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カミナリオヤジ【ショートショート】

 いつものメンバーでくだらないことを喋っていると、誰かが「コーラ飲みに行こうぜ」と、提案した。

 「いいけど、途中に嫌な家があるだろ」
 「あぁ……。カミナリオヤジか……」

 近所の田中ってオヤジは口うるさいことで有名だ。小学生を見ると、一列に並べとか、声が小さいとかいって怒鳴りつける。

 中学生には、遊んでないで勉強しろとか、洒落っ気付くなと言って怒鳴る。

 とにかく、何かというと大声で怒鳴りつける、口やかましいオヤジだ。

 コーラを買うには、カミナリオヤジの家の前を通らないといけない。もし、バッタリ顔を合わせようものなら、何を言われるか分からない。

 「どうする? やめとく?」
 「カミナリオヤジが居るからコーラが買えませんってか。それ恥ずかしいよな」
 「まぁなー。怖がってますって、言ってるようなものだしな」
 「じゃあさ、逆にイタズラしようぜ」
 「イタズラ?」
 「そう、イタズラ」
 「なにか考えがあるのか?」
 「ピンポンダッシュだよ。ピンポンダッシュ」
 「ピンポンダッシュ? 令和なのに?」
 「だからだよ。オヤジなら走って逃げればOKだろ」
 「確かに! 面白そうだな」
 「な! いつも怒鳴られる恨み、晴らしてやろうぜ!」

 俺たちはピンポンダッシュをするため、カミナリオヤジの家に向かった。

 カミナリオヤジの家の近くで、外に誰もいないことを確認する。

 「誰もいないぜ」
 「今しかないな」

 大きな音を立てないように、そ~っと玄関に近づいていく。そして!

 ピンポーン♪
 ピンポーン♪ピンポーン♪
 ピポピポピポピポピンポーン♪
 ピンポーン♪

 メチャクチャチャイムを連射した。

 ガチャ。

 すぐに玄関の開く音がする。

 「逃げろ!」

 その声と同時に、俺たちは一斉に走り出した!

 「コラー!」

 後ろからカミナリオヤジの怒鳴り声が聞こえる。もし捕まったら、説教だけじゃ済まないだろう。

 俺たちは無我夢中で走った。

 先頭を走るやつが右に曲がる。それに倣って皆も右に曲がる。

 曲がったところで先頭が変わった。
 そいつも角を右に曲がる。皆もそれに倣う。

 曲がり切ったところでまた先頭が変わった。そしてまた右に曲がる。もちろん皆もそれに倣う。

 「俺の前を走るなよ! 道を間違えるだろ!」

 そう言ってまた先頭が変わった。1個目のカーブを右に曲がる。当然、皆もそれに従う。

 「待ってたぞコラー!」

 前からカミナリオヤジの怒鳴り声が聞こえる。
 おかしい。息が切れるほど全力で、数百メートルは走ったはずだ。なのになぜ、前からカミナリオヤジの声が聞こえる?

 俺たちは右に曲がって、右に曲がって、それから右に曲がって……右に曲がった……?

 「一周してるだろ?」
 「誰だ? 先頭走ってた奴は!」
 「お前だろ?」
 「いや、お前だって!」
 「何いってんだ、お前だよ」
 「イヤイヤイヤ、お前だから!」

 目の前に迫るカミナリオヤジ。方向を変えたとしても、一人は捕まってしまう。と言ってこのままじゃ……。

 「お前ら! 死ぬ気で駆け抜けろ!」
 「「「おう!」」」

 一致団結した俺たちは、カミナリオヤジの前を全力で駆け抜けた。

 「逃がすかー!」

 捕まえようとするカミナリオヤジ。だが、俺たちのほうが若い!

 スルリとカミナリオヤジの手を抜けると、ダッシュで逃げる!

 1個目の角を右に曲がる。当然、皆もそれに倣う。そして次の角を右に……。

 「一方通行じゃねぇか!」
 「どうすんだ! またカミナリオヤジのとこに戻るぞ!」

 更にみんなで右に曲がる。

 「そこを曲がったらカミナリオヤジの家だぞ」
 「どーすんだよ!」
 「止まればよくね?」
 「「「なるほどー」」」 

 みんな走るのをやめた。すると……。

 「そこかコラー!」

 前からカミナリオヤジが迫ってくる。

 「やべぇ、逃げろ!」

 俺たちは来た道を全力で戻っていく。
 最初のカーブを左に曲がる。そして次のカーブを左に……。

 「なぁ」
 「なんだよ!」
 「また戻るよな?」


(了)


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