【映画】「MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」感想・レビュー・解説

よく出来た映画だったなぁ。この設定で、最終的に「良い話」に展開させる構成力は天才的だろ。マキタスポーツを除けば有名な役者は出て来ないし、監督も『14歳の栞』というドキュメンタリー映画が初劇場作品で、『MONDAYS』が2作目、つまりフィクションは初。まさに『カメラを止めるな!』的なミニマムさで作られた作品という感じだろう。まさに本作には、『カメラを止めるな!』でブレイクしたしゅはまはるみも出ている。映画の舞台設定が、ほぼ「オフィス内」で固定されている中で、これだけ面白い物語が作れるというのも驚きだ。ついこの間観たアニメ映画『四畳半タイムマシンブルース』も、非常にミニマムな舞台設定でかなり壮大な物語を展開させる作品だったが、『MONDAYS』もそれに近いものがある。

いや、ホント、よく出来てる。

物語は、10月25日月曜日の朝から始まる。Zコミュニケーションという広告代理店で働く面々は、月曜朝に提出しなければならないプレゼン資料作成のため、部長と事務員を除き全員が土日も泊まり込みで作業をしていた。彼らが取り組んでいるのは「味噌汁炭酸化タブレット」という、需要があるのかないのかさっぱり分からない商品のキャッチコピーやCM動画の作成。担当している吉川朱海は、キモトタカコという憧れのデザイン事務所からの孫請けであるその仕事に全精力を注ぎ込んでいる。実は吉川は、キモトタカコから引き抜きの話が来ており、既に転職の意志を固めている。ここで良いアイデアをバーンと出して、最高の状態で転職を果たそうと気力を振り絞っているのである。
そんな資料作成の追われている月曜の朝、あちこちで死体のように寝ていた面々が起き上がってしばらくして、オフィスの窓ガラスに鳩が激突し、爆音が響く。
この鳩の爆音をきっかけに、吉川の後輩である遠藤と村田が動き始める。窓の外を見ながらあーだこーだ話している。しかし吉川には、そんな2人を気にしている余裕などない。
しかしその内、1週間のあらゆる場面で、遠藤と村田が「僕たち、タイムリープしています」と真剣な顔で訴えかけてくる。資料作りのため、恋人との約束もブチブチに破りまくっている吉川には、後輩のふざけた様子に傾けるような耳はない。ただ、しばらくの間不思議なことが起こる。遠藤と村田が、まるで吉川の行動を「予知」しているかのような行動を繰り返すのだ。
週末の泊まり込みが決定した金曜の夜、遠藤と村田はビル全体を襲う停電さえも「予知」してみせる。一体何が起こっているのだ……。遠藤と村田は吉川に「これだけは覚えてください」と「鳩の爆音」を示唆するのだが……。

という感じで物語が展開していく。

いわゆるタイムリープものの物語であり、「同じ1週間を繰り返し、月曜の朝になると1週間戻ってしまう」という設定は、「THEありがち」と言うしかないものだと思う。そこまでタイムリープものの物語に詳しいわけではないが、そうやって「同じ時間を繰り返している」ことに気づいた者たちが、「いかにこのループから抜け出すか」を考えるようになるのも、もちろんよくある展開である(というか、タイムリープものはそうしないと終わらない)。

しかし、この物語には1つ、興味深い設定が加えられている。それは、「タイムリープの事実に気づくタイミングが人によって異なる」ということだ。これが、物語を実に面白いものにしている。

そもそも、「彼らが仕事に忙殺されており、週末も泊まり込みしなければならないほど忙しい」という設定が上手い。普通なら「同じ時間を繰り返している」という事実にはすぐに気づきそうなものだが、彼らはあまりに忙しすぎて思考力が奪われており、何度もなんども同じ1週間を繰り返しているのだが、僅かに残っている「先週」の記憶は「夢」として処理されてしまうのだ。だから、「まさか自分が同じ1週間を繰り返している」などとは夢にも思わないということになる。

だから、「タイムリープの事実に気づくタイミング」が人によって異なるのだ。

そして、最初に気づいたのが一番下の後輩だったことが、状況を余計にややこしくする。

考えてみてほしい。あなたが会社で仕事をしている時に、後輩から「タイムリープしてます」と言われたら、あなたはどう判断するだろうか? 「疲れてるんだな、休めよ」となるのではないか。それが、自分よりずっと遠い後輩であればなおさらだろう。そもそも聞く耳を持たないはずだ。

遠藤と村田も、幾度もタイムリープを繰り返す過程で、「私たちは同じ時間を繰り返している」という事実を周囲の人間に伝えただろう。しかし、やはり上手くいかなかった。そこで彼らは、実に「会社員」らしい解決策を導き出すのだ。

