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マーケティング課題の一覧とデータ活用 その2:MA施策

分析屋の下滝です。

マーケティングの課題を網羅してデータ活用との関係を考えてみようシリーズの二回目です。

マーケティング活動における様々な課題を収集し、その課題に対する解決方法がデータを活用するものであるとします。そうすると、データの種類から、どのような課題と解決方法が可能なのかを検索できるような仕組みが作れると考えられます。

前回は、『課題解決型マーケティング・リサーチ 事例編』という本を参考に、マーケティング活動における課題の例を確認しました。課題とは、たとえば、
・商品の購入者とターゲットにズレはないか
・開発中の商品のコンセプトはターゲットとベネフィットが明確か
というように表現されるようなものでした。

そして、今後の議論の枠組みととなる、次のような単純なモデルを考えました。

・マーケティング活動:マーケティング活動を表します。どこまでをマーケティング活動に含めるのかは、必要に応じて議論します。
・マーケティング課題:マーケティング活動において、発生する課題を表します。たとえば「商品の購入者とターゲットにズレはないか」というものです。ただし、どのようなものを「課題」として定義し、「課題」とみなすのかは必要に応じて考えていきます。
・マーケティング課題解決方法:マーケティング課題の解決方法にあたるものです。「コンセプト評価調査」や「初期購入者追跡調査」などです。
 ・マーケティング課題解決方法(データを使う):データを使う、マーケティング活動課題解決方法です。
 ・マーケティング課題解決方法(データを使わない):データを使わない、マーケティング活動課題解決方法です。

この枠組みでは、データ活用に関心があるため、マーケティング課題の解決方法をデータを使うものと使わないものに分類しました。

MA施策における課題と解決方法

今回は、dataXさんのeBook『成果につながるMA施策10選』を事例として、前回のモデルの表現力を考えたいと思います。

このeBookでは、MAを用いた10の施策が紹介されています。すべてが顧客にメールを送信する施策となります。さらには、メールを受け取った顧客が何らかの行動をすることを期待する施策となります。
・会員登録直後の初回購入促進メール
・会員登録後のユーザーアクションに基づいたステップメール
・初回購入客の育成メール
・リピーター客の離脱防止メール
・優良顧客の優待メール
・離脱顧客の復活メール
・購入商品別のおススメメール
・ポイント期限切れ告知メール
・Web閲覧履歴メール
・購入リマインドメール

同eBookによれば、MAとは次のようなツールです。

MAとは「獲得した見込客(=リード)に対して最適なコミュニケーションを行い、エンゲージメントを高め、購買意欲が高まった見込客へと育成をした段階で営業に引き渡す」といった一連のマーケティング活動を自動化するツールです。

MAの目的は以下となります。

顧客や見込み顧客がこれまでとってきたアクションをもとに、「最適なコンテンツを、最適なタイミングで、最適な方法で届ける」ことを目的に利用されます。

さきほどの10の施策は、顧客の育成フローのどの段階を対象としているのかで分類されています。
・ステップ1:会員登録 → 初回購入
 ・会員登録直後の初回購入促進メール
 ・会員登録後のユーザーアクションに基づいたステップメール
・ステップ2:初回購入 → リピート購入
 ・初回購入客の育成メール
 ・リピーター客の離脱防止メール
・ステップ3:優良顧客の維持
 ・優良顧客の優待メール
・ステップ4:離脱客の防止・引上
 ・離脱顧客の復活メール
・ステップ5:その他、顧客データを基にした必須施策
 ・購入商品別のおススメメール
 ・ポイント期限切れ告知メール
 ・Web閲覧履歴メール
 ・購入リマインドメール

