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客席と舞台のはなし

BUoY機材管理スタッフの植村です。普段私は演出や照明、美術などの活動しており、2019年春ごろにスタッフになる以前も、何度かBUoYに照明として、自身の主催する団体として、そして観客として訪れていました。様々な公演に立ち会い、携わっていく中で感じた地下空間の使われ方と劇場の特性についてご紹介したいと思います。やや作り手の方向けの話になるかもしれませんが、よろしければ参考にしていただければ幸いです。

BUoYへ来られたことのある方はご存知かと思われますが、地下スペースは自由に客席を組むことのできる、いわゆる「オープンステージ」になっています。そのため、いらっしゃる方も内容によって毎回違った印象を劇場に持つのではないでしょうか。地下中央には建物を支える大きな柱があり、銭湯の遺構が残されたこの空間は通常のブラックボックスと呼ばれる一般的な劇場と違い、見切れ(客席から見えない場所ができること)の設定が難しくもあります。しかし逆に言えば、他の劇場にない面白い使い方ができるのが特徴です。以下に挙げる例はどれも作品によって微妙にアクティングエリアや客席が違うため、一概にはこの通りではありませんが、使い方の例として大きく分類すると6つのパターンがあります。

*オレンジの網掛けをアクティングエリア(舞台)、青い網掛けを客席のエリアとしてご覧ください。

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BUoYと言えばここの風呂場の遺構が最も目を惹くのではないでしょうか。多くの劇団やカンパニー、主催者の方がこのパターンを選ばれていると思います。風呂場の壁面の岩場にタッチの照明(直接当てるのではなく掠めるような光)を当てると表情が出て面白いです。舞台としては一段高い場所が簡単にできるのもこの場所の良いところです。トークショーやライブなどもここで行われることがあります。

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ここからの3パターンは方角を変えたものなので、同じような頻度かと思われますが、それぞれ特性が微妙に異なりますが、アクティングエリアを広く取ることができます。こちらは入って右側、西を舞台にした場合です。下手の壁によく見ると水道管の遺構があるのがポイントです。かわいいです。


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こちらは入って正面、南を舞台にした例。遅れて来た場合も通常の劇場と同じように入ることができると思います。


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北側が舞台となるパターンです。入場動線側が舞台となるため、通路で迂回させたり、図のように2面舞台にするなど、多少工夫が必要です。ちなみに能舞台の本舞台が三間(約5.45メートル)四方ですので、サイズとしても能舞台に近いと思います。


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そして、囲み舞台のパターンです。2面にしてセンターステージというパターンもありますが、この形も観客・演者のいずれかが自由に動き回れる作品であれば効果的です。比較的客席を多く設置することができますが、舞台との距離は近いため、臨場感が味わえます。

⑥回遊・全体使用

パターンには常に例外が存在します。以上のどのパターンにも当てはまらない、イレギュラーなパターンはいくつも存在します。舞台が2箇所あり交互に進行すしたり、スタンディングで観客も移動しながら見る、客席が途中でなくなるなど、既存の客席と舞台のあり方に囚われずに実験的なクリエイションをすることもBUoYでは可能です。私も全ての公演を実際に見れてはいないため、まだ見ぬ形式があるとは思いますが、参考になれば幸いです。


水の記憶

個人的な話ではありますが、今年になって足立区へと引っ越しました。区役所へ行った私は、様々な手続きの中でハザードマップを渡され、水害に見舞われてきたこの千住地区の歴史に思いを巡らせていました。

BUoYにもそんな千住地区らしい水の記憶が色濃く残っています。暗渠(蓋をされた川)を探す際に、目印にするもの(暗渠界隈ではこれを暗渠サインと呼んでいます)の一つに銭湯があります。より多くの水を必要とする設備であるため、かつては川の近くに建てられていたことに由来しています。剥き出しの水道やマンホール、時折流れる水の音..銭湯の遺構が残されたBUoYの空気は、地下を使う表現者の方々にも多かれ少なかれ影響を与えています。飴屋法水『スワン666』では巨大な水槽が使われ、飴屋法水×山川冬樹『キス』ではより水をテーマに据えました。東雲舞踏ではホースから水が滴る中に肉体が置かれ、布施砂丘彦氏はJ. ブレクトの《水滴の音楽》をプログラムし、増田セバスチャン氏は噴水を浴槽に設置し、大岩雄典氏はセイレーンをテーマとしたインスタレーションを展開しました。

長い歴史が刻まれたBUoYの中で劇場として使われた期間はまだまだ浅いかもしれませんが、今後も少しづつ新たな使われ方が発見されていくのを楽しみの一つにしてみてはいかがでしょうか。

植村 真 

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