【決算分析】株式会社イオンファンタジー 2025年2月期3Q【78点】


参考資料

株式会社イオンファンタジー 2025年2月期第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結) 2025年1月10日発表

企業概要

株式会社イオンファンタジーはショッピングモールや大型商業施設を中心に、アミューズメント施設・プレイグラウンドを運営する企業である。イオングループの一員として、国内外のイオンモールへの出店を軸にしてきたが、近年はより幅広い客層を狙った事業展開にも力を注いでいる。国内の主力事業に加えて、東南アジア各国(アセアン)や中国での事業展開を積極的に行っている点が特徴である。子どもから大人までをターゲットに、クレーンゲームやキッズ遊具といった幅広いジャンルのアミューズメントを提供しており、新たな業態開発にも積極的に取り組んでいる。

ビジネスモデル

国内事業の特徴

国内の主力はショッピングモール内に展開するアミューズメント施設やプレイグラウンド事業である。特に「モーリーファンタジー」やカプセルトイ専門店、クレーンゲーム特化型店舗が有名であり、近年は飲食併設型の大型店舗をオープンさせるなど、多様な形態の実験的な出店が活発である。新業態として、大型遊具やお子さま向けの複合遊戯空間と飲食を組み合わせた「Feedy Diner&Arcade」「ちきゅうのにわ“ぽっぷ”」などを展開している。

店舗開発面では、比較的小型の専門業態(プライズ特化型、カプセルトイ特化型など)を全国に広く展開し、新しい顧客層の取り込みを目指しているのが特徴である。プライズ景品関連の収益が大きく、キッズ向けクレーン景品の売上伸長が著しい。さらに、時間制遊具やメダルゲームも強化している。

アセアン事業の特徴

アセアン事業では、フィリピン、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナムなどを中心に展開している。国内と同じくショッピングモールを中心にアミューズメント施設を展開しているが、特にキッズ向けのプレイグラウンド事業が重要な収益源となっている。東南アジア各国の中でも消費構造が異なるため、店舗数拡大にあたっては、それぞれの国の消費特性に合わせた店舗形態を導入している。

近年は成長市場と位置付けるインドネシアやベトナムでの出店を加速させており、新規出店を積極的に行うことで将来的なトップライン拡大を見込んでいる。一方で、タイなどの成熟度が高まっている地域では既存店の収益性向上を図る方針が窺える。

中国事業の特徴

中国では自社ブランド店舗のほか、ここ数年で低リスクかつ高いROIを狙える小型店「莫莉活力空間」などの展開を試みている。しかし近年は経済回復の遅れや消費活動の低迷が長期間続く見込みが強く、中国店舗網の効率化が喫緊の課題となっているようだ。既存店舗のスクラップアンドビルドを加速させ、利益貢献度の低い店舗を積極的に閉店し、出店形態を変化させる動きが顕著である。

収益構造分析

以下の分析は2025年2月期第3四半期連結累計期間(2024年3月1日~2024年11月30日)の数値である。日本基準(連結)に基づく決算であるため、「売上高」「営業利益」「経常利益」「親会社株主に帰属する四半期純利益」という用語が使われている。

全社概要

  • 売上高: 639億68百万円(前年同期比7.5%増)

  • 営業利益: 26億23百万円(前年同期比58.4%増)

  • 経常利益: 19億79百万円(前年同期比14.8%減)

  • 親会社株主に帰属する四半期純損失: 11億48百万円(前年同期は3億41百万円の黒字)

営業利益は大きく増えている一方、経常利益が減少している主因は、為替差損の計上と、金融費用の増加が大きい。さらに特別損失として15億16百万円を計上しており、ここには中国での不採算店舗閉鎖・整理に伴う損失約14億円が含まれる。これらによって最終損益は赤字に転落している。

一方、連結ベースで見ると償却前営業利益(EBITDAに相当する指標として同社が開示している「償却前営業利益」)は105億50百万円となり、前年同期から14億55百万円増加している。営業キャッシュ創出力自体は、国内好調とアセアンの伸長に下支えされ、依然として強いと考えられる。

