業務プロセスとデータの枠組み2:需要予測

分析屋の下滝です。別連載で「DXとマーケティング」を書いています。

この新しいシリーズでは、業務プロセスとデータとの関係を中心に、データ活用を考えるのに役立つような枠組みを考えていきたいと思います。

今回は、売上需要予測を例として、枠組みの表現力を確認します。

前回の話

前回は、以下のような単純な枠組みからスタートしました。

画像2

そして、この枠組を使い「実績数字の集計と報告」という業務プロセスとその業務プロセスの改善を表現しました。

最終的には以下のような枠組みを考えました。

画像1

最終的には、以下を学びました。そして、この連載の方向づけが少し明らかになりました。4つの視点を意識しています。
・汎用的な要素と特化した要素の視点
・要素の評価の視点
・要素の変化の視点
・要素の変化のパターンの視点

汎用的な要素と特化した要素の視点:まず、枠組みとして要素を明示的に表すことで、体系的な視点が得られるようになりそうです。汎用的な概念として「プロセス(業務プロセス)」、「プロセスへの入力」、「プロセスの出力」、「プロセスの実行者」、「プロセスの実行において使用されるツール」が今の所は存在しそうです(これら汎用的な概念はまだ枠組みでは明示的には表現されていません)。

画像5

そして、これら汎用的な概念(要素)は、より特化した具体的な要素として表現されます。たとえば「プロセス」は「集計と報告のプロセス」となります。

画像6

要素の評価の視点:そして、それぞれのより特化した具体的な要素において、どのような課題や問題が発生しそうかを評価するような視点が得られます。この視点を含める理由は、議論としては少し暗黙的ですが、我々は暗黙的により良いプロセスを目指している、という前提があるためです。たとえば「レポートをもとにした意思決定プロセス」での「リアルタイムでの集計容易性」が低い問題を、「ダッシュボードをもとにした意思決定プロセス」で置き換えることで、より良いプロセスを目指している、と言えそうです。

画像7

要素の変化の視点:次に、現段階での枠組みでは、十分に強調して表現されていませんが、「世界は変化する」という視点を持てるかもしれません。もう少し具体的に言えば、特定の目的を達成するための業務プロセスは、必ずしも永続的でない、と言えそうです。「良いプロセスを目指す」中で、特定のプロセスが現状のプロセスを置き換えるようなことが起こります。また、プロセスが置き換える準備ができているかどうかは、外部環境の状況によります。たとえば、十分に使えるようなダッシュボードツールが存在しなければ、プロセスの置き換えはできません。

画像8

要素の変化のパターンの視点:同じく、現段階での枠組みでは、十分に強調して表現されていませんが、要素の変化には繰り返し発生するようなパターンがあるという視点を持てそうです。たとえば、「レポートをもとにした意思決定プロセス」は「ダッシュボードをもとにした意思決定プロセス」で置き換える、というのは、多くの企業で発生しようなパターンです。このようなパターンが発生するのは、特定の抽象度での問題が繰り返し発生するためだと考えられます。問題が繰り返し発生するならば、その問題を解決するための方法も繰り返し発生すると考えられます。

画像9

まとめると、以下のような原理があると考えられそうです。
・汎用的な要素の視点を持つことで、考えられなければならない範囲が決まります。そして、汎用的な要素は特化して表現できます。特化してより具体的に考えることで、その範囲内で要素の評価を行えます。要素の評価の結果、問題があると分かった場合、要素の変化が起こります。要素の変化には、パターンがあります。

そして、原理に基づき、次のような方法論を検討できます。
・いくつかのパターンが十分に得られたのであれば、そのパターンの適用できる状況を把握し、状況が適切ならばパターンを適用することでより適切な状況に向かって改善していくという流れが考えられます。

最終的には、特定の業種や部門で使えるデータ活用のパターンカタログが作れるかもしれません(参考:パタン・ランゲージ)。

今回の話:需要予測

今回もこの枠組みが、より具体的な現実をうまく表現できるか試してみます。前回と同じく、デジタルガレージの渋谷直正氏の記事の例を試してみます。

データ分析をしていいことは何? デジタルガレージ渋谷氏が解説

渋谷氏によれば、データ利活用の道筋は大きく分けて以下の3つがあるとのことです。詳しくは記事を参照してください。
1.既にデータを使っている業務を、より効率化・高度化する
2.現在は勘や経験に基づいて行っている業務を、データを使って効率化・高度化する
3.データを使うことで、新たなサービス、ビジネスを生み出す

