【映画】「To Leslie トゥ・レスリー」感想・レビュー・解説

物語的にグッと来たかというとそんなことはないのだけど、とにかく主演の女優の演技が見事だったなぁ、と思う。ひたすら、「嫌な女」だったし、その「嫌な感じ」をメチャクチャ上手く演じていた。かなり引き込まれる映画だと言っていいだろう。

一人の女性が、かつて宝くじを当てた。19万ドルという大金を得た彼女は、シングルマザーであり、息子のジェイムズと「素敵な未来」を歩んでいくはずだった。
しかし、その女性・レスリーは今、住んでいる部屋を追い出された。周囲の住民に1ヶ月金を貸してくれと頼んでも、オーナーに一晩だけ待ってくれと頼んでも、まったくダメだった。彼女は、部屋から放り出された大量の荷物から、ピンクのキャスターバッグだけを持って、住んでいた街を後にした。
宝くじの賞金は? すべて酒に消えた。
レスリーは、6年間一度も会っていない息子を頼り、彼がルームシェアする部屋へと転がり込んだ。ジェイムズはペンキ塗りの仕事をしており、「どうにか生活を立て直すために仕事をしている」最中だった。ジェイムズには、母親を素直に受け入れきれない理由があったが、しかしもちろん追い出すようなことはせず、「人生プランが決まるまではここにいていい。ただし、酒だけは飲むな」と厳命した。
しかし、その約束を、レスリーは最初から守るつもりがなかった……。
どうにも酒が止められず、あらゆる場所を転々とするレスリーの再生を描き出す物語。

とにかく、レスリーがヤバい。さすが、19万ドルも酒を飲んだだけのことはある。立派なアル中である。

自業自得とはいえ、アル中も立派な病気なのだから、「病気だから仕方ない」という捉え方をした方がいいのかもしれないが、やはりそれはなかなか難しい。なにせ、「酒を手に入れる」ためなら、約束は破るし嘘はつくし金は盗む。しかも、酒に溺れた原因が同情されるようなものであるならまだ受け入れられるかもしれないが、「宝くじで当たったお金を酒につぎ込んだ」と周囲にも知られているのだから、どうにもならない。宝くじを当てたことはテレビで放送されるほど話題となったため、周囲の人間はその事実を皆知っている。だから、その後のレスリーに対して住民のほとんどが嫌悪感しか抱いていないし、落ちぶれていくレスリーに手を差し伸べる者もほとんどいない。

そして、そういう状況「なのに」なのか「だから」なのかなんとも言い難いが、レスリーはとにかく酒を止めない。恐らく本人も、酒を飲めばダメになることは分かっているのだろう。しかしそれでも、飲まずにはいられない。

どん詰まりの袋小路と言ったところだろうか。

映画の中で、息子ジェイムズが母親に、「マリファナはいいけど、酒はダメだ」と言う場面がある。マリファナについて詳しくは知らないが、そういう発言が出てくるってことは、マリファナは酒ほどの依存性がない、ということなのかもしれない。そう考えるとホント、どうして「酒を飲むことが許容されているのか」は結構謎だ(つまり、薬物を禁止するぐらいなら、酒も禁止すればいいのに、ということ)。

ストーリー的に、これと言った何かがあるわけではなく、とにかくひたすらにレスリーがどん底に落ちていく感じが描かれていき、そしてちゃんと「再生」も描かれる。ストーリー的には「王道」と言った感じだろう。しかしやはり、レスリー役の女優の演技がとにかく凄くて、引き込まれる。

そもそも、「酒浸りであまりまともに食べれていない」ということを示すためだろう、レスリーは「健康的ではない痩せ方」をしている。それは顔の感じなんかもそうで、あまりにも長いこと「他人に対して表情を作る」ことをサボってきたためだろう、他人に対して笑顔を見せる時にあからさまに不自然になる、みたいな感じもある。そういう、「見てくれ」の部分から、かなりレスリーという役柄に入り込んでいる感じがあって、まずそこが凄い。

その上で、「全部自分が悪いのに、それを認めたくないからか、他人に悪態をつく」感じも上手い。この映画では、「宝くじを当ててからの数年間」は描かれない(金が無くなって落ちぶれてからのことしか描かれない)ので、その期間に何があったのかは、間接的にしか分からない。しかし恐らく、「大金を得た彼女に、周りの人間が金の無心をした」みたいなことがあったはずだ。だからレスリーの中には、「あの時良い思いをさせてやったんだから、少しは助けてくれてもいいじゃないか」みたいな気持ちがあるんだと思う。

しかし、レスリーの周囲にいた人間にも言い分はある。具体的には書かないが、レスリーのかつてのある行動が、とにかく許せないのだ。

だから、彼らの「対立」は平行線のままだ。

息子にも愛想をつかされたレスリーの「生きる希望」がなんなのか、僕にはなんとも掴みづらいが、映画の中では少なくとも、レスリーが「死」を意識する場面は描かれない。とにかく「何がなんでも生きてやる」という感覚が強いのだ。僕はなかなか、そんなふうには思えないので、そういう姿に「強いなぁ」と感じてしまう。

この映画は、アメリカで単館上映からスタートしたようだが、主演女優の演技があまりにも評判となり、なんと彼女がアカデミー賞主演女優賞にノミネートされるという、まさに「宝くじを当てた」みたいなストーリーがある。まあ確かに、評判になるのも分かる演技だと思う。

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