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【上演脚本】三組姉妹

本脚本は、2019年に上演した作品です。
実際に3組の姉妹によって上演いたしました。

梢 三咲

春野 日向

美月 美青



【梢 #0前説】


舞台中央にはテーブル。向かい合う形でイスが置いてある。

その前には取っ手が出た状態のキャリーケースが1つ。

日向、すでに椅子に座っている。勉強をしながらスマホもたまに触っている。

梢 普段というか最近のかのこはあおぞら劇場なんかで、まあいわゆる公益的な公演が多く なってきたんですけど、この公演に関しては、ほんとに、ただやりたいっていうそういう公演 ですので、あの、あれです。結婚式的な。そういう感じの公演です。

それでは、しまいのしまいによるしまいのためのおしばい、始めます。

梢、電話を誰かと始める。

梢 もしもーーし。

梢、去る。

【春野×日向 #1いつかのあの日】

春野、入ってくる。

春野 ただいまー。

日向 …。

春野 あ、お母さんは。

日向 (適当に指をさす)

春野 そか。

日向 …。

春野 え、ねえ今日さあ、

日向 …。

春野 きょ、きょぉーうさ、

日向 …。(春野を見る)

春野 あ、あの聞いてくれるだけでいいですはい。あの、勉強してていいよ。

日向 …。

春野 今日さあ星野源がさあ、インスタライブやってたんやけどほんとにかわいくてさ、え、38だよ!?いや困るこの38歳。かわいいあのずっと笑っててほしいっていうかさ、あの笑った時のクシャっとした感じがさ、いいっていうか。あとインスタライブだとなんていうんだろ、

日向、何か物を取りに退出。

春野 (日向に届くような声で)それでさあー!インスタライブがねえー!
あのね、尊いっていうかねえ、微妙に慣れてない感じがさあ、あとタピオカとか飲んでて、

日向、飲み物を2つ分持ってくる。

春野 え、いいの?え、まじ。

日向 …。

春野 (飲む)あーこれおいしいよね。

日向 …。(飲みながらうなずく)

春野 寒くなったよねー。

日向 …。

春野 (あくびして)あー、ねっむい。やばい寝そう。

おふろ行ってこよ。

日向 …。

春野、いなくなる。日向、スマホから音楽を流す。

しばらくすると眠る。

春野 服、服、

春野、机の上のコップをどけ、毛布をもって日向にかける。音楽も止める。

あくびをして、残った飲み物を飲むとそのまま眠る。

梢、三咲入ってくる。キャリーバッグの取っ手越しに見る。

【梢×三咲 #2アルバム】

梢 2人で寝てるのかわいいよね。え?めっちゃかわいい~。

三咲 はいはい。

梢 こうしてみるの姉妹ってめっちゃ可愛いよね。

三咲 まあね?

梢 え、これ何歳の時のかな。

三咲 えー、氏(うじ)3歳くらいじゃね。

梢 あー。

三咲 私ばぶちゃんだし。

梢 え、ずっと思ってたんだけどさ。

三咲 ん?

梢 なんで氏呼び?え、いつから?

三咲 えー?姉氏ーって感じ。

梢 特殊すぎん。

三咲 アイデンティティ。

梢 自我の芽生え。

三咲 てか急にアルバム出すとかどしたん。

梢 定期的に見たくない?昔の写真。

三咲 いや別に私は。てかそんなに好きじゃない昔の写真。

梢 超かわいいじゃん。

三咲 でもなんか好かん。

梢 あ、これさあ。

三咲 ん。

梢 私なんかわかんないけど、覚えてることあってさあ、こんくらいの頃の。

三咲 ほお。

梢 2階でさ、ほら、あ、はじめあんたが生まれたての頃はさ、上だったじゃん。

寝る場所、あの、2階の部屋の。

三咲 よく覚えてんね。

梢 うん、なんか。ほんでさ、あんたが寝てて。部屋で。そんで一緒に寝に行った記憶ある。

三咲 へえー。

梢 かわいくね。

三咲 知らんけど。

梢 そんな感じの写真、これ。

三咲 そん時のかなあ?

梢 どうだろ。

三咲 ねー。

梢 適当か。

日向、目を覚ます。自分にかけられていた毛布を春野にかけ、コップをもって退出。

春野、そのあとに目を覚まし、退出。

三咲 だって全然覚えてないしそういうの。だって小中の記憶すらないもん。

梢 それなあ。わたし中学のころからの友達、いつクラス一緒だったかわかんないもん。

三咲 それは最低。

梢 なんならなんで友達なのかわかんない。

三咲 最低オブ最低。

梢 でも友達だから。

三咲 かわいそう。

梢 あとわたし一人っ子時代の記憶ないんだよね。

三咲 わかる私も。

梢 いやあんたそれはそうじゃん、生まれた時から一緒なんだから。

三咲 ああ、そっか。

梢 でも、生まれた時から一緒とかなんかすごくね。考えられんくない。

三咲 なにがあ。

梢 え、だってあれじゃん、じゅう…はちねん。生活するわけじゃん。毎日。まあ今は違うけど。

他人とその時間一緒に過ごすとか考えられんくない?