今回は1の続きについて考えていきます。1の例として以下があげられています。
・毎月の経営会議や営業現場における実績数字の集計と報告
・一部の部署における売上需要予測

1つ目は前回とりあげ、枠組みの表現力の確認のために使いました。

今回は、2つ目を取り上げます。渋谷氏の解説は以下となります。

また単純な集計ではなくもう少し高度なデータ活用、例えば需要予測などを行う部署の業務も、最新のAIのアルゴリズムを適用させることで精度向上が見込めるかもしれない。職人的な社員の属人能力に頼っていた予測モデルを、誰にでも再現できるようにひもといてホワイトボックス化することで、そのノウハウを真の意味で企業に根付かせられるという点で有効なデータドリブン施策だ。このように既にデータを使った意思決定業務であっても、それを効率化・高度化する余地は大きく、新しいことを始めるのに比べて取り組みやすい領域のため、最初に取り組むのがいいだろう。

この解説から要素を抽出してみます。
・「需要予測などを行う部署の業務」
・「最新のAIのアルゴリズム」
・「精度向上」
・「職人的な社員の属人能力に頼っていた予測モデル」
・「誰にでも再現できるようにひもといてホワイトボックス化」
・「そのノウハウを真の意味で企業に根付かせられる」
・「既にデータを使った意思決定業務」
・「それを効率化・高度化する」

これら要素を整理してみます。前回記事では、枠組みの汎用的な要素として以下を特定しました。この要素に基づいて、解説の要素を整理してみます。
・「プロセス」
・「プロセスへの入力」
・「プロセスの出力」
・「プロセスの実行者」
・「プロセスの実行において使用されるツール」
・上記の各要素に対する評価(枠組みでは煩雑になるため表現しない)

以下は、整理した要素です。順番は少し変えました。既存業務からより高度な業務への流れになるように変更しています。

・「需要予測などを行う部署の業務」
 ・「部署」がある。「プロセスの実行者」に対応するかは検討。
 ・「部署の業務」がある。「プロセス」に対応するかは検討。
 ・「需要予測業務」がある。「プロセス」に対応。
 ・「需要予測業務の実行者」がいる。「プロセスの実行者」に対応。
・「職人的な社員の属人能力に頼っていた予測モデル」
 ・「需要予測モデル」がある。「プロセスの出力」「プロセスへの入力」「プロセスの実行において使用されるツール」に対応。
 ・「需要予測モデル作成者」がいる。「プロセスの実行者」に対応。
 ・「需要予測モデル」の評価として「属人性」がある。「評価」に対応。
・「精度向上」
 ・「需要予測業務」の評価として「精度」がある。「評価」に対応。
・「誰にでも再現できるようにひもといてホワイトボックス化」
 ・「需要予測業務」の評価として「再現性」がある。「評価」に対応。
・「最新のAIのアルゴリズム」
 ・「AIのアルゴリズム」がある。「プロセスの出力」「プロセスへの入力」「プロセスの実行において使用されるツール」に対応。
 ・「需要予測ためのAIのアルゴリズム」がある。「プロセスの出力」「プロセスへの入力」「プロセスの実行において使用されるツール」に対応。
 ・「需要予測ためのAIのアルゴリズムを使う業務」がある。「プロセス」に対応。
・「そのノウハウを真の意味で企業に根付かせられる」
 ・「企業」がある。何に対応するのかは検討。
 ・「企業」の評価として「ノウハウの企業所有」がある。評価ではあるが、何に対応するのかは検討。
・「既にデータを使った意思決定業務」
 ・「意思決定業務」がある。「プロセス」に対応。
 ・「データを使った意思決定業務」がある。「プロセス」に対応。
・「それを効率化・高度化する」
 ・「データを使った意思決定業務」の評価として「効率性」「高度程度」がある。「評価」に対応。

ではこれら特定した要素を、枠組みで表現していきます。

需要予測業務

まずは、以下から考えていきます。

・「需要予測などを行う部署の業務」
 ・「部署」がある。「プロセスの実行者」に対応するかは検討。
 ・「部署の業務」がある。「プロセス」に対応するかは検討。
 ・「需要予測業務」がある。「プロセス」に対応。
 ・「需要予測業務の実行者」がいる。「プロセスの実行者」に対応。

これらを枠組みの要素として表現するかどうかを見ていきます。

まずは、「部署」の要素を枠組みに取り入れるかどうかです。これまで枠組みの要素は、評価の観点からも議論してきました。「部署」の評価としてたとえば「属人性」というものを入れるのであれば、意味があるのかもしれません。