セグメント別

国内事業

  • 売上高: 508億円(前年同期比8.9%増)

  • 営業利益: 40億93百万円(前年同期比81.8%増)

売上・営業利益のいずれも第3四半期累計期間としては過去最高を更新している。プライズ・カプセルトイといった、収益性の高い部門が牽引しているほか、メダルゲームや時間制遊具も回復貢献している。コロナ禍の影響が一段落した後のレジャー需要が安定しており、さらに新業態の出店が順調に寄与しているとみられる。

アセアン事業

  • 売上高: 95億28百万円(前年同期比20.4%増)

  • 営業利益: 8億10百万円(前年同期比9.9%減)

売上高は過去最高を更新しているものの、営業利益は減少している。これは急激な出店拡大に伴う初期投資増や、為替面での影響、加えて店舗運営コストの上昇が影響したと推測される。ただし売上面は順調に拡大し、店舗数を増やしながら市場シェアを奪取するフェーズとみられ、戦略的コスト増加の側面もある。

中国事業

  • 売上高: 38億10百万円(前年同期比25.2%減)

  • 営業損失: 22億79百万円(前年同期営業損失14億89百万円)

引き続き厳しい状況であり、特に中国国内の消費環境が長期間伸び悩むとの見通しから、不採算店舗の閉鎖を大幅に加速している。期中だけで56店舗を閉店し、特別損失の大半を中国事業の減損関連や閉店関連費用が占めている。将来的にはコンパクトな小型店(莫莉活力空間)のみを残し、効率的に運営する方向を一段と強化しているようだ。

財務分析

総資産

総資産は576億75百万円で、前期末比53億72百万円増加している。増加要因は、国内外での出店投資に伴う建物や遊戯機械などの有形固定資産が増えたこと、さらに四半期末日が金融機関休日であったために売上預け金が大きく計上されたことなどがある。

  • 流動資産: 160億84百万円(前期末比+31億60百万円)

  • 固定資産: 415億90百万円(同+22億12百万円)

負債

負債合計は505億3百万円で、前期末比67億41百万円増加している。内訳を見ると、短期借入金を減らして長期借入金に組み替えた影響が大きい。結果として短期負債は減ったものの、長期負債が増加し、固定負債合計が165億62百万円となった。また設備投資や閉店関連費用に伴う設備未払金の増加、未払費用(人件費や賃借料)の増加などが見られる。

純資産

純資産は71億71百万円となり、前期末比13億69百万円の減少である。これは当期純損失の計上(約11億円)に加えて、配当による剰余金の減少が影響している。

キャッシュフロー・安全性

四半期連結キャッシュ・フロー計算書は開示されていないが、償却前営業利益ベースでは前年同期を上回っているため、営業活動によるキャッシュインは堅調とみられる。一方、中国事業の大幅な閉店加速やアセアン新規出店が進められていることから、投資活動にかかる資金流出は大きいと思われる。
自己資本比率は12.0%(前期末15.9%)に低下しており、財務安全性としては以前より注意が必要な水準になりつつある。ただ、イオングループとしての信用力を活かし、融資を一定程度安定確保できる面もあるため、今後のレバレッジ管理をどう進めるかが課題である。

バリュエーション指標の評価

以下は株価2025/01/10終値2803円を用いた単純計算のイメージである。なお、最終損益が赤字転落(四半期ベース)であるため、PERの算定には注意が必要である。

  • PER: 直近四半期が赤字であるため単純には算出が難しい。通期予想(純利益16億円)ベースで考えるとおおむね時価総額 / 予想当期純利益 となるが、ざっくり計算でも14~16倍程度のレンジになりそう。

  • PBR: 第3四半期末の純資産が約72億円(うち株主資本は約83億円、その他の包括利益を控除した自己資本は約69億円程度)。時価総額は株価×発行済株式数(約1977万株)≒約554億円程度と推定。するとPBRは7倍超と非常に高い水準となる。