三咲 でも結婚したらそうじゃん。

梢 いやそりゃそうだけど、結婚かあ。え、結婚したいんだけど。

三咲 はいはい。

梢 ちょ、ほんとに早く結婚したいんだって。

三咲 いやまじで早くしてよ。

梢 そうもいかんのよ現実。

三咲 はいはい。

梢 適当にあしらいやがって。

三咲 だってどうでもいいもん。

梢 おい。

三咲 だって私結婚したいとか思わんもん。だって無理やし。

そんな誰かと暮らすとかそもそも。

梢 んー、まあ気ぃ遣いやもんね。

三咲 ほんとマジ無理。

梢 めっちゃいややん。

三咲 できることならほんと早く家出たいもん。てか一人で暮らしたい。

梢 一人暮らしねえ。

三咲 ほんとさー。いや絶対無理やろうけど、一人でいたいもん基本。

梢 え、さみしくない?

三咲 別に?

梢 いや私もう耐えられんもん。ひとり。や、ほら、孤独と一人は違うじゃん?

三咲 まあ?そりゃ私だって孤独は無理やけど。

梢 私さあ、さいきん一人も無理なんだよね。

三咲 やば。

梢 極力一人でいたくないし。どっか行くのも前は一人平気やったけど、今無理やもん。

誰かと行きたい。物理的に一人が無理。

三咲 絶対いやだわ。

梢 すげえなあ。

三咲 だって合わせるのめんどくさいやん向こうに。

梢 ああ、あんたあれでしょ?遅刻とかそうでしょ?

三咲 そうそう。私は待たせるけど待たされるのは嫌。

梢 理不尽極まりないな。

三咲 だから向いてないんよ、誰かとおんの。

梢 まあ確かに。

三咲 あー、一人暮らししたーい。

梢 はいはーい。

梢、電話をかける。

梢 はあい。うん、うん。あ、今?今はねえ、なんだろ、とりあえずは大丈夫だよ。いやほんと、ね?びっくりよね。

三咲 だれ?

梢 (首を適当にかしげる)うん、あはは。あ、そうなんだ。それは大変やん。

うん、うん。

三咲、しばらくすると退出。

梢 あーそっか。あ、それ?見た見た。あの、かばんのはしっこのとこでしょ?見たよちゃんと。うん。はいはい、わかってるって。うんうん。いやあれは意味わからんかったよね。めっちゃわかるー。あ、あー、わかるぅー。うん。あれ、今何時だっけ。あぁ、もうそんな時間か。やばいわ。あ、うん。あー、ほんとね、ねえー?

梢、退出。

【美月×美青 #3 恋バナ】

美青 ねえお姉ちゃーん。

美青、言いながら入ってくる。

美青 あれ、おねえちゃーん。

美月、入ってくる。

美月 んー?

美青 ねえ、今日髪やってよ。

美月 別にいいけど。え、どしたの、デート?

美青 まあ。

美月 うーわ意味わからん。めっちゃ可愛くするわ。(椅子を動かす)ん。

美青 やった。

美月 え、どんな感じがいい。

美青 えー?なんか超かわいいの。

美月 雑すぎじゃん。えー、ぴよぴよってやるね。

美青 よろしくー。

美月 どこ行くの。

美青 メディコス。

美月 うわいいな。

美青 勉強一緒にちょっとやって、そんで柳ヶ瀬行くの。

美月 はあー、何そのデートコースめっちゃいいじゃん。何それ、うわー。

美青 いいやろ。

美月 なんなんですかほんとに。え、いいな。

美青 お姉ちゃんだって作ったらいいのに。

美月 おい半笑いで言うなって。

美青 ほんとにいないの?周りに。

美月 いやだって、もうあれだもん。だって私の周りアレだもん。いやわかるやん。

美青 そうだけど。

美月 はあーーーー、私も彼氏ほしいいい。

美青 お姉ちゃん、彼氏作るのは簡単なんだよ?

好きな人とそういう関係になるのが難しいだけなんだよ?

美月 もおおおおおおおい。

美青 痛い痛い痛い。

美月 もおなんなんもうー。え、どこからそういう空気っていうか関係になるの。

美青 え?なんとなく?

美月 いやなんとなくってなに!?何がそんな変わるの!?は!?

美青 お互いになんかそういう感じになるんだって。

美月 え、彼とはそんな感じになったからそうなって今日ってこと?

美青 うん。