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小説学校犬タロー物語➈タローの恩人、松野先生のこと

タロの恩人は職員会でタローを弁護した松野先生です。理科の杉本先生も恩人と言えます。

もう一人の恩人はタローのことを職員会の議題にしてくれた数学科の町田先生です。

タローは学校に住み着いているので野良犬とは言えない、さりとて学校の犬でもないというあやふやな状態であったのです。
このような状態が続き、生徒に害を与えるような事件が起これば、学校から追い出されるか、保健所に連絡されるでしょう。
町田先生が職員会の議題にしてくれたおかげで学校犬にしてもらい、手厚い保護を受け長生きすることができたのです。

ここでタローからしばらく離れて、タローの一番の恩人である松野先生と、ある生徒のことについて話すことします。
 
これから話すエピソードはタローを受け入れてくれた女子高校の校風と深く関係があるのです。

犬が職員会の議題に上り、校長先生をはじめとする全職員が『生徒の心を大切にする』ことに賛成したことに注目してほしいのです。

野良犬、野良猫が学校に入り込む例は数多くあることでしょう。たいていの場合は学校の管理を担当する係の段階で処分されてしまうのです。

タローを救ったのはこの女子高校の生徒の心を大切にするという温かな校風であったといえます。

松野先生と竹村さんのこと
松野先生と先生のクラスの生徒竹村さんのことを三つの場面に分けてお話しします。

場面①:松野先生、職員会で悪戦苦闘する
松野先生は、いつもの職員会では謡曲練習で鍛えた朗々たる声と独特の節回しで意見を述べ、多くの同僚教師の心をゆりうごかす雄弁家です。

しかし、今日はどうしたことでしょう? いつもとは違って、うつむき加減で、苦しそうにして同じ言葉を繰り返しているだけなのです。

今回の職員会は卒業を認定する成績会議です。体育科の先生たちが次ぎ、次ぎと大声で攻撃しています。松野先生が何か悪いことをしたのでしょうか? いや、そうではありません。

問題になっているのは松野先生がホームルーム担任をしているクラスの生徒の竹村さんなのです。

竹村さんは体育実技が苦手です。
1年から2年に進級する時、2年から3年に進級するときも、怠けられるだけ怠け、放課後の特別補習授業をしてもらい何とか進級できたのです。
卒業の時を迎えた今も同じことを繰り返しているのです。

「この子をこのまま認定しては、いくら怠けても最後には何とかしてくれると思ってしまいます。この子の将来にとってもよくありません」という意味の厳しい意見を体育科の先生たちが次ぎ、次と述べたのです。

そのたびに松野先生は「もう一度、機会を与えてください」と絞り出すような声で言うことしかできなかったのです。
それでも体育科の先生は攻撃の手をゆるめません。
松村先生も苦しみながらも教え子の弁護を必死になってしたのです。

最終的には松野先生の熱意にほだされて、体育科の先生たちはもう一度、特別補習授業してあげることに同意したのです。

場面②; 体育科職員室で竹村さん大泣きををする
担任の松野先生の必死のお願いで何とか特別補習授業をしてもらえることになった竹村さんですが,
相変わらず怠けて、体育科職員室に呼び出されて、お説教されています。

竹村さんのクラスの体育授業を担当してる先生の厳しい叱責も、
竹村さんは心の中に自己を正当化する防壁を築き,ふてくれた顔つきをしてはねかえしています。

たまりかねて隣の席の女の先生が立ち上がりました。
体育科の中で一番年配で、職員会議でも言いずらいこともズバッという先生です。
感情を抑えきれない大声で言ったのです。

「あなたは担任の松野先生の気持ちを全然わかっていないのね!
卒業認定の成績会議で松野先生がどんなに苦しい立場にいたか分かっていないでしょう!
次から次へとあなたを非難する意見が出たけれど担任の先生以外、誰一人あなたを弁護する人はいなかったのよ。誰一人もよ!
普段は職員会議で堂々と意見を述べて職員会議をリードするあの松野先生がうつむき加減になって苦しそうに
『もう一度だけ機会を与えてください』と繰り返すだけだったのよ。
あの松野先生がよ!!
ただ一人であなたを守るために必死になってお願いしたのよ!
それなのに,それなのに、あなたは、、、」

厳しい叱責も跳ね返した竹村さんの心の中の防壁が、
思いがけない「担任の先生の愛情」という一撃に出会ってガラガラと崩れ去ったのでした。

竹村さんの心の中で激しい感情が渦巻いて来ました。
もう気持ちの整理ができません。泣くしかありません。 

ふてくされていた顔がクシャクシャになったかと思うといきなり、
ワァーワァーと泣き出したのです。
赤ん坊のように大声で泣きだしたのです。
強がりも恥ずかしさもすべて忘れ去り、涙でいっぱいの顔も隠そうともせずに泣いたのです。

