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縁側と緊急事態宣言

 わが家は築ウン十年。中古でリフォームした後に購入したので、外見はそこそこきれいなのですが、昭和の造り。令和の家にはあまりないだろう、縁側があるのです。

 1階の障子張りの和室から、庭に出るところにあります。大人二人が横並びに寝っ転がれるほどのサイズで、茶色の木製の縁側。今は毎日、愛犬が走り回っています。

 4月、緊急事態宣言が発令されたとき、愛犬はまだいませんでした。夕方、縁側にいたのは、テレワークを終えた私と、小学生の息子。学校が休校になった息子は毎日晴れた日の夕方、運動不足解消のために庭で縄跳びをしていました。

 最初は前跳びを少しやっただけでゼエゼエ言って、「もう無理」と投げ出すように縁側に腰かけていた息子。それが、3日、5日、1週間、2週間と続けるうちに、前跳びが100回、200回と続くようになり、後ろ跳びや交差跳びが何十回かできるようになりました。

 「プシュッ」と、缶チューハイを空けて、縁側に座って息子の縄跳びを眺めるのが、私の日課でした。

 最初は1本飲み切る前に息子が根を上げて、「まだ続けんかい」と声を掛ました。呆れるほどにあきらめが早かった息子の縄跳びは、日が経つうちに、半分飲むぐらい、7割飲むぐらいまで、続くようになっていました。

 「二重跳びなんて絶対できない」。そう言っていた息子は、年上の娘の指導のもとで、ある日、成功しました。ビュンビュンビュン。縄が風を切る小気味良い音が響き、不可能だと思い込んでいた二重跳びに成功した息子は、満面の笑顔で、誇らしげでした。

 不安な気持ちが街を埋め尽くしていた4月、毎日同じデスクに向かい、同じ窓から同じ景色を眺めて同じパソコンに向かう。日々の変化が皆無で、変わらない日常の中、唯一、変わっていったのが、縄跳びができるようになる息子の姿でした。

 気付くと、缶チューハイは、息子の縄跳びが終わる前に、1本が空になるようになりました。うれしくなった私は、一緒に縄跳びをすることにしました。飲みながらですが(笑)

 緊急事態宣言が終了して少しして、わが家に愛犬を迎えました。最初は縁側から庭に下りられず、抱っこしてあげました。段差が怖かったのでしょう。でも日が経つうちに、いつの間にか大きくジャンプできるようになりました。

 学校が再開した息子の代わりに、今では縁側を愛犬が元気に走り回っています。息子は縄跳びのおかげで一回り痩せて、スリムになりました。

 大変なことがたくさん起こってしまった2020年。乗り切れたのは、この縁側があったから。

 庭からは富士山が見えます。2021年は、どうか穏やかな年になってほしいと、願っています。今は寒いので、来年の春になったら、またここで飲みたいと思います。

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