立ちにくくしてくれるはず。一説には新型ウイルスを不活性化する効果もあると言われる柿渋。 パリッと繊維をコーティングしてくれ、布がいっそう丈夫になる効果も期待したい。ちなみに、ヘッダーの写真にもあるもう一着は、京都の老舗黒染め屋さんにお願いして、黒より黒い烏の濡れ羽色に染め直していただいた。(もし興味のある方がいればこちらから詳しくどうぞ)

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何かを新しく買ったり、作ったり。そういう祝祭的な行為の暴力性について、ふと考えることがある。あのとき、もし新しく黒のエプロンを買い求めていたら、シャキッと装い新たに、BUoY cafe 3周年!というようなことになっていた、かもしれない。そして初代エプロンは、ひとまず倉庫にと片付けられたのち、何年かして大掃除や退去のタイミングで、大忙しの中その他たくさんのモノ達とゴミ袋にまとめられて、労いの言葉もなしに、知らない車に積まれて、見えない場所で燃やされるか、人も寄り付かない海沿いに埋められて雨風に晒され続けるような未来があったかもしれない。

何かを新しく買ったり、作ったり。そういう祝祭的な行為には、多くの人が惹かれて寄ってくる。BUoY やcafeの立ち上げ、開業期にも、たくさんの人が関与を試みたが(もちろん有難い応援やサポートも多かったことは言わずもがな)祭りのような楽しさと手弁当と勢いでオープンを迎えたときのそれはほとんど張りぼてに近い状態で(劇場だけに)、定着した僅かなメンバーでそこから何とかかんとか、毎日毎週手入れして、小さなお直しを繰り返して、何度ももうやめてやると思いながら、ようやく少しは長い時間海面に浮いていられるブイになったかな、という感じが3年経った今。「作るより直す方が難しい」とは、ある桶職人の言葉でもある。

今日もBUoYでは、日ごとに変わるスタッフの誰かが、シャッターを開けて、掃除をして、コーヒーを淹れて、食器を洗い、見学者を受け入れ、清算、備品や在庫を管理する。それから、シフト提出の締め切りをリマインドして、個別に届く連絡に返信する、ご無沙汰なスタッフにLINEをしながら、パズルみたいに入り組んだ勤務の希望を調整してひと月分のスケジュールを決める。コーヒー豆を注文する、勤務表の記入徹底を何度もお願いする、経理に回す。これを毎月もう34回も繰り返してきた。後半は自分の話ですが。

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これからやりたいこと

と、ここまで書いたが、実のところ、今年の2月を最後にBUoYの店番はしばらくできていない。振り返るとなんでそんな無茶をという気もするが、産後2ヶ月のボロボロの体でも店番したのに、コロナが世界を変え、北千住はかくも遠くなってしまった。(MTGがオンライン化したのと、その時採用させてもらったスタッフの方々がめちゃくちゃ頼れるというのもあるが(大感謝))

その間に、通常の業務に加えて、少しでもお店に貢献しようと取り組んだのが、BUoY cafe のインスタグラム開設と前述したエプロンお直し、それから、内装用の草木の手配と、プラスチックフリーの麦藁ストローの提供だ。

静岡にある実家の畑で育てられた無農薬の大麦を使っている。文字通りの藁。畑に行って、刈る→皮や節を取り除く→カットする、という手間がうんとかかるけど、紙のストローより口当たりがうんとよくて、長時間使っていてもふやけない。プラスチックフリーなので生産に石油由来のエネルギーを使用しないし燃えないゴミにもならない。なんなら数回使って寿命だなと思ったら、そのまま植木鉢や植栽に捨てて、土の養分にすればいい。元々は、義祖父が畑の堆肥用に育てていたものだ。

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東京で店番が出来ない分、こうやって畑にある素材を季節ごと届けていけないかなとぼんやり考えいる。BUoY cafeでは最近キッチンの中での創作が盛り上がっていて、若藤さんや小野さん、稲継さんが独創性高い焼き菓子を週替わりで焼いているし、新しいティーポットも揃えて、片岡さんや日野さんがティーメニューの開発に勤しんでいる。お茶の木やハーブ、柑橘などもコラボレーションしたいなあと、こっそり機会をうかがっている。

とまあ、とりとめなく長くなりましがた、とにかく今、カフェがようやく面白く発酵してきたなあ、の感じがあるので、これを読んでいるみなさんにもぜひ足を運んでほしいです。今週12月11日から始まる、カフェスタッフで現代アーティストの石川さんの展示、インスタレーションもオススメ。

それでは。またいつか!

文責:はしもとさゆり



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