それが「上申制度」である。「上申」とは、「上の立場の人に意見を述べること」ぐらいの意味であり、会社組織の中では「直属の上司に伝えること」を意味するのだろう。つまり遠藤と村田は、「このオフィスの全員が、自分より1つ上の上司にタイムリープの事実を伝えること」で、情報共有を図ろうとするのだ。遠藤と村田が吉川に焦点を当てたのは、彼らにとって吉川が直属の上司だったからだ。

この実に「会社員」的な設定が、物語をよくある「タイムリープもの」に留めていない。それぞれが「1つ上の上司に、どうやってタイムリープの事実を認識させるか」を苦心して考えるのだ。「上申制度」という設定は、上手く使わなければ物語の「ダルさ」にも繋がってしまう要素だと思うが、この映画ではそうなっていない。物語を非常に面白くする要素として機能しているのだ。

映画の冒頭で、「このタイムリープの原因は、部長の永久(マキタスポーツ)にあるはずだ」と示唆されるので、そういう意味でもこの「上申制度」は上手く機能する。最終的に社長に納得させなければならないが、ペーペーが言っても聞かないので、「上申制度」で報告を上げていくというわけだ。まったく良く出来てるぜ。

そして、この点が何よりも素晴らしいと思うのだが、「タイムリープから抜け出すために行う様々な行為が、最終的に吉川の考えを変える」という物語なのだ。これが素晴らしい。

吉川は、恋人と会う約束をすっぽかすぐらい、キモトタカコとの仕事に全精力を注いでおり、憧れの会社へ転職するための最後の踏ん張りだと奮闘している。もちろんその状態が悪いわけではない。頑張って上を目指す姿は素晴らしいと思うし、そのために多少協調性が欠けてもまあ仕方ないだろうと思う。しかしそんな彼女が、「タイムリープから抜け出すための様々な行動」の結果として、それまでの自分の在り方を反省するような展開になっていく。正直これは、映画を観なければまったく想像できないだろう。「いかにタイムリープから抜け出すか」だけではなく、「タイムリープから抜け出す過程そのもの」に焦点が当たっている物語であり、最終的に「良い物語だったなぁ」という感想に着地させるから素晴らしいと思う。

あと、タイムリープの設定というわけではないが、映画の中で面白いと感じた点は、「何らかの理由でいつタイムリープが終わるか分からない」という共通認識を皆が持っているということだ。彼らは「部長を何とかすることでこのタイムリープから抜けられる」という仮説を立てているのだが、しかしその仮説が正しい保証もない。彼らは何度も何度も同じ1週間を繰り返すわけだが、ある日突然、部長の行動に関係なくタイムリープが終わる可能性も決して否定はできない。少なくとも、彼らはそう考えている。

「部長をどうにかするまでタイムリープは絶対に終わらない」という確証があるのなら、その1週間にやらなければならない仕事は全部放り投げればいい。しかし、もしかしたら、突然「10月25日月曜日」ではなく「11月1日月曜日」がやってくるかもしれない。もしその時、やるべき仕事に一切手をつけていなかったら、仮にタイムリープを無事に抜け出せたとしても、社会人としての彼らはジ・エンドである。

というわけで彼らは、「タイムリープからいかに抜け出すか」という画策をあれこれ行う中で、ちゃんと仕事もするのである。そして、そういう設定があるが故の面白さも作中では多数盛り込まれている。最終的に部長にタイムリープの事実を伝える場面では、客席から何度も笑い声が湧き上がるほどだった。いや、ホント、よく出来てるわ。

82分という、割と短めの映画だが、そんな風には思えないほどの満足感のある濃密度だと思う。現代っぽく、テンポもかなり早く展開されるので、動画を倍速で観るというZ世代も飽きずに観れるのではないかと思う。

さて、主演の円井わんは、以前『コントラ』という映画で目にしたことがある。調べてみると、『コントラ』が映画初主演なのだそうだ。ずっと「まどいわん」だと思っていたのだけど、映画冒頭にアルファベットで役者名が書かれていたのを見て「まるいわん」だと知った。

あと、池田良っていう役者、僕が観る映画に結構出てくるんだよなぁ。最近だと『マイスモールランド』に出ていたのが記憶にある。他にも、『ミッドナイトスワン』『さんかく窓の外側は夜』『由宇子の天秤』など、僕が観ている映画に出ているらしい。「日常の中に普通にはいるんだけど、そこはかとなく狂気的を孕んでいる役」を演じるのが凄く合うなって感じの人で、『MONDAYS』でもそういう役柄だった。笑ってる顔が、なんか「狂気」なんだよなぁ。不思議な雰囲気の役者だと思う。

とにかく、メチャクチャ面白かった。『14歳の栞』も衝撃的なドキュメンタリー映画だったけど、フィクション一発目がこれというのも凄まじいなと思う。面白い人が出てきたものだ。

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