【映画】「2046 4Kレストア版」感想・レビュー・解説

さて、今回観た『2046』をもって、ウォン・カーウァイの4Kレストア版5作、すべて見終わった。

観た順番も関係するような気はするが、やはり一番好きなのは『天使の涙』だ。その次が『恋する惑星』。『花様年華』と『2046』が同列で、『ブエノスアイレス』はちょっとダメだった、という感じ。

「観た順番による」と書いたのは、ウォン・カーウァイの作品は、良い意味でも悪い意味でも「どれも同じ」と感じた点に関係している。「作家性」というのはそういうことだと思うのだが、描いている人間関係も、映像や音楽の雰囲気も「ウォン・カーウァイだなぁ」と感じる。もちろん、それだけの「作家性」を発揮できるのは素晴らしいことなのだが、しかし同時にこれは、「印象が似通ってくる」ということにもなるだろう。

例えば、僕が最初に観たウォン・カーウァイの作品が『花様年華』だったとしたら、『花様年華』が一番好きとなっていたかもしれない。「似ている」ということは、「後の方に観る作品ほど印象が薄れる」ことになる。しかも今回、4Kレストアを短期間で一気見したので、余計そういう印象になる。すべての作品を劇場公開のタイミングで観ていたとしたら、前の作品の印象が薄れているため、後から観た作品に対して「同じ」という感覚を抱きにくかったかもしれない。

『2046』もそうだったが、とにかく僕はウォン・カーウァイ作品においては、「魅力的な女性が描かれる」という点に惹かれる。そういう意味で、『ブエノスアイレス』はダメだった。『恋する惑星』も『天使の涙』も『花様年華』も『2046』も、男たちが「魅惑的な女性」に次々出会い、その存在感に振り回されたり、時には相手を振り回したりしながら展開していく物語だ。だからとにかく、「女性の描かれ方」がどれだけ魅力的かに掛かっている。

『2046』には、『恋する惑星』に出てきた短髪の女性が再び登場したが、彼女の存在がとても良かった。日本人と付き合っていることを父親に反対されながら頑張っている彼女は、後半で割と中心的に描かれるようになる。そこに至るまでの過程においても、彼女以外の魅力的な女性は多数登場するのだが、この日本人と付き合っている女性は、「2046の世界」でもアンドロイドとして登場する、なかなかトリッキーな役柄で、そういう意味でも興味深い。

「2046の世界」と書いたが、『2046』という映画は、言葉で設定を紹介しようとするとちょっとややこしい。物語の冒頭は、とてもSFチックに始まる。木村拓哉が、延々に止まらない高速列車の中にいるという場面が描かれる。彼は「2046から初めて戻ってきた男」である。

このSFチックな設定は、様々な女性と関わり合いを持つ主人公男性チャウが執筆した小説である。その小説のタイトルこそ『2046』なのだ。その小説の世界では、「2046」と呼ばれる場所が存在し、多くの人がそこを目指している。その目的は、「何かを探すため」だ。2046では、何も変化が起こらない。だから、「自分が探しているものが2046にあるかもしれない」と思って皆2046を目指すのだ。そしてそこから、初めて戻ってきた人物こそ、木村拓哉演じる男である。彼は、現実世界では、日本人と付き合っている女性の彼氏である。チャウは、自分の周辺にいる人達を小説に登場させているのだ。

現実の物語は、1966年に始まる。シンガポールにいた頃、夫のいる女性と恋仲になってしまったチャウは、香港へと戻るタイミングで「一緒に行こう」と提案するが断られてしまう。その後香港に戻った男は、新聞にコラムを書くようになり、それだけでは暮らせないと、生きていくために官能小説を書くようになる。
ある日クラブで、古い友人ルルに再会したが、彼女は自分のことを覚えていなかった。酔い潰れたルルを部屋まで連れて行ったのだが、そのホテルの部屋番号が2046だった。ルルと再会し、2046という部屋番号を目にしたことで、『2046』というSF小説が後に生まれることになる。
その後、2046号室にルルを訪ねたチャウは、彼女がいなくなったことを知り、だったらと2046号室を借りたいと提案する。改装の必要があるからとりあえず2047号室はどうかと提案されたチャウは、結局そのまま2047号室に留まることになる。しばらくすると隣から謎の言葉(日本語)の独り言が聞こえるようになるのだが、それは、ホテルのオーナーの長女で、日本人と付き合っている女性のものだった……。

というような感じで話が進んでいく。

時代背景や舞台設定などは明らかに『花様年華』とリンクするものがあり、実際、『花様年華』を観た時に、2046号室の部屋番号が映し出される場面があったのを覚えている。『恋する惑星』と『天使の涙』も繋がりを感じさせる物語なので、そのような手法はウォン・カーウァイの十八番なのだろう。

個人的に「うーん!」と思ってしまうのは、バイ・リンという女性との関係。後に2046号室に引っ越してきた女性で、ひょんなきっかけからチャウはバイ・リンと関わりを持つことになる。初めはお詫び、そして飲みに行き、その別れ際に、「君と関係を持とうと思っているわけじゃない。そうじゃない関係を望んでいる」とチャウが言う場面がある。

バイ・リンは夜の仕事をしており、イメージとしては「自分で客引きをする、街娼ではない娼婦」みたいな感じだと思う。だからこそチャウは、「セックスの関係に持ち込もうとしているわけではない」と口にするわけだ。

ただ、結局チャウは、バイ・リンと関係を持つ。まあこの時点で僕としては、「いやいや、頑張って有言実行しろよ」と思った。

その後、「10ドルの関係性」が続くことになる。この10ドルのやり取りは最終的に、「バイ・リンが10ドル払う」という形の逆転が起こることで、チャンの気持ちが明確にバイ・リンから離れていることを示す非常に印象的な場面へと繋がる。映画の展開としてはとても良い。

ただ、個人的には、「娼婦という仕事をしているからこそ、『お金の関係』にしたら、絶対に終わるよね」と思ったりした。それが分かっていて、敢えて終わらせるために「お金の関係」にしたんだ、という解釈も出来るけど、どうなんだろう。個人的には、バイ・リン可哀想だなぁ、と思ってしまった。

まあとにかく、男の僕としては、魅力的な女性がたくさん出てくるのが良い。女性からしたら、主人公のチャウが良い感じだろう。木村拓哉がどうかはよく分からん。とにかく、カッコいい映画だなぁと思う。そりゃあ、人気出るよな、ウォン・カーウァイ。

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