【映画】「PIG/ピッグ」感想・レビュー・解説

なかなか凄い映画だった。ストーリーはシンプルだ。シンプルすぎると言っていいほどだ。「俺のブタを返せ」。これだけだ。

これだけの物語を、成立させているということが凄い。

映画にせよ小説にせよゲームにせよ、やはり、「ストーリー」が全体の中核になることが多いだろう。その上で、キャラクター・構成・音楽・衣装などが追加で乗っかってくる。そういうエンタメが多いように思う。

映画『PIG/ピッグ』は、役者の演技が成立させていると思う。ストーリーだけ抜き出したら、とても普通には成立させられないだろう。ってか、よくこんな物語で映画を一本作ろうと思ったものだ。公式HPを見ると、監督は、この作品が脚本・監督デビューだそうだ。何をどんな風にプレゼンしたのか知らないが、この脚本で良い映画になるという確信を、主演のニコラス・ケイジやプロデューサーに与えることができたのだろう。凄いものだ。

いかに物語がシンプルなのか、説明しよう。

ロブ(ロビン・フェルド)は、山奥に1人で住んでいる。ボロボロの格好をして、まるで浮浪者のようだ。彼は、相棒のブタと共に、最高級のトリュフを探している。そして、毎週木曜日にやってくるアミールにそのトリュフを売る。シンプルな生活だ。
ある夜、何者かがロブの山小屋へとやってきて、突然、ブタを盗んだ。ロブも、侵入者の狼藉を受け、朝まで立ち上がることができない。
どうにか起き上がり、山を下り、どうにか知り合いがいる喫茶店までたどり着く。しかし、その男は10年前に死んでいた。どうにか電話だけ借り、アミールを呼び出す。
そこからロブのブタ探しが始まる。その過程でアミールは、「山小屋に住む浮浪者」ぐらいにしか思っていなかったロブの正体を知ることになる。

主要な登場人物は数人、主人公であるロブはほとんど喋らないし、行動もすべて謎。アミールはほぼ、観客と同じぐらいのレベルでしか状況についていけない。

ブタを探すというロブの行動は、理解不能なものばかりだ。ポートランドの街へ向かったロブは、まずエドガーという謎の男と会う。しかし、特に収穫はなさそうだ。その後、「ポートランド・ホテル」に行くという。アミールはそんなホテルは存在しないと言うのだが、ロブはおかまいなしだ。そして、よく分からないが、ボコボコに殴られる。その後、かつて少しだけ関わりのあった男が経営しているレストランでランチを食べる。

これの何がブタ探しなのか。アミールも観客もよく分からない。

しかし、ロブの正体が少しずつ明らかになるに連れて、徐々に全体像が明らかになっていく。もちろん、それでもイマイチよく分からない部分は残る。未だに僕は、ロブがボコボコに殴られた理由がよく分からない。ただ、「ロブのかつての栄光が、現在においても何らかの力を発揮している」ということは伝わってくる。そしてその過程で、「仕事」「創作」「人生」などにおける非常に重要なメッセージを伝えようとしていると感じた。

それが、「本物であれ」ということだ。

ある場面でロブは、周りの目ばかり気にして自分のやりたいことが出来ていないと感じる男に、痛烈な言葉を突きつける。「君は本物じゃない」「誰一人君に関心はない。君が本気じゃないからだ」。そんな言葉を突きつけられた男は、「笑顔の正解」を見失ったようななんとも言えない表情をしていた。

そしてその後、ロブ自身が「本物であること」を示して見せる場面が出てくる。しかも上手いのは、物語の展開的には、「ロブは別に、それをしたくてやったわけではない」ということだ。そうせざるを得なかったから、彼は、長年遠ざかっていた自分自身の「本物さ」を久々に手繰り寄せることにした。そして、それを完璧に手繰り寄せることに成功する。

実はこの場面、ロブとアミールに実はちょっとした繋がりがあることが判明したからこそ実現したものである。アミールがそれについて語る場面では、まさかこんな展開が待っているとは思わなかったので、非常に上手いと思った。ホントによく出来てる。

すべてが終わった夜、アミールと2人で寂れたレストランで食事をする場面でロブが語った言葉は、なんだか凄く身につまされた。ほとんど感情らしい感情を見せなかったロブが、唯一感情を放出した直後の場面だったからということもあるが、また無表情に戻ったロブが、自分がしてきた「ブタ探し」を振り返って放った一言は、まさに彼自身が発した「愛」という言葉をさらに深めるようなものだったと思う。

これほど物語らしい物語が存在せず、これほど感情らしい感情に欠けるストーリーで、「凄く良い映画を観た」という感想になったことに驚かされた。何が良かったのか説明するのが難しい映画だが、あらゆる要素がこれほどまでに引き算されまくった映画だからこそやはり、ニコラス・ケイジの存在感が圧倒的だったのだと思うしかない。

なんか凄い映画だったなぁ。

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