【映画】「オオカミの家」感想・レビュー・解説

しかし、これはちょっと僕には無理だったなぁ。

「凄まじい労力がかかった作品だ」ということは、観れば一発で理解できる。普通に考えたら、気が狂いそうなレベルの作業量だろう。それをとにかくひたすらにやり切った、という点には圧倒された。ただ、物語があまりにもよく分からず、僕としてはしんどい鑑賞体験になった。

種類としては「ストップモーションアニメ」なのだが、そう一言で言えるような作品ではない。

例えば、普通のストップモーションアニメの場合、1コマ撮影して人形の動きを少し変え、さらに1コマ撮影して……みたいなことをしていくだろう。もちろんこれはこれで大変だが、『オオカミの家』はもっとヤバい。

まず、人形的な存在は形そのものからしてダイナミックに変わっていく。豚が人になったり、肌の色やら髪の色やら服装やらなんやらが常にダイナミックに変化し続ける。恐らくだが、粘土状の人形を、1コマ撮影する度に造形を変化させているんだと思う。

さらにそれだけではない。この映画は、「ある少女が逃げ込んだ小屋」のような場所を舞台にしているのだが、その小屋の壁に、プロジェクションマッピングでもしているかのように様々な絵が現れては変化していく。これも、1コマ撮影したら壁を大幅に塗り直して次のコマようの絵にして、さらに1コマ撮影したら次のコマ用の絵に変えていく……みたいなことを延々とやっていくのだ。

さらに、リアルの造形物と、壁に描かれた絵が連動するようなシーンもある。例えば、「壁に描かれた豚が、床に置かれたボールにヘディングする」みたいな場面がある。文字で書くとなんのこっちゃ分からないかもしれないが、そんな風に両者が連動するのだ。

そんなわけで、リアルの造形物と壁の絵を同時に動かしていきながら、さらにその両者を連動させるような仕掛けもある、という、ちょっと想像しただけで気が狂いそうな作業量になる作品なのだ。マジでどうやって撮ったんだろう。マジでこの映画、シーンによっては「1日に20コマしか撮れませんでした」みたいなことも全然あり得るだろう。

ストーリーはよく分からなかったのだが、この『オオカミの家』という映像作品を取り巻く設定は理解できたし、なかなか興味深い。

チリ南部に実在したコロニア・ディグニダというコロニー(カルト集団らしい)が舞台であり、映画の冒頭は、そのコロニーの住民らしき人物が、コロニーだろう風景を映した実写の映像を背景に話をしている。このコロニーはドイツ人によるもので(実際は、ナチスの残党によって創立されたそうだ)、歌うことが喜びだった。このコロニーは、無知な人間からは良くない噂とともに語られることが多いのだが、実はそんなことはない。そのことを示すために、先ごろ発見されたフィルム(これが『オオカミの家』である)の修復に取り掛かった、みたいな説明がなされる。

そのフィルムは、コロニーに住んでいたマリアという少女の物語だ。彼女は仕事をせず、動物と戯れる日々を過ごしていたが、ある日3匹の豚を逃してしまったことで、100日間誰とも話してはいけないと命じられた。しかしそんなのは辛い。そこでマリアはコロニーを抜け出し、外部に助けを求める……という話である。

さて、設定という話で言えば、同時上映の『骨』の方が興味深かった。『オオカミの家』を作ったのと同じコンビが作った作品のようだ。僕は最初、『オオカミの家』のコンビが作った作品だということを理解しておらず、架空の設定が本当なんだと思っていた。

その架空の設定というのが、「2023年に美術館建設に伴う調査で発掘された、1901年に作られた作者不詳の世界初のストップモーションアニメ」である。ホントに、「へぇ、そうなんだぁ」と思いながら観ていた。「1901年に作られた作品」という設定を信じてたので、「めちゃくちゃクオリティ高いな」と思っていたのだけど、さすがにそうじゃなかったようだ。しかし、『オオカミの家』よりは分かりやすいので、どっちかと言えば『骨』の方が好きだ。

パンフレットが売り切れてたり、サービスデーだったこともあると思うけど満員だったりと、なんだか注目度は高そうな映画だ。まだ観られる映画館はほとんどないけど(8/28今日時点で、全国で3館でしかやってない)、徐々に公開館は増えるようなので、気になる方は観た方がいいだろう。とにかく、異常に手間がかかっていることと、ぶっ飛んでいることだけは保証する。

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