今回はまず、1つ目の施策を確認し、前回のモデルや、『課題解決型マーケティング・リサーチ 事例編』での枠組みとどのように関係づけられるのかを見てみます。

会員登録直後の初回購入促進メール

eBookでは、この施策が解決する課題は「会員登録を済ませた顧客が初回購入に至らず、そのまま離脱してしまうケース」と表現されています。

この課題に対する解決策が「会員登録後の初回購入促進メール」となります。

eBookでは、会員登録後にクーポンをメールで送付する施策はどこの企業でも実施している施策であると書かれていますが、MAを使えばさらに次のような解決策(施策)ができるとして紹介されています。
・同年代・同性別の購入率の高い商品のクーポンを送付する。
・ユーザーごとのサイト閲覧履歴を活用し、閲覧したページやサイトに流入したキーワード毎に相性の良い商品をおススメする。

それぞれで、次のデータを用いています。
・顧客データ(会員登録日・性別・年齢など)
・サイト閲覧履歴データ
このように、データを使っているのが、単に「クーポンをメールする」施策とは区別できる点と言えそうです。

eBookでは書かれていませんが、基本的には、「データを使うことで購入確率が向上する」というのが、この施策の前提にある考え方だと思われます。

モデルへの当てはめ

では、まずは素直にモデルに当てはめられるのかを確認します。

各要素を順に見ていきます。

マーケティング活動
これに関しては後ほど議論します。

マーケティング課題
マーケティング課題には「会員登録を済ませた顧客が初回購入に至らず、そのまま離脱してしまうケース」が対応すると考えられます。

ただし、課題としての表現の統一性があるのかは議論が必要かもしれません。前回の記事での課題の表現は、以下のように「~か」というものがほとんどでした。
・商品の購入者とターゲットにズレはないか
・開発中の商品のコンセプトはターゲットとベネフィットが明確か
今回の課題は同じような表現はされていません。課題の表現に関しては後ほど議論します。

マーケティング課題解決方法(データを使う)
データを使うマーケティング課題解決方法には、以下が対応すると考えられます。
 ・「同年代・同性別の購入率の高い商品のクーポンを送付する」
 ・「ユーザーごとのサイト閲覧履歴を活用し、閲覧したページやサイトに流入したキーワード毎に相性の良い商品をおススメする」

データ
データには、以下が対応します。
・顧客データ(会員登録日・性別・年齢など)
・サイト閲覧履歴データ

マーケティング課題解決方法(データを使わない)
データを使わないマーケティング課題解決方法には「会員登録後にクーポンをメールで送付する」が対応すると考えられます。実際にはデータを全く使わないわけではないので(会員情報というデータを使っている)、議論が必要なケースがあるかもしれません。

ここまでを前述のモデルにあてはめました。

以下では、残った要素である「マーケティング活動」に関して、前回の記事での枠組みをもとに考えてみます。

『課題解決型マーケティング・リサーチ 事例編』では、マーケティング活動を、商品・サービス導入の前後で2つに分けて考えていました。

前者は、導入する商品ならびにサービスを「開発するプロセス」です。
後者は、導入後の商品ならびにサービスを「育成するプロセス」です。

さらに、各プロセスは、次のような工程で構成されるとして説明がされています。

では、今回の課題である「会員登録を済ませた顧客が初回購入に至らず、そのまま離脱してしまうケース」は、これら工程のどこかに当てはまるのでしょうか。

まず、開発するプロセスではありません。すでに商品は開発されていると考えられます。

では、育成するプロセスでしょうか。ぱっとみ異なるようです。
・浸透度チェック:チェックしたいわけでありません。
・購入実態の把握:購入実態を把握したいわけではありません。
・広告(キャンペーン)効果測定:効果測定をしたいわけでありません。
・ブランド評価:ブランド評価をしたいわけでありません。
・消費者実態の把握:消費者実態の把握をしたいわけでありません。

したいのは、「会員登録を済ませた顧客が初回購入に至らず、そのまま離脱してしまうケース」をなんとかしたい、というものです。会員登録したすべての顧客が購入するとは恐らく限らないため、初回購入する可能性のある顧客には、できる限りはやく購入してもらいしたい、と言い直せるかもしれません。

