【映画】「ノートルダム 炎の大聖堂」感想・レビュー・解説

いやー、これは凄い。映像の迫力も凄いし、「実物大のセットを作って、実際に火をつけて撮影」っていうやり方も凄い。

映画の冒頭で、こんな表記が出てくる。

「ウソのようだが、すべて実話だ」

ホント、よくもまあこんなことが現実に起こったものだと思う。ニュースでノートルダム大聖堂が燃えていると伝えられた時にはメチャクチャ驚いた記憶があるし、その背後で起こっていた出来事が、かなり緻密に描かれている。公式HPには「驚異の98%再現!!」と書かれている。出火原因など、憶測を交えないといけない部分もあったのだと思うけど、分かる限りにおいては事実をそのまま描いたということだろう。

映画には、当時実際に撮影された映像も随所に映し出される。2019年の出来事だから、スマホなどで撮影された映像もかなりクリアだ。だから、映画の映像とさほど遜色がない。そういうこともあって、本当に火災の現場に立ち会っているんじゃないかと感じるような映像体験だった。

さて、映画の内容についてあれこれ書く前に、一つ触れておきたいことがある。それは、「『もしも火災が起こったらどうするか?』について、まったく考えてなかったわけ?」と感じてしまったという話だ。

出火原因が何だったのかはともかくとして、「火災は起こるもの」として対策を取っておくべきだったはずだ。しかし、映画を観る限り、とてもそんな感じではなかった。

スプリンクラーをつけるとか、窒素などの消火装置をつけるみたいなことは、もしかしたら、「文化財を傷つけてはいけない」「建築基準法上無理」みたいな理由があったのかもしれない。しかしそれにしても、「屋根が燃えているのに、放水可能な場所まで行くのに、狭い螺旋階段を300段も上がらなければならない」「ノートルダム大聖堂があるシテ島の消火栓が足りず、特殊な船から取水するしかない」「消防署からノートルダム大聖堂までの最短ルートが、消防車では通れない道幅になっていた」など、「それぐらい先になんとかしとけよ」と思う場面が山ほどあった。「野次馬が多すぎて消防車などの緊急車両が近づけない」みたいな状況も、想定不足感が強かった。

日本ではどうなっているのかちゃんと知っているわけではないが、以前テレビで高野山が取り上げられていた際、建造物の周囲を取り囲むようにして地面に小さな穴がいくつも開いている様子が紹介されていた。火災が起こった際には、そこから水が出る仕掛けだ。世界遺産になっている、合掌造りの建物の多い白川郷では、年1回の放水訓練を欠かしていない。もちろん、そういう対策をどれだけしていても、甚大な被害が出てしまうことはあるだろうが、ノートルダム大聖堂の場合は、「まったくなんの対策もしていない」ように見えた。

それだけならまだしも、「火災報知器の誤作動が多かったのに、修理していなかった」なんていう、明らかなミスもある。実際映画冒頭では、火災報知器の異常を警備員が知らせたにも拘わらず、「誤作動だ」と言って無視されてしまう場面が描かれる。

ノートルダム大聖堂には、「フランスが支払いに35年掛かった」と紹介される「いばらの冠」と呼ばれる聖遺物を含め、1300点もの貴重な文化財が保管されている。フランスが誰と35年ローンを組んだのかよく分からないが、とにかく「フランス史上最も貴重」と言われる文化財なのだそうだ。ノートルダム大聖堂のトップ(司教?)も、「もし1点しか救えないのであれば、『いばらの冠』を」と消防隊に頼んでいた。

そんな至宝が眠っているなら、ホント、もっとちゃんと対策しろよな、と思う。マジで、その点がホントに理解できなかった。

ノートルダム大聖堂自体の貴重さについても、「観光客にガイドが語る説明」として、様々に紹介される。

『欧州で最も訪問者が多い建築物』
『ゴシック建築の至宝』
『屋根を支える骨組みは世界最古の木材で作られている』

などなど。しかも、ただ「古くて価値がある」というだけではなく、現在に至るまで続く「信仰」とも結びついているのだから、その重要性はなかなか推し量れないだろう。日本だと何に相当するのか考えてみたが、よくわからなかった。古さだけで言えば、清水寺とか金閣寺なんかが当てはまるのかもだけど、「ノートルダム大聖堂」というものが持つ様々な要素をまるっとひっくるめたようなものは、なかなか思いつかない。それこそ「富士山が崩れる」みたいな感じなのかもしれない。

さて、そんな実話を、この映画では「出火に至る経緯」と「消化の戦い」だけで描いていると言っていい。非常にシンプルな物語だ。唯一、「大聖堂にろうそくの献灯にやってきた母娘のエピソード」だけがフィクション的というか、「恣意的に挿入された人間ドラマ」という感じで、それ以外は、「実際にこういうことが現場で起こっていたのだろう」という、状況描写と消防隊の奮闘だけで構成されている。

だから、とてもドキュメンタリー映画っぽい。もちろん、明らかにドキュメンタリー映画ではないことは理解しているので混乱することはなかったが、ドキュメンタリー映画を観ているような気分で映画を観ることができた。

映画を観ながら、「有事になった際の準備をしとけよ」と色んな場面で感じたのだけど、それとはまた別の観点で「それぐらいやっとけよ」と思う場面があった。

ノートルダム大聖堂には、文化財の管理の責任者であるプラドという人物がいる。彼は火事が起こった日、パリから22km離れたヴェルサイユ宮殿の展示を見に来ていたのだが、火事の一報を聞き、すぐに戻ろうとした。ただ、色んな場所が封鎖されていて、ノートルダム大聖堂の近くまで行くにも大変だった。

まあ、それは仕方ない。

さて一方で、消防隊の間でもプラドの名前は上がっていた。文化財の責任者で、重要なものを保管している部屋の鍵を持っているのもプラドだということが、早い段階で伝わっている。さらに、一番救出してほしいと言われている「いばらの冠」も、プラドが持っている鍵がないと開かないということが分かっているのだ。

さて、その状況で、プラドがノートルダム大聖堂の周辺を警備している警察官に止められる場面がある。プラドは「これが鍵だ」と、自分が文化財の責任者だと訴えるのだが、「今日は枢機卿が多すぎる」と、「どうせお前も枢機卿だって言って嘘ついてここを通ろうとしてるんだろ」という態度を取られてしまう。

これがマジで意味が分からんかった。プラドが持ってる鍵が必要なことは明らかだったんだから、警察と連携してその辺上手くやれよ、と。もちろん、現場は混乱していただろうから、ちょっとした不手際で連絡の行き違いがあったとかなのかもしれないけど、なんとなくこの映画だけから判断すると、そういう連絡はなされていなかったんじゃないかという気がした。

ホントに、「おいおい」と感じてしまう場面が多数ある映画だった。映画としては、とても良かったと思う。

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