文徒インフォメーション Vol.28

Index------------------------------------------------------
1)【Book】サントリー学芸賞、泉鏡花賞、日経小説大賞候補など
2)【Publisher】学研は増収増益
3)【Advertising】電通グループの新経営体制
4)【Digital】筒井康隆、TikTok効果で次々重版
5)【Magazine & News Paper】記事剽窃の毎日新聞、認めて訂正
6)【Marketing】小学館「美的」も付録違いの3バージョン
7)【Comic】縦読み漫画ウェブトゥーンは脅威だ
8)【TV, Radio, Movie& Music】町山智浩の〝格差〟映画本が重版
9)【Journalism】実名ツイート記者・宮原健太が謝罪
10)【Person】アナキスト千坂恭二は細木数子のゴーストだった
11)【Bookstore】扶桑社「チーズはどこへ消えた?」が店頭コラボ
----------------------------------------2021.11.15-11.19 Shuppanjin

1)【Book】サントリー学芸賞、泉鏡花賞、日経小説大賞候補など

◎サントリー学芸賞が次の通り決まった。
〔政治・経済部門〕
中井遼(北九州市立大学法学部准教授)
「欧州の排外主義とナショナリズム ―― 調査から見る世論の本質」(新泉社)
中西嘉宏(京都大学東南アジア地域研究研究所准教授)
「ロヒンギャ危機 ―― 『民族浄化』の真相」(中央公論新社)
〔芸術・文学部門〕
川瀬慈(国立民族学博物館人類基礎理論研究部准教授)
「エチオピア高原の吟遊詩人 ―― うたに生きる者たち」(音楽之友社)
堀井一摩(早稲田大学、津田塾大学等非常勤講師)
「国民国家と不気味なもの ―― 日露戦後文学の〈うち〉なる他者像」(新曜社)
〔社会・風俗部門〕
小島庸平(東京大学大学院経済学研究科准教授)
「サラ金の歴史 ―― 消費者金融と日本社会」(中央公論新社)
竹倉史人(人類学者/独立研究者)
「土偶を読む ―― 130年間解かれなかった縄文神話の謎」(晶文社)
〔思想・歴史部門〕
上村剛(日本学術振興会特別研究員)
「権力分立論の誕生 ―― ブリテン帝国の『法の精神』受容」(岩波書店)
北村陽子(名古屋大学大学院人文学研究科准教授)
「戦争障害者の社会史 ―― 20世紀ドイツの経験と福祉国家」(名古屋大学出版会)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000531.000042435.html
集英社、小学館、講談社の名前はない。「ロヒンギャ危機 ―― 『民族浄化』の真相」と「サラ金の歴史 ―― 消費者金融と日本社会」は中公新書のタイトル。この新書の水準の高さを如実に物語っていよう。

◎音声プラットフォームstand.fmで420万回以上再生された、産婦人科医・高尾美穂による「高尾美穂からのリアルボイス」が書籍化され、「心が揺れがちな時代に『私は私』で生きるには」として日経BPより11月18日に発売された。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000026.000056192.html

◎中日新聞は11月13日付で「見えなくても『ある』世界がある 泉鏡花賞『姉の島』村田喜代子さん」(松岡等)を掲載している。
《海底にあるのはアワビや海藻だけではない。終戦翌年の四月、五島列島沖で米国が爆沈させた旧日本軍の潜水艦群が実在する。ミツルが引き寄せられるのは、三人の兄がいずれも海で戦死しているから。
「私は戦争小説を書く傾向にはない。けれど、海には歴史が降り積もっている。太平洋の水を抜いたら飛行機と船の残骸の広場ですよ」と村田さん。ミツルは海底で、まげ姿の男に「チョウアンの都」への潮路を尋ねられたり、軍服男に「トラック諸島」の方向を聞かれたりするが、「亡霊が出るのは当たり前。だから海で生きる人たちは指輪なんかをして、それにとらわれないようにする」》
https://www.chunichi.co.jp/article/365178
確かに「姉の島」(朝日新聞出版)は泉鏡花賞がとても似合う作品だ。

◎日本経済新聞は11月12日付で「澤田瞳子が江戸の石見銀山を活写 市井の人々の群像小説」を掲載している。澤田の「輝山」(徳間書店)は「江戸後期の石見銀山を舞台に、無名の人々を生き生きと描く時代群像劇」だ。
《登場する鉱山労働者の死生観が印象深い。多額の賃金と引き換えに粉じんなどで健康を害し、大半が30歳過ぎには命を落とす。「私たちはどう生きるかについては教えられるが、死ぬことについては教えてもらえない。彼らは若い頃から覚悟を迫られ、死について考えた」と指摘する。
主人公の下級役人、金吾はかつての上司から石見などを支配する大森代官・岩田鍬三郎の身辺を探る密命を受け、代官所で働き始める。役人の出世争いを軸にしたサスペンスや銀山の歴史、恋模様など様々な要素が盛り込まれ、味わい深いエンターテインメント小説に仕上がっている。》
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD297MK0Z21C21A0000000/
産経新聞は11月14日付の書評で「輝山」を取り上げている。評者の重里徹也は次のように書いている。
《短命は人物の輪郭を濃くする。特に兄貴分の掘子頭の男が魅力的だ。大柄な彼の倫理観や人生観が小説全体を太い河のように流れている。彼を慕う掘子たちは地の底の労働で消耗しながら、その日その日を生きている。労働者たちの裸の連帯感がとても印象的だ。》
https://www.sankei.com/article/20211114-BJKSNVLTKNPVJJJTPEZIU5W65Q/
澤田瞳子は中山義秀文学賞の選考委員でもある。今年の受賞作は蝉谷めぐみの「化け者心中」(KADOKAWA)に決まった。
https://mainichi.jp/articles/20211114/k00/00m/040/106000c
川口則弘がこうツイートしていた。
《蝉谷めぐ実『化け者心中』は、新人賞受賞のデビュー作としてはパーフェクト、と澤田瞳子委員。ただ、他の候補がリアリズムの歴史小説、それに比べて本作は…ていうところをどう見るか、各委員の意見が分かれてます。》
https://twitter.com/pelebo/status/1459765031847948329
澤田がツイートしている。
《蝉谷めぐみさん、ご受賞おめでとうございます! 
そして蝉谷さんのご受賞により、中山義秀文学賞最年少記録が更新です。この記録はそうそう破られまい……。
授賞式の記念講演を楽しみにしています。おめでとうございました!》
https://twitter.com/nono_sansan/status/1459831058443104261
これまでの最年少記録保持者は澤田であった。蝉谷めぐみがツイートしている。
《本日の選考会にて『化け者心中』が第27回中山義秀文学賞を受賞いたしました…! 
土俵に上げて頂いただけでもとんでもない光栄だと思っておりましたので、驚きとともにありがたい思いです。
選考にかかわられた皆々様、ありがとうございました
賞の名に恥じぬよう褌を絞め直して精進して参ります!》
https://twitter.com/megumi_semitani/status/1459800788121784324
文藝春秋が運営する「本の話」は2020年11月19日付で「<蝉谷めぐ実インタビュー>江戸で一番妖艶な、傾奇者たちの鬼探し。話題沸騰中の新世代作家、鮮烈デビューの舞台裏」を掲載している。
《恋愛とも友情とも異なる、二人だけの特別な関係を築き上げていく魚之助と藤九郎。二人の関係の描き方は、極めて現代的な問い、ジェンダーについて見つめる視線も内包している。
形式的な「男女」の狭間を行き来できる存在としての女形とともに、本作の重要なモチーフとなっているのが、「鬼と人間を分かつものは何か」という問答だ。
「人間と鬼との違いが何によって生じるのか、書き進めるうちに私自身もどんどんわからなくなっていきました。むしろ、そこを安易に結論づけたくなくてこの小説を書き進めていったのだと思います。白黒はっきりしない、グレーゾーンにこそ、何か面白いものが潜んでいるような気がして。鬼だけでなく、境界線上に位置するものごとに惹かれます。鬼と人間、綺麗なものと醜いもの、嘘とまこと。その間に生きる人たちの話を、これからも書いていきたいです」》
https://books.bunshun.jp/articles/-/5877
歴史小説や時代小説であっても、大衆に開かれた文学である以上、現在的な課題を抱え込まざるを得ないのだ。

◎赤井英和の妻・佳子は「赤井英和の嫁 佳子」(@yomeyoshiko224)のアカウント名でツイッターを通して赤井英和の日常の様子を投稿しているが、そのフォロワーは22.5万人(2021年11月現在)に及ぶ。扶桑社は、このツイートを書籍化し、11月17日に発売した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000811.000026633.html

◎プロトスターでは、10月22日に「2021年 スタートアップ・ベンチャーで働く人が選ぶビジネス書」の一般投票を実施し、同社内の選考会にて「売上最小化、利益最大化の法則」(ダイヤモンド社)を大賞に選出したそうだ。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000048.000023145.html

◎「週刊ポスト」11月19・26日号は書評で田中学の「お金のむこうに人がいる 元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた予備知識のいらない経済新入門」(ダイヤモンド社)を取り上げている。評者は森永卓郎。田中は《東大理科一類に入学して、工学系修士としてゴールドマン・サックス証券で為替や金利のトレーダーとして活躍した》という経歴を持つ。お金のプロである。しかし、森永は、こう書く。
《著者の一番すばらしいところは、投機の殿堂で16年間も働きながら、カネの亡者にならなかったことだ。著者は、お金そのものの価値に疑問を呈する。お金が価値を持つのは、お金の先に労働があるからだという。おそらく、著者はマルクスを読んでいないと思うのだが、著者の基本理念は、マルクスの労働価値説そのものだ。自分の頭で考えるだけで、マルクスの境地に達することができたのは、著者がとてつもなく賢い証拠だろう。》
https://www.news-postseven.com/archives/20211116_1705445.html?DETAIL
マルクスは少しも古びていないことが証明された。しかし、この本は掘り出し物であった。田中学は面白い。

ここから先は

17,510字
デイリー・メールマガジン「文徒」はマスコミ・広告業界の契約法人にクローズドで配信されている。2013年より月〜金のデイリーで発行し続けており、2021年6月で通巻2000号を数えた。出版業界人の間ではスピーチのネタとして用いられることが多く、あまりにも多くの出版人が本誌を引用するせいで「業界全体が〝イマイ社長〟になっちゃったね」などと噂されることも。

マスコミ・広告業界の契約法人に配信されているクローズドなデイリーメールマガジン「文徒」をオープン化する試み。配信されるメールのうち、出版・…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?