【映画】「ユダヤ人の私」感想・レビュー・解説

とてもつまらなくて驚いた。

このような作品に対して面白い・面白くないという評価をすべきではないという意見もあるかもしれないが、僕はした方がいいと思っている。というのも、「真実」に興味を持ってもらうためには、やはりある程度「面白さ」がなければいけないと思うからだ。

ホロコーストに限らず、酷い経験をした人物は様々にいるだろう。その人たちの経験や証言は、残され受け継がれるべきだ。しかしどれだけ価値ある証言でも、「価値がある」というだけの理由で人を惹き付けることはとても難しい。悲劇を伝えたり、共通の問題を認識させたりするためには、やはりなんらかの形で人をグッと惹き付ける必要があると思うし、残念ながらこの作品にはその要素が足りないと感じる。

個人的に一番問題があると感じるのは、「強制収容所に関する話が、映画開始から3/4ぐらい経過してから」という点だ。この映画は、ホロコーストを生き延びた、撮影当時105歳のユダヤ人マルコ・ファインゴルトが、自身の経験をカメラの前で語る、というものだが、話は基本的に時系列順に展開されていく。恐らく彼がそのように喋ったのだろう。家族との思い出や、収容所に入るまでの様子などについて喋る。

もちろんこれらの証言が不要というわけではない。学術的には価値があるだろうし、興味を持つ人もいるだろう。しかし、「ユダヤ人の私」というタイトルの映画で、ホロコーストを生き延びた人物が語るのだから、やはり強制収容所の話がメインだと観客は期待するだろう。その期待には応えてほしかったなと思う。

別に男性に証言の順番を変えてもらう必要はない。編集でいくらでも手を加えられるはずだ。

正直僕は、強制収容所の話が出てくるまでは、つまらなくてウトウトしてしまった。言い方は悪いが、他人の家のアルバムを見せられているような話が続くので、正直関心を持つのが難しかった。

強制収容所に関する話は全体の尺の中では短かったが、やはり体験した者の語る重みは違うと感じる。「建築に関わる者は移送されないと決まったが、少し前に左官の仕事から外れてしまったため、担当者と1時間交渉して左官に戻してもらった」というエピソードなどは、物凄いリアリティだと思う。もしそこで左官に戻してもらえなければ、恐らく彼は亡くなっていたことだろう。

彼の証言の中で最も興味深かったのは、強制収容所から解放された後の話だ。

彼が最終的にいたのはブーヘンヴァルト強制収容所だが、そこには28ヶ国から集められたユダヤ人がいたという。終戦を迎え、強制収容所が解放された後、27ヶ国からは迎えがやってきた。そして終戦から2週間もすると、彼を含めたオーストリア人だけが残ったという。

オーストリアは、迎えを寄越さなかったのだ。彼らはウィーンと連絡を取り、移動手段がないからと交渉しトラックを用意してもらったのだが、ウィーンとの国境で止められ、「ウィーンにユダヤ人を入れるな」と追い返されてしまったという。

凄い話だ。結局彼らはザルツブルクまで戻り、終生そこで過ごすことになった。

ザルツブルクでは親切にしてくれた人もいたが、「収容所で楽に暮らしていて羨ましい」と妬まれることも多かった、という話にも驚かされた。もちろん終戦直後の話であり、強制収容所で何が行われていたのかまだほとんどの人が知らない時代のことだっただろう。何も知らなければ確かに、「戦時下の街は爆撃に遭い、飢餓にも苦しんだ。お前たちは収容所で安全に暮らしていたんだろう」という見られ方になってしまうのも仕方ないかもしれない。

しかし、そう言われたユダヤ人たちの心境を想像すると非常に辛い。彼らは反論せず、ただ黙ってその批判を受け入れていたそうだ。

証言の合間合間に、彼がこれまでに受け取ってきた様々な手紙(ほとんどが誹謗中傷するもの)の内容と、当時の記録映像が挟み込まれる。正直、こちらの方が興味深いと感じる部分が多かった。

映画の冒頭で、ファインゴルト氏がこれまで様々な中傷を受けてきた、という字幕が表示される。ファインゴルト氏は、ナチスドイツと共にウィーンも批判してきたそうで、恐らくそれもあるのだろう、彼自身もまた中傷の対象になってきたそうだ。

手紙は、「お前を殺す」的な脅しのものもあれば、「ホロコーストなど嘘だ」というホロコースト否定論者からのものもある。本当に、こういうことが言える人間の神経が僕には理解できない。

映像は、初めて観るものが多く、興味深く感じられた。強制収容所を解放した直後の映像や、ナチスドイツに協力した女性への罰として髪を切られているニュース映像など、当時の状況を伝えている。

ホロコーストにしても原爆にしてもそうだが、第二次世界大戦に関わる惨劇を語れる人物はほとんど存在しなくなっていることだろう。証言は証言として貴重であり、それは是非記録してほしいものだ。そして同時に、後世に伝えるためには、どのようにその証言・記録に興味を持ってもらうのかを、次の世代は考えていかなければならないのだろうと改めて感じさせられた。

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