【映画】「スターフィッシュ」感想・考察

さて、今回の感想では、「この映画の、僕なりの解釈」を書いていこうと思う。そしてその過程で、作品の内容にかなり触れていくつもりだ。なので、「まだ映画を観ておらず、中身を知りたくない」という方は読まないでほしい。

最初から最後まで、なかなか謎めいた物語で、はっきり言って全然意味が分からなかった。

物語の設定にまず触れておこう。主人公のオーブリーは、親友のグレイスの葬儀に参列する。彼女のいとこから、「いつもオーブリーの話をしていた」「同じ曲ばかり聞いていて、曲に救われたと言っていた」「オーブリーなら分かってくれるとも」という話を聞き、オーブリーはグレイスの家に侵入する。飼っているクラゲの餌をやり、飼いカメに話しかけ、隣家の窓から夫婦の営みが見られる場所に置かれた望遠鏡を眺め、オナニーをし、シャワーを浴びる。

そしてそのまま、眠りについた。

翌朝、寒さで目を覚ますと、世界は一変していた。窓から見える景色は真っ白な雪に覆われ、昨夜は点いていたテレビも、母と会話をした電話も使えない。どうやら電気が途絶えているようだ。発電機を回した後、近場を歩いてみる彼女は、遠くの方で黒煙が上がっている様子、雪に散らばる血痕、砲撃か何かで破壊された車などを目にする。

そして、どうもこの世界には誰もいない。

と思っていると、不気味な音が聞こえ、彼女は謎の怪物に襲われてしまう。慌ててグレイスの家まで戻り、ドアを閉め、うずくまって震えていると、前夜なんの気なしに手にとってみたトランシーバーから声が聞こえる。昨日は誰にも繋がらなかったのに。男性の声に導かれるようにしてなんとか怪物を撃退し、その後オーブリーは、誰なのかも分からない男性から、トランシーバー越しに「グレイスが遺したテープ」の存在を聞かされる。

そこには、「このテープが世界を救う」と書かれていた。

グレイスは、「謎の信号」に囚われていたようで、その秘密をオーブリーと共有しようとしていた。「謎の信号」は、過去さまざまな通信に紛れ、私たちの元へと届いている。そして、その信号は、私たちの世界で起こる事件・惨劇・災害と相関関係がある。信号がひとつながりになってループになっていると良いのだけど、信号が1つ足りない。7番目が。残りの6つは集めて、「私たちの場所」に隠してある。グレイスは、そのようなことをテープに残していた。

壁には、グレイスが貼ったと思われるこの街の地図に、「スーパーマーケット」「映画館」「図書館」など、恐らくテープが隠されているのだろう場所に印がされている。

しかしそこまで行ってもオーブリーは、部屋から出てテープを探しに行こうとはしない……。

というような話だ。

冒頭から訳がわからないが、最後まで訳のわからないまま終わる。結局、何がどうなったのか分からないのだが、その後自分なりに考えて、1つの仮説に達した。ここでは、その僕なりの仮説の説明をしていこう。

その仮説についてざっくり説明するとこうなる。

<オーブリーは、グレイスの自宅を訪れ、そこで自殺未遂を図った。一命は取り留めたが、現在病院のベッドで植物状態である。そして映画のほとんどは、そんな植物状態にあるオーブリーの脳内で起こっていることだ>

「オーブリーが自殺未遂を起こし、病院で植物状態にある」ということを直接的に示唆する情報は一切ない。だからこれは、僕の想像だ。しかし、「オーブリーがグレイス宅で自殺を図ったのではないか」と考える理屈は一応ある。

この映画は基本的に、グレイス宅で展開される。そして、グレイス宅でのシーンの中に、「首吊り自殺で使うような、どこかから吊り下げられたロープ」が映る場面があった。ワンカット映っただけで、前後に何か説明的な描写もなかったのだが、この場面が、僕が「オーブリーが自殺未遂を図った」と考える最大の理由だ。

そして、「オーブリーが死に瀕している」と考えると理解しやすい状況がいくつかある。

まず、トランシーバーの男性と会話し、グレイスがオーブリーにテープを残したと告げた後、オーブリーが男性に問いかける形で「私死んだの?」と口にする場面がある。正直、このシーンは非常に唐突だ。オーブリーが「朝普通に起きて、この異常な世界に巻き込まれていることを知る」という状況にある場合、「私死んだの?」というセリフは上手く説明できない。