  • ROE: 第3四半期累計では赤字だが、通期見込みで純利益16億円を達成した場合には、自己資本が期中平均で80億円前後と仮定すると、20%前後のROEが想定される。しかし第3四半期時点の実績から見ると、今後の改善が必須であり、通期に向けた業績の戻し方が焦点となる。

  • EV/EBITDA: 純有利子負債がどの程度かによるが、借入金が増えているため、EVが大きくなりやすく、指標は高めに出る可能性がある。償却前営業利益(105億円)を基準にし、EVを推定すると、同業他社と比較して割高水準かもしれない。中国事業撤退コストなどをどう織り込むかで大きく見方が変わる。

  • PEGレシオ: 成長率が予想より下振れする可能性もあり、PEGレシオの有用性は限定的と考えられる。成長を見込むアセアンが収益性を安定的に上げられるようになれば、将来的には評価が改善する余地がある。

変化点

  • セグメント別の比率: 国内売上比率が依然として高いが、アセアンへの出店加速で今後の売上シェアは変化の可能性がある。一方、中国事業は大幅に店舗削減を進めており、今後は小型店舗中心の事業構造へシフトしそうである。

  • M&Aや事業売却: 本決算短信資料では特段の言及なし。新業態は内製化しているが、成長加速のために海外企業との連携や買収があるかもしれない。

  • 出資比率・資産の売却: とくに報告事項はないが、中国の不採算店舗整理が加速しており、閉店や減損で資産入替が進んでいる。

  • 株主構成: 親会社はイオン株式会社であり、グループ内の相互補完が強い。大株主に変化はなく、持ち合い解消などの動きは見られない。外部ファンドの存在や新たな投資家の参入などの情報も記載はない。

投資家に対する施策

  • 配当: 第2四半期末と期末で1株あたり5円を予定しており、通期で10円の予想。今のところ増配のアナウンスはなく、業績計画に大きな変更も出ていないため、配当は据え置きと考えられる。

  • 自社株買い: 特に実施の発表はなし。財務的に余裕があるとは言いがたい局面であり、当面は事業投資が優先される可能性が高い。

考察

中国事業の再構築

中国事業の売上減と損失拡大が目立つ。大幅な不採算店舗閉店に伴う特別損失が一過性のものか、あるいはさらに閉店が進むのかが焦点になる。経済活動が低迷するリスクはまだ払拭できず、中国市場への過剰投資は抑制する方向とみられる。今後は中国事業の中で、よりコンパクトで高収益を狙える形態への集中が進むだろう。場合によっては事業の縮小や退出まで視野に入れる可能性も考えられる。

国内事業の安定成長

国内では、プライズゲーム・カプセルトイという安定収益源が引き続き成長を牽引している。さらに飲食併設型の新業態が好調という点は、今後さらなる多店舗展開の可能性がある。大型店の出店やプレイグラウンド事業の拡充で家族連れ需要を取り込みやすくなる一方、小型特化店の投資負担は比較的軽いため、効率的に収益を積み上げやすい。コロナ禍を経た消費回復が継続する限り、国内は増収増益基調が続くとみられる。

アセアン事業の長期的期待

アセアン各国では人口増・中間層拡大に伴い、レジャー産業も拡大が見込まれる。出店加速による投資コストの負担増は一時的に利益を圧迫する可能性があるが、中長期では成長ポテンシャルを大きく享受できると考えられる。ベトナムやインドネシアなどでの積極拡大が成果を上げれば、グループ全体の海外比率が高まるだろう。現時点での利益率はまだ十分とはいえないが、新店が軌道に乗ることで回収フェーズに入れば利益貢献が進むと期待できる。

