【映画】「サバカン SABAKAN」感想・レビュー・解説

良い映画だった。でも、僕的には、「メッチャ良い映画だったなぁ」という感じではなかった。元々観るつもりはなかったが、公開後、なんだかメチャクチャ評価が高いような雰囲気を感じて観てみることにした。そんな敬意だったので、トータルの感想で言えば「ちょっと残念だった」という感じになるだろうか。

そう感じた最大の理由は、ほぼ全編、子役が主人公の映画だったことだろう。物語的に仕方ないとは言え、決して演技が上手いとは思えなかった少年2人の物語を追っていくのは、なかなか難しさを感じる場面もあった。周りを固めた役者が、出番の少ない者も含めて実に良い演技をしたので、余計にそう感じてしまったのかもしれない。

物語は、主人公・久田孝明が、執筆中の小説に行き詰まる場面から始まる。彼は離婚し、一人娘とは時折会う関係。編集者からは、「初版5万部のダイエット本のゴーストをやってくれたら大体印税が100万円になる」と頼まれているが、彼は「新作を書こうと思っています」と言って編集者を呆れさせる。どうせまた純文学作品で、売れないと思っているのだ。
久田が一行も書けないでいる時、ふと室内にあったサバカンが目に入る。それを見た瞬間、彼は次のような冒頭と共に、物語を一気に書き上げていく。
「僕には、サバの缶詰を見ると思い出す少年がいる」
1986年夏、長崎に住む久田少年は、作文を先生に褒められる以外は、キン肉マン消しゴムを集め、クラスメートとはしゃぐ、ごく普通の少年だった。同じクラスに、竹本というちょっと変わった少年がいる。一年中、二種類のランニングを着回しており、机にいつも魚の絵を描いている。明らかに貧乏なのだろうと分かるし、そのことをからかわれもしていたが、竹本はいつも意に介さず超然としていた。
しかしある日、「お前ん家にピアノ置いたら底が抜けるだろ」と言われた竹本が、「ピアノぐらい置ける」と強がったことから、だったら家を見せてみろという話になってしまった。成り行きで久田もついていくことになったが、やはりそこは想像通りのオンボロ家で、みんなはその家を見て爆笑していた。
夏休みに入ったある日。なんと竹本が家までやってきた。神社の裏に呼び出された久田は、そこで竹本から思わぬ話を聞かされる。通称「ブーメラン島」と呼ばれる島に、イルカがやってきたというのだ。だから一緒に見に行こうというのだ。しかしそこは、「タンタン岩」と呼ばれる険しい山を超えて行かなければならず、門限の17時までに行って帰って来れる場所じゃない。しかし竹本は、お前にはチャリがあるだろうと強引に誘ってくる。
結局竹本に押し負けた久田は、朝5時に家を出て、竹本と一緒にブーメラン島を目指すことになるのだが……。

というような話です。

少年2人が織りなすロードムービーといった作品で、途中途中で様々な人と出会いながら、それまでほとんど関わりのなかった久田と竹本が仲良くなっていく。旅の途中で出会う人々とそこまで深い関係性が描かれることはなく、しかしなかなかに存在感のある周辺キャラがたくさんいることで、物語に厚みが増している。大人の久田孝明を演じる草彅剛が、回想シーンの久田少年の独白を当てたのも良い。

ただやっぱり、僕には、主人公2人の演技がどうにもしっくり来なくて、こういう感想になってしまう。個人的に致命的だと思うのは、甲高い声で叫んだりするとセリフが全然聞き取れなかったりすること。彼らが、みかん畑を走り回った後で何か叫ぶ場面があるのだけど、そこで彼らが何と言ったのか、マジで一文字も聞き取れなかった。

あと、他の人の感想をチラ見したところ、「ノスタルジック」な部分に惹かれているようだ。斉藤由貴のポスターやキン肉マン消しゴムのガチャガチャなど、「ザ・昭和」といったアイテムがバンバン出てくることを指しているのだろう。ただ僕は、過去のどの時代の記憶も曖昧で、自分が何歳の頃にどんなものが世の中で流行っていたのかまったく覚えていないので、そういう「ノスタルジック」的な部分には全然反応できない。昔から、「流行っているもの」に興味がなかったのだと思う。30~40代にはドンピシャらしく、まさにドンピシャの年齢なのだが、僕にはまったくドンもピシャもなくといった感じ。

個人的にエモかったのは、「タンタン岩の上り坂」と「海岸線沿いを走るワンマン電車」かな。映像的になかなかインパクトがあった。あと、エンドロールを見て気になったのが、「番家」という名前が多かったこと。久田少年を演じたのが「番家一路」って役者なんだけど、その家族(兄弟)が出てるんだろう、きっと。だとすると、竹本一家の兄弟が皆、番家くんの実の兄弟なんじゃないだろうか。なんとなく、ホントに仲良さそうな雰囲気があったし。

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