ただ、自殺未遂かどうかはともかく、なんらかの理由でオーブリーが死に瀕しており、その脳内で展開されている物語だとすれば、「私死んだの?」というセリフにも必然性が生まれる。「自分が自殺未遂をした」という記憶があれば、割と自然な問いかけだろう。

さらに、トランシーバーの男性が怪物を撃退する最初の場面にも、こんなシーンがある。男性はオーブリーに「目を閉じ、トランシーバーを扉に向けて、扉に近づけ」と指示を出す。結果としては、「トランシーバーから何らかの音を発し、その音で怪物を撃退した」ということのようなのだが、その後で男性がオーブリーに、「良かった。生きたいんだね」と口にするのだ。これもまた、普通には捉えにくい謎の発言だ。

しかしこれも、「オーブリーが自殺未遂を図った」ことを前提にすると受け取りやすい。僕の仮説では、この世界のすべてがオーブリーの妄想なので、トランシーバーの男性も、「特定の誰」というわけではなく、オーブリーに意識の中で何らかの役割を果たす存在だと思う。そしてそんな存在が「生きたいんだね」と口にするのは、オーブリーに「生きたい」と確認させるためだと思うのだ。

さて、後で詳しく触れるつもりだが、オーブリーは「自分が過去に犯した罪に耐えかねて自殺を図った」と考えている。そしてその理由に、グレイスが関わっているというわけだ。しかし一方で、オーブリーはグレイスに「赦されたい」とも思っている。「自殺して世の中から消え去りたい」という気持ちと、「死んでしまったグレイスに赦されて、その状態で生きたい」という気持ちで揺れているのだ。そして、そんな葛藤が、怪物が跋扈する世界として立ち上がっているのではないか、というのが僕の理解だ。

そんなわけで、トランシーバーの男性の「生きたいんだね」は、オーブリーの中の「赦されて生きたい」側の勢力の言葉ではないかと思う。

それに関連して、オーブリーが、

【グレイスが、私に選択を任せてくれた】

と口にする場面がある。この言葉は、「かつてオーブリーは、人間が消えることを願っていた」と考える場面の直後に出てくる。そして、物語を素直に受け取った場合の解釈は、「グレイスが言う『信号』の謎を解いて世界を元に戻すこと」と「『信号』の謎なんか無視してこのまま世界を終わらせること」の2択という意味になる。

しかし、すべてがオーブリーの意識下であるこの世界では、この言葉は潜在的に、「『生きたい』という気持ちを強く持って植物状態を脱する」か「『生きたい』という気持ちを諦めてこのまま死を迎えるか」の2択という意味になるように思う。これもまた、オーブリーが死に瀕していることを間接的に裏付ける言葉に感じた。

ある場面で「起きて!」という言葉がどこからともなく聞こえるが、これも病室で誰かから声を掛けられたと考えれば理解しやすいし、この謎の世界で目を覚まして最初にオーブリーが外に出ようとした時に現れた正体不明の男性も、病室で寝ているオーブリーを叩いたりして起こそうとするアクションからのものと考えられる。

そんな風に考えた時、この世界に時々現れる「謎の怪物」は、「死」をそのまま具現化した存在だと言ってもいいかもしれない。オーブリーは何度か怪物に襲われ危険にさらされるが、それはそのまま、オーブリーの容態が悪化する様を描写しているのではないか。

自分の仮説に都合のいい情報をつなぎ合わせただけだが、一応説明はつくのではないかという気がする。

さて、そう考えた時に、一体どこまでが事実で、どこからがオーブリーの妄想なのかを整理しておく必要があるだろう。映画の時系列的には、オーブリーが葬儀に参列し、いとこから話を聞き、グレイスの部屋に忍び込み、そこで自殺未遂を図るまでは「事実」と言っていいだろう。