M&A・事業売却の可能性

大幅赤字の中国事業を抱えているため、中国子会社の一部または店舗運営に関する資産を売却する可能性はゼロではない。あるいは海外ローカル企業とのパートナーシップを検討し、共同運営化するケースも考えられる。成長が期待されるアセアン地域でも、さらなる拡大を図るために外部企業の買収や出資を受ける可能性がある。

財務面・投資余力

通期予想の達成に向けては、国内の好調維持とアセアンの順調な出店、それに伴う損益インパクトが鍵となる。2025年2月期通期では営業利益57億円、純利益16億円を掲げているが、第3四半期までの赤字をどう挽回するかが注目される。グループ全体としては財務レバレッジがやや上昇傾向にあり、さらなる設備投資やM&Aを実施する際には、キャッシュ・フローや財務安定性とのバランスを慎重に見極める必要がある。

総合評価

76点~80点程度の評価を付与したいところだが、最終損益が赤字転落していることや中国の不確実性を考慮して78点とする。

(1) 通期計画に対する進捗率:
売上高と営業利益の進捗はおおむね順調と言えるが、為替差損や特別損失により経常利益・純利益が相応に押し下げられた。第4四半期でどこまで挽回できるかは未知数である。

(2) バリュエーション指標から読み取れる達成度:
株価水準は決して低くなく、PBRは7倍超の高さが目立つ。国内安定収益を評価している投資家が多いと考えられるが、赤字転落で不安要素も増しており、株価が安定維持するには中国リスクの解消やアセアンの成長実績が不可欠である。

(3) 将来への種まき:
国内新業態が予想以上に好調である点や、アセアン積極出店が続いている点は、将来の成長ドライバーとして高評価である。一方、中国事業のリストラが完了せず、損失負担がやや重くのしかかる。ここを速やかに切り離し、成長戦略に集中できるかが重要になる。

以上の点を総合して、今回の決算(第3四半期)の評価は78点とする。

投資判断のポイント

  • 国内好調継続と新業態の成長余地:プライズ分野、カプセルトイ、メダルゲームなどの既存事業が堅調に推移。飲食併設型の大型店が計画を上回る売上を出していることもあり、国内事業は利益を安定的に創出しやすい。

  • アセアンにおける出店攻勢:人口増が見込まれる市場での出店は中長期の成長余地が大きい。今期は急激に店舗数を増やした影響で一時的に利益率が低下したが、時間をかけて既存店が黒字化していけば、通期以降の利益貢献拡大が期待できる。

  • 中国事業の早期損失縮小:現状では閉店コストや減損損失がかさんでおり、業績を圧迫している。運営形態の切り替えと店舗規模の縮小によって損益を改善できるかどうかが大きなカギになる。リストラがうまく進めば、今後の決算で特別損失の減少により最終利益に貢献が期待される。

  • 財務レバレッジへの注意:借入金が増加傾向にある中、自己資本比率は12%まで低下している。さらなる新店舗投資や中国事業のリストラ費用への対応で資金需要が大きい。金利負担増加や為替差損のリスクを考慮する必要がある。

まとめ

当第3四半期連結累計期間は、国内での好調拡大とアセアン市場での堅調な売上増に支えられ、売上高と営業利益は過去最高を更新した。一方で、為替の逆風と中国事業に関連する大規模な閉店コスト・減損損失の発生により、最終損益は赤字転落となった。今後は国内とアセアンの成長ポテンシャルを活かして収益力を底上げしながら、中国事業の損失をどれだけ早く縮小できるかがポイントである。

特に第4四半期は通期計画達成に向けた重要な局面であり、中国の不採算店舗閉店による特損リスクを残しつつも、国内の年末年始需要やアセアンの成長余地を背景に最終的に黒字転換するか注目される。将来的にはM&Aや追加的な事業再編の可能性も視野に入れながら、投資家視点では、同社の財務安全性と中国リスクの見極めが必要といえる。

注意点

本レポートは、個人の分析に基づく見解であり、記載されたいかなる内容も、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。投資に関する最終決定はご自身の判断と責任でなされるようお願いします。

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