以下の図では、顧客の段階(状態)の遷移を表しています。「会員顧客」は、初回の購入を行えば「初回購入顧客」に、一定の期間がたてば「離脱顧客」に遷移すると、ここでは表しています。

改めて考えてみます。では、開発・育成のどちらにも当てはまらない理由はどこにあるのでしょうか。考えられるのは、この課題は、マーケティングリサーチが対象とする範囲ではないということです。

マーケティングリサーチの役割は、『課題解決型マーケティング・リサーチ 事例編』では、次のように述べられています。
1.マーケティングリサーチは、マーケティング課題解決の手段である。
2.マーケティングリサーチは、マーケティング課題解決の意思決定に役立つ。
3.マーケティングリサーチは、開発・育成プロセスにおいて、次の工程に進むべきかどうか、どう進むべきかの指針を得る活動として実施される。

それぞれに関して、当てはまるか確認します。

1つ目に関しては、今回のものが当てはまると考えられます。マーケティング課題があり、その課題の解決方法(手段)があるためです。

2つ目に関しては、当てはまりません。「会員登録直後の初回購入促進メールを送信すること」が、意思決定に役立つわけではないためです。

3つ目に関しては、当てはまりません。明確な工程はなく、指針を得たいわけでもないためです。基本的には、顧客のライフライクルを最適化したいと言えそうです。CRMと呼ぶのかもしれません。

まとめとしては次のように言えそうです。「会員登録を済ませた顧客が初回購入に至らず、そのまま離脱してしまうケース」という課題を解決するために「会員登録直後の初回購入促進メールを送信すること」は、
1.マーケティングリサーチが対象とする課題と解決方法ではない。
2.商品・サービス導入後の「育成するプロセス」で発生する課題と解決方法かもしれないが、マーケティングリサーチが対象とする工程では恐らく発生しない。

では、「マーケティング活動」の要素として、今回のものを、どのように当てはめて考えればよいでしょうか。一つは、「プロモーション活動」において発生する課題と解決方法とみなすことかもしれません。

これは、4Pの枠組みの中で考えられるかもしれません。
・製品(Product)
・価格(Price)
・プロモーション(Promotion)
・流通(Place)

『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』より

さらにいうなら、施策ではクーポンを用いていましたので、この場合は、プロモーションの中の「販売促進」の活動と言えます。

『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』では、販売促進とは「消費者の購買、もしくは流通業者の販売意欲を促進するための短期的な取り組みである」と述べられています。この取組みの中には、クーポンが含まれます。

『AIアルゴリズムマーケティング』では、プロモーション(と広告)の目的は、「さらに多くの購入や対象商品の購入などを働きかけることで、顧客行動を変化させ、消費者の意思決定に影響を与えることにある」と述べられています。以下の図は、この記述を参考に、今回のケースを表現してみました。

ここでは、ある段階(状態)の顧客が、何らかの働きかけを受けることで、意思決定に影響を受け、特定の行動を行い、次の段階(状態)に変化することを示しています。

より抽象的には、次のように表現しました。

ここではデータを使うケースとして表現していますが、使わない場合でも同様です。

次回は、プロモーション活動の視点でより詳しく今回の施策を考えてみます。

まとめ

企業活動における様々な場面において、データの活用の機会が見られます。

マーケティング活動におけるデータの活用を促進するためには、次の手順のアプローチが考えられます。
1.マーケティング活動における課題、その解決方法、解決方法におけるデータの役割を整理する
2.データが決まれば課題と解決方法が決まる、というパターンを収集する

今回は、MAにおけるメール送信施策を取り上げ、前回用いたマーケティングリサーチでの枠組みとモデルに対し、その施策との関係を考えました。

結論としては、この施策は、マーケティングリサーチが対象とする課題と解決方法ではない、というものでした。恐らく、プロモーション活動での課題と解決方法ではないかと議論しました。

次回は、今回扱った施策を、プロモーション活動の視点から見ることで、さらなる整理を行います。

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