【映画】「ショーイング・アップ」感想・レビュー・解説

何がどうということはない、淡々とした物語だったのだけど、雰囲気が結構好きな作品で、全体としては満足度が高かった。なかなかおもしろいと思う。

主人公は、美術学校で教鞭を執る彫刻家のリジー。彼女は個展を間近に控えており、その準備に追われている。どうも、思うように準備が進んでいないようだ。母親のジーンが研究室の事務を取り仕切っているようで、彼女は母親に「明日休んでいいか」と聞く。このままだと、個展の準備が間に合わない。

そうして休みを取ったリジーだったが、その前日の夜、ちょっとしたことが起こる。飼い猫のリッキーが、誤って室内に入ってきた鳩を襲っていたのだ。リジーは、傷ついた鳩を窓から放り投げる。「ここじゃないどこかで死んで」と言いながら。自分の行為が最低だと気づいてはいるが、やはり個展の準備の方が大切だ。

しかし翌日、同じく芸術家で、リジーが住むアパートのオーナーでもあるジョーが、庭先で暴れていた鳩を見つけ、リジーに「可哀想に」と見せてきた。リジーは、リッキーのことは黙っていた。そうして思いがけず彼女は、鳩の看病をせざるを得なくなるのだ。

リジーは随分前からジョーに、風呂場のお湯が出なくなったから取り替えてほしいと頼んでいるのだが、ジョーはジョーで個展を控えており、後回しにされてしまう。そんなこんなでジョーとは、鳩のこともあって、時々言い争いのようになる。

家に素性の知れない人を泊めている陶芸家の父や、強迫観念に駆られているらしい兄のショーンなどややこしい人間関係を他にも抱えながら、リジーはどうにか個展の準備を進めていく……。

ホントに、特に大したことは起こらないし、その淡々とした感じにちょっと眠さを誘発するタイプの作品ではあるのだけど、なんだか全体的には良い印象だった。

なんとなくその理由を考えてみると、リジーの絶妙な「生きづらさ」みたいなものが、言い方は悪いけど、ちょっと「可笑しかった」のだろうなと思う。

リジーは芸術家であり、しかも美術学校で教師をしながら自身の創作活動も行っているわけで、「創作のためにしたくもない仕事でお金を稼がなければならない」みたいな人と比べれば、かなり自由な境遇にあると言っていいと思う。芸術家としても着実に評価を積み上げているタイプのようで、客観的には「順風満帆」と言っていいような人に思える。

しかし、リジーの日々の生活を見ていると、どうもそんな感じではない。日々顔を合わせるジョーとは些末な諍いを続けているし、兄のショーンはちょっと精神的にやられてしまっているようだ。そうかと思えば、よく分からない人を自宅に泊めている陽気な父親の感覚もまったく理解できず、同じ学校で働く母親ともそこまで仲良くなさそうである。

美術学校においても特定の誰かと深く関わっている感じでもなさそうだし(どういう関係か不明だが、ちょっと仲良さそうな人が1人出てくる)、ようやく開いた個展でも、主役にも拘わらずどこか浮いているような雰囲気さえある。

なんかそういう、全体的に「ままならない感じ」が滲み出ている雰囲気が良かったんじゃないかなと思う。

しかしまさか、鳩の話がこんなに物語に絡んでくるとは思わなかったからビックリした。

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