この点を踏まえて、何が「事実」なのかをもう少し整理してみる。

◯オーブリーの親友であるグレイスが亡くなったこと

◯グレイスのいとこから、「グレイスが同じ音楽を繰り返し聞いており、オーブリーなら理解してくれるはずと語っていた」という話を聞いたこと

◯グレイスの部屋に忍び込み、あれこれ物色したこと

◯グレイスの部屋の電話から母親に電話をし、「エドワードには会えていない」という話をしたこと

これらは「事実」と考えていいだろうと思う。さてこれらの情報を踏まえた上で、もう少し内容を整理してみたい。

まず、「グレイスは『信号』に関するテープを遺していたのか」について考えたい。僕は、この問いに「NO」と答える。「信号」にまつわるすべての話は、恐らくグレイスとは何の関係もなく、すべてオーブリーの想像だと思う。

発想のきっかけとなったのは、いとこから聞いた話だろう。「同じ曲を何度も聞いていた」「オーブリーなら分かってくれるはず」というものだ。映画を観ていると、いとこのこの言葉はまさに、グレイスが「信号」に関する調査を行い、それに関するテープを遺していたことを示唆するように感じられるが、別にそう受け取らないことも可能だ。グレイスが好きだった曲を何度も繰り返し聞いていて、周りの人とは趣味が合わないが、オーブリーなら共感してくれるはずと考えていた、とシンプルに捉えればいいと思う。

だから、「信号とは何を意味しているのか?」みたいなことを延々と考えても意味がない、と思う。

しかし、「信号」に関する話は、オーブリー自身にとっては意味があったと思う。それは、「『信号』が事件・惨劇・災害と相関関係がある」という設定の部分に関係がある。

つまりオーブリーは、無意識化で「信号」などという奇妙なことを持ち出すことで、「悪いことはすべて『信号』のせい」と思いたかった、ということではないかと僕は考えた。

先程も書いたが、オーブリーは、自分が過去に犯してしまった過ちに耐えかねて自殺を図ったというのが僕の仮説だ。そして、そのような自責の念を抱えた状態だからこそ、「自分が悪いのではない」という支えみたいなものが必要だったのではないかと思う。そしてそれが「信号」であり、「『信号』が正しい状態にないから悪いことが起こる。だったら『信号』を正しい状態に戻せば悪いことは起こらない」という願いみたいなものを込めたかったのではないかと思うのだ。

では、オーブリーは一体何をしたというのだろうか?これに関しては、死んだはずのグレイスとベッドで横になって向き合い会話を交わす場面で、鍵となる言葉が出てくる。それが「浮気」だ。

オーブリーはグレイスに「自分を許せない」「幸せになれない」「償わなくちゃ」と語っている。それに対してグレイスが「幸せにならなくちゃ」「償うなんてできないでしょ」「罪と向き合うの」と返していく。

ほとんど具体的なことが描かれないのだが、このやり取りからまず、「オーブリーはグレイスに対して非常に大きな罪悪感を抱いている」ということが理解できる。

さらに、映画の中で何度か「座り込んで泣いているように見える男性」が映し出される。たぶん、最初の時にはオーブリーが「エドワード」と声を掛けていたはずだ。しかしその男性は、振り向くと顔が崩壊して空洞のようになっている。

さて、そもそも「エドワード」とは誰なのか?先程「事実」として紹介した中にも「エドワード」が出てくる。前夜、母親と交わした電話での会話で、「エドワードとは会えたの?」「ううん」「あら、残念ねぇ」というやり取りをしているのだ。

さて、この時の母親との会話と、オーブリーがグレイスに対して罪悪感を抱いているという事実を合わせると、

<エドワードはグレイスの彼氏(あるいは夫)であり、オーブリーはそんなエドワードと浮気をした>

と考えるのが妥当であるように思う。つまりオーブリーは、「親友の彼氏を好きになり、浮気してしまったことに対して罪悪感を抱いている」というわけだ。

さらに、「そのことをグレイスは知らなかった」とも僕は考えている。グレイスのいとこが「いつもオーブリーのことを話していた」と語っていたこともあるし、そもそも、グレイスにそのことが知られて既に責めを受けているのであれば、オーブリーはここまで罪悪感を抱かないのではないかと思うのだ。

恐らく、グレイスがそのことを知らなかった理由は、彼女が病気だったからではないかと思う。この推測にもいくつか理由がある。まず、「グレイスが遺した(という設定の)テープ」に、「これから検査のために病院に行かなくちゃ」という言葉がある。これは、「グレイスが病気で亡くなったことを知っているオーブリーがそう言わせた」と僕は考えている。