竹村さんの心の中で何かが崩れ去り、新しい何かが生まれつつあったようです。

この後で竹村さんは補習授業を受け、課題をこなして無事、卒業したのでした。

そして3年後、松野先生は竹村さんから素敵な手紙を受け取ったのです

場面③; 3年後、入学式の後の学校説明会で松野先生が語る
入学式が終了後、新入生は担任の先生に引率されてホームルーム教室に入り、残った保護者は教務主任、生活指導主任、進路指導主任から学校生活全般の説明を受けるのです。

この時、生活指導主任になっていた松野先生が保護者に向って語ります。

「子供から大人になる15歳から18歳までの3年間は人生の中で最も不安定な時期です。
あふれるような若いエネルギーが自己の成長につなげることができると良いのですが、中にはそれが上手にできなくて悩む子供もいます。
そのような子供が内にこもると不登校等になり、外に出ると親や教師に対する反抗等の問題行動になるのです。
このような時、慌てず、騒がずにどっしりと構えて大きな愛で包んでやってください。
コミュニケーションをとれるようにして見守ってください。
そうすれば決して暴走することはありません。
この不安定な時期を過ぎれば、みんなよい奥さん、良いお母さんになるのです。
さて、私は最近、3年前に卒業した教え子から素敵な手紙をもらうことができました。
この子は在学中、成績会議のたびごとに問題になった生徒です。
これからその手紙を読みます。」と述べて竹村さんからの手紙を読み上げたのです。

『先生、お久しぶりです。お元気ですか。私は昨年結婚し、今年赤ちゃんが生まれました。丈夫なかわいい赤ちゃんです。

子を持つ親の身になって思い出すのは、在学中、困った生徒であった私に注いでくださった先生の深い、深い愛情です。
本当にお世話になりました。ありがとうございました。

それにつけても心配なのは先生のご健康のことです。また、かつての私のような困った生徒を受け持つことがあっても、どうかコンをつめすぎないでください。お体によくありません。

どうか、ご健康を害しない範囲内で面倒を見てあげてください。
お願いします。先生のご健勝をお祈り申し上げます。お元気で。』

手紙を読み上げた後で松野先生はさらに続けました。
「在学中に私に面倒をかけさせた生徒ですが、3年後にはこのように良いお母さんになっているのです。そればかりではなく私の健康のことまで心配してくれたのです」と述べたのです。

松野先生が言い終わると同時に、保護者の間から笑いを含んだ軽いざわめきが起こりました。

良い御話を聞かせていただきましたというざわめきです。

さすがは松野先生です。
通常、生活指導主任は校則を延々と説明し、あれをしてはいけない、これをしてはいけないと言って、保護者の協力を求めるのが一般的な生活指導主任の学校説明なのです。

松野先生と竹村さんのことを記憶していた同僚教師の多くは目がしらがジーンとして、涙がにじんでくるのを抑えることができなかったのです。

タロー物語第一部、あとがき、そして第2部の概要
校地内の奥まったところに位置する池と藤棚がある中庭(見出しの写真参照)は生徒達そして職員たちにとっても憩いの場でした。
そこにタローが繋がれてからは癒しの場、憩いの場としての役割が格段に増大したのです。
第二部はセラピー犬として活躍したタローについて書きます。
下記の①から③にについて書きます。

①50代の独身の男性教師である大町さんはタロパパ呼ばれるようになり女生徒たちから親しまれるようになったのです。
その風貌、同様にパッとしない教師としての経歴の持ち主であった大町さんはタロ-のおかげで、退職まじかの時期に「有終の美」を飾ることができたのです。

②不登校生徒のAさんについて;
不登校の生徒のAさんは学校側の計らいによって保健室登校をするようになりました。
保健室で出された課題をやることによって出席扱いにされたのですが、クラスで授業を受けることはできませんでした。
休み時間にタローがいる中庭で寛ぐようにになりりました。
そして、少しづつですがタロを囲む生徒たちの「愛の輪」に入っていったのです。
やがて,動物好きの仲良し3人グループの一員になることができ、仲間の助けを得てクラスで授業を受けられるようになったのです。
無事に、卒業できたのです。

③拒食症に悩んだBさんについて;
自然体で生きるタロー、過去について悔やまず、未来につて不安を感じず、現在を精いっぱい生きているタローを見てBさんは感じるところがあったようです。
タローを囲む愛の輪の中に入り、Bさんの中にあった、こだわりがほぐされていったのです。
拒食症から回復したBさんは積極的に行動するようになり生徒会長選挙に立候補したのです。
そして 生徒会長になった時にタローの死を迎えたのです。
Bさんはタローのお墓づくりを目指すのでした。




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