次に、「部署の業務」です。これは「部署が行う需要予測業務」を一般化したものです。「部署の業務」の一般度では、あまり面白いことは無いかもしれません。「部署の業務」の評価としてたとえば「属人性」というものを入れるのであれば、意味があるのかもしれません。また、プロセスとしての「部署の業務」の評価として「属人性」が高いということが、「部署」の評価として「属人性」が高い業務がある、または、多いと表現できそうです。

この枠組みの活用の観点から見てみるとこういうことも言えそうです。
・「部署(や部門、とった単位)」の種類(マーケティング部、営業部、人事部等)が決まれば、「部署の業務」の集合が決まる。
・「部署の業務」が決まれば、「評価の項目」が決まる。
・「評価の項目」が決まれば、改善の方向性が決まる。

もちろん、現実的には、部署名が同じでも行っている業務が同一であるとは限りません。

では、枠組みで表現してみます。「部署」と「部署の業務」はいったん、外しました。今回も単純な枠組みを拡張する形で考えていきます。前回作った最終的な枠組みの要素と今回扱う要素とは、まだ関係がないと思われるためです。

画像3

この枠組みでは、需要予測業務を、プロセスであると明確にするために、「需要予測業務プロセス」としました。需要予測業務プロセスは、「データ」を入力として、行われるとしました。このプロセスの結果は、「需要予測結果」であるとしました。

「データ」では抽象度が高すぎるかもしれません。また、「需要予測結果」が具体的にどのようなものであるのかも、筆者の知見不足もあり分かりません。参考として、たとえば『需要予測の基本』という書籍では、商品ごとの月単位の予測が例としてあげられています。たとえば、ハンドクリームの月単位の予測です。何ヶ月先までの予測をするのか、といった具体的なものは、業種や商材によって変わると思われます。「データ」としては過去データとして販売実績が一例としてあげられています。

枠組みの活用の課題として、以下が残りそうです。
・部署や部門といった単位をどのように扱うのか。
・汎用的な「データ」という要素を、より具体的な業務プロセスの抽象度に合うような抽象度で表現すること

以下に枠組みに追加した要素を整理します。

・プロセスへの入力:データ
・プロセスの出力:需要予測結果
・プロセス:需要予測業務プロセス
・プロセスの実行者:需要予測業務実行者
・プロセスの実行において使用されるツール:なし

前回と同じく、枠組みからは以下のように「需要予測業務プロセス」の評価に関係する要素が特定できそうです。
・プロセスへの入力:「データ」に問題がある。たとえば、間違っている。
・プロセスの実行者:「需要予測業務実行者」に問題がある。たとえば、予測に関する知見が足りない。
・プロセスの出力:「需要予測結果」に問題がある。たとえば、予測精度が悪い。
・プロセス:「需要予測業務プロセス」に問題がある。たとえば、予測結果を出すまでに時間がかかりすぎている。

予測モデルと需要予測業務の評価

次に、以下を考えます。

・「職人的な社員の属人能力に頼っていた予測モデル」
 ・「需要予測モデル」がある。「プロセスの出力」「プロセスへの入力」
「プロセスの実行において使用されるツール」に対応。
 ・「需要予測モデル作成者」がいる。「プロセスの実行者」に対応。
 ・「需要予測モデル」の評価として「属人性」がある。「評価」に対応。
・「精度向上」
 ・「需要予測業務」の評価として「精度」がある。「評価」に対応。
・「誰にでも再現できるようにひもといてホワイトボックス化」
 ・「需要予測業務」の評価として「再現性」がある。「評価」に対応。

これらを枠組みの要素として表現するかどうかを見ていきます。

次のような枠組みを考えてみました。「需要予測モデル」と「需要予測モデル作成者」以外の要素は「評価」にあたる要素なので表現しません。

画像4

ここでは、「需要予測モデル」を作成する新たなプロセスが別に存在するとして表現しました。「需要予測モデル作成プロセス」と呼んでいます。実際には、このプロセスは、「需要予測業務プロセス」に含まれるプロセスかもしれません。

