見出し画像

本日の「読了」──デッド・エンドのそのさきに。

山﨑章郎『ステージ4の緩和ケア医が実践するがんを悪化させない試み』(新潮社 2022)

医者の闘病記はあまたあるが、本書の特長は「緩和ケア医」がガンになった時ということだ。
 山崎氏のガンは診断時すでにステージ4。手術不適応であった。化学療法を試すも体に合わず中止。そこから山﨑氏の「人体実験」が始まる。
 本書はタイトル通り、末期がんからの奇跡の生還や根治を目指すのではなく、生活の質を維持しつつ、がんとの共存──最低「現状維持」──を目指す「自己実験」の書である。



内容はネタバレになるので控えるが、主治医に「あたたかく?」見守られながら、代替療法を医療者独自の視点からアレンジして実践。実践するだけでなく、データを取り、主治医のもとで定期検査で確認。さらに、改良を重ねていく。「実験材料」としての自分を「観察」「記録」する研究ノート的なものである。もちろん、実験には前提条件があり、万人に可能なわけではない。
 取り入れる代替療法には「へ?」というものや「まだあったのか?」と言うものまであるが、すでに、ガン治療の標準治療からは見放され、1か月2カ月の延命のために抗がん剤の副作用に耐えることもできない人が、余命を生き切るために何かできるとこはないのか? と、緩和ケア医は奮闘する。
 筆者は「ケアタウン小平」という施設群を率いており、その筋(どの筋?)では著名な人(私ですら存じ上げており、ケアタウンは一度は訪ねてみたい“聖地”である)で、先日SNSで、そのケアタウンを別の人に引き継ぐという書き込みを見ていたので、本人の状態は……と、ドキドキしながら最後まで読み進めたが、結末は、予想外。
 
山﨑氏が示すのは、がんの標準治療の否定ではない。標準治療が想定しない先の、緩和ケア「治療」の新たな手法の開発である。
 だからといって、何百万何千万円も費用の掛かるものではなく、本書でも書かれているように「コンビニを便利に」また、「手軽に入るサプリメント」を援用しながらできる手法。山﨑氏の言う「治験」が進み、効能がより明確になれば、特化した機器やサプリの開発はさほど難しくないと予想できる。
 がんになってから読むのではなく、がんになる前に読んでおくとよいかもしれない。[2022.11.19. ぶんろく]

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,141件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?