さらに、ベッドの上でグレイスとやり取りしている場面で、こんな会話がなされることも理由にある。

オーブリー「ごめんね、一緒にいなかった。私を必要としてたのに」

グレイス「一緒にいてくれたじゃない」

オーブリー「知らなかった」

グレイス「嘘ばっかり」

あまりに言葉が足りなく、なかなか意味が通じないが、僕の仮説を踏まえると、こんな風に補足できるのではないかと思う。

オーブリー「ごめんね、一緒にいなかった。病気で大変で、私を必要としてくれてたのに」

グレイス「意識はなくなっちゃってたけど、一緒にいてくれたじゃない」

オーブリー「そんなに状態が悪いなんて知らなかった」

グレイス「嘘ばっかり。エドワードから聞いて知ってたんじゃない?でも、私に会いに来る勇気がなかったのよね」

かなり僕の妄想が多めだが、一応筋は通るだろう。つまり僕の解釈では、

<グレイスは何らかの病気で昏睡状態にあった。そしてその間、オーブリーはグレイスの彼氏であるエドワードと深い仲になった。だからグレイスは、オーブリーの裏切りを知らないし、オーブリーはグレイスに罪悪感を抱いている>

という風に受け取った。

そしてこれらを踏まえると、この映画全体は、

<オーブリーの中の、『グレイスへの罪悪感から死にたいという誘惑を押さえきれない部分』と『もう決して叶うことはないものの、グレイスに許しを得て、その状態で生き続けたいと思う部分』のせめぎ合いの葛藤を視覚化したもの>

と言っていいのではないかと思う。

そのような解釈は、映画のラストシーンとも合うように思う。

オーブリーは、なんだかんだいろいろあって7本のテープをすべて集め、それによって「扉を閉める」ことに成功する。その後、トランシーバーで誰にともなく言葉を投げていると、誰だか分からないが誰かと通信が繋がる。オーブリーはその相手に、自分が「信号」をすべて揃えて扉を閉めたことを伝えた。しかし相手から、「それは最悪だ。お前がした行為は、」扉を閉めたのではなく開けたのだと」と言われてしまうのだ。

これを僕はこんな風に解釈した。オーブリーは、「グレイスが望んだ通りに世界を元に戻そうと奮闘している」つもりだった。しかし僕の解釈では、「信号」の話にグレイスは一切関係なく、すべてオーブリーの妄想だ。だから、「『信号』を集めて扉を閉める、開く」云々の話は、「グレイスへの罪悪感に配慮して『生きたい』という気持ちを抑圧しながら、結果として『生きる(病室で目を覚ます)』という選択が取れるようにするための言い訳」だと思うのだ。

つまり「オーブリーは、グレイスのために行っているつもりの行動によって、結果的に自分自身を生きさせることに決めた」という解釈である。そこそこ筋は通ると思うのだが、どうだろうか?

あと、映画の中で出てきた「金の瓜」が謎だったので調べてみた。確かグレイスの家の外観の映像の際、「金の瓜」と字幕が表示されたんだったと思う。僕には分からなかったが、どこかに看板なりがあり、それを翻訳した字幕だったのだと思う。

「金の瓜」というのは、昔話だそうだ。昔、放屁をした妃を殿様が島流しにした。妊娠中だった妃は島で子どもを生み、その後その子どもは自らの出生の秘密を知り、「放屁しない人間が植えると金の瓜が実る種」を城に売りに行く。その種の説明をすると殿様が、「放屁しない人間などいるはずがない」と答えた。そこで子どもは、自分の母親である妃を島流しにした殿様の行いを問い詰め、結果として妃と子どもは城へと迎え入れられ、子どもは跡継ぎになった、という話だそうだ。

この話を要約すると「ミスをしない人間はいない」となるだろうし、それは、「過ちを犯さない人間はいないのだから、自分の行いも赦されたい」みたいなオーブリーの気持ちと重なるように感じる。

さて、これが僕の解釈だ。ここまで読んでくれた方がいれば、賛同なり反論なりお待ちしております。


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