「需要予測業務プロセス」は、「データ」と「需要予測モデル」を入力として受け取り、業務を実行すると表現しました。

「需要予測業務プロセス」の範囲の広さを『需要予測の基本』という書籍をもとに確認してみます。たとえば、新商品の需要予測精度を高めるのには、ナレッジマネジメントと呼ぶプロセスが必要だと書かれています。紹介されているナレッジマネジメントは次のステップとなります。
1.根拠を明確に記し、需要予測を行う
2.実績が出たら、「当たり」「ハズレ」だけでなく、根拠も想定通りだったか、乖離した理由は何かも振り返る
3.振り返りについて複数の有識者で議論する
4.振り返りで得た知見を体系的に蓄積する
5.活用を促す
6.継続的な活用を促す

上記からは「需要予測モデル作成プロセス」に含まれないような細かな業務が存在しそうなことが分かります。

枠組みの話しに戻ります。以下に枠組みに追加した要素を整理します。

・プロセスへの入力:需要予測モデル
・プロセスの出力:需要予測モデル
・プロセス:需要予測モデル作成プロセス
・プロセスの実行者:需要予測モデル作成者
・プロセスの実行において使用されるツール:なし

これら要素に関し、評価に関係する要素が特定できそうです。確認として、以下の3つは、渋谷氏の記事から特定したものでした。
1「需要予測モデル」の評価として「属人性」がある。
2「需要予測業務」の評価として「精度」がある。
3「需要予測業務」の評価として「再現性」がある。

これらを含めながら、評価に関係する要素を考えてみます。

・プロセスへの入力、出力:「需要予測モデル」に問題がある。たとえば、属人性が高い(1に対応)。
・プロセスの実行者:「需要予測モデル作成者」に問題がある。たとえば、予測に関する知見が足りない。
・プロセス:「需要予測モデル作成プロセス」に問題がある。たとえば、予測結果を出すまでに時間がかかりすぎている。
・プロセス:「需要予測業務プロセス」に問題がある。たとえば、需要予測結果の再現性が低い(3に対応)。
・プロセスの出力:「需要予測結果」に問題がある。たとえば、精度が低い(2に対応)。プロセスとしての精度ではなく、結果としての精度とここでは表現しました。

何を学んだか

表現力:枠組み内で、渋谷氏の記述を、表現できるものとできないものがありそうでした。
体系的な視点の提供:枠組みを使うことで、より体系的に、プロセスにおいて発生しそうな問題を特定・仮定できそうでした。

1つ目の表現上の課題として、以下が残りそうです。
・部署や部門といった単位をどのように扱うのか。
・汎用的な「データ」という要素を、より具体的な業務プロセスの抽象度に合うような抽象度で表現すること。

2つ目は、もう少し考察すると次のように考えられるかもしれません。業務としてのデータ活用の最適な設計・実行を考える上では以下の視点が必要である。
・プロセスの視点:「プロセスへの入力」、「プロセスの出力」、「プロセス」
・人の視点:「プロセスの実行者」
・ツールの視点:「プロセスの実行において使用されるツール」
そして、
プロセス内の優先順位の視点:これら視点うち、どのように優先順を付けるのかも課題となるかもしれません。
・プロセス間の優先順位の視点:また、プロセスは、プロセスへの入力・出力という関係から、他のプロセスとの関係を持ちます。上流のプロセスの出力の品質が、下流プロセスの品質を決めるのであれば、プロセスレベルで、どのプロセスの最適化を優先付けるのかも課題となるかもしれません。

まとめ

今回は、需要予測業務を例とし、枠組みの表現力を確認しました。

次回は、この例の続きを扱います。続きはこちら

株式会社分析屋について

https://analytics-jp.com/

【データ分析で日本を豊かに】
分析屋はシステム分野・ライフサイエンス分野・マーケティング分野の知見を生かし、多種多様な分野の企業様のデータ分析のご支援をさせていただいております。 「あなたの問題解決をする」をモットーに、お客様の抱える課題にあわせた解析・分析手法を用いて、問題解決へのお手伝いをいたします!
【マーケティング】
マーケティング戦略上の目的に向けて、各種のデータ統合及び加工ならびにPDCAサイクル運用全般を支援や高度なデータ分析技術により複雑な課題解決に向けての分析サービスを提供いたします。
【システム】
アプリケーション開発やデータベース構築、WEBサイト構築、運用保守業務などお客様の問題やご要望に沿ってご支援いたします。
【ライフサイエンス】
機械学習や各種アルゴリズムなどの解析アルゴリズム開発サービスを提供いたします。過去には医療系のバイタルデータを扱った解析が主でしたが、今後はそれらで培った経験・技術を工業など他の分野の企業様の問題解決にも役立てていく方針です。
【SES】
SESサービスも行っております。