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【今日コレ受けvol.068】ガミガミの余韻

朝7時に更新、24時間で消えてしまうショートエッセイ「CORECOLOR編集長 さとゆみの今日もコレカラ」。これを読んで、「朝ドラ受け」のようにそれぞれが自由に書くマガジン【今日コレ受け】に参加しています。


「ちょっと! 髪がはねてるで! 整えなさい!」

新卒で入った会社には、顔を見るたびに叱られる先輩がいた。理由は、身だしなみ、書類の書き方、残業しすぎ…。とにかく、部署も違うその先輩に、毎日のように叱られる。それも周りに聞こえる大きな声で。
でもわたしは、その先輩が好きだった。

叱り方が驚くほどストレートで、最後にちょっぴり励ましたり、ほんの少し褒めてくださったからかもしれない。
「ちょっと! あんたこの書類間違ってるで! 直しなさい!」からの、
「いろいろ言ったけど、まぁ大変よね。がんばりなさいよ」みたいな感じ。
 
これがもし逆だったら。
褒められた後に、「でもあそこは注意しなさいよ!」と叱られていたら、ちょっと苦手だったかもしれない。

思うにわたしは、その先輩と会った後の、余韻が好きだったんじゃないかと思う。散々叱られても彼女に会った後には、ほんのり温かい余韻が感じられたのだ。なぜか、元気が出た。


しかし今になって考えると、先輩はわざと、人前で叱っていた気がする。
というのもわたしは、その会社の営業部に採用された、初めての事務員だった。本当に偶然だが、その会社を受けようと初めて電話したときに出た方が、同じ大学の出身だったのだ。それで興味を持ってくださり、別の部署の採用試験を受けたのに、営業部に引っぱっていただいた。

つまり、「特別扱い」と言えなくもない立場だったのだ。実際の仕事は事務員にしてはかなりタフで、体力勝負だった。定時に帰れるほかの部署の同期が羨ましかった。けれど、それを「なぜ一人だけ残業させてもらえるのか」と言われることもあったから。
そこを心配して「特別扱いをしていない」と周囲に知らしめるために、あえて大声で叱っていたのではないだろうか、と。

 
あの温かい余韻には、そんな彼女の人柄がにじみ出ていたのかもしれない。
本人に言ったらきっと、「なに言ってるのよ! 違うわよ!」と怒られるだろうけど(笑)。 

「ガミガミ叱る」は本来、ライターがなるべく避けるべき「常套句」なのだけれど。
先輩にはガミガミという言葉がよく似合う。愛あるガミガミ。

いつかまた会えたら、先輩に真意を問いたい。そして必要とあらば、自分がガミガミキャラになっても誰かを思いやれる先輩に、わたしもなりたい。ほんのり温かな余韻を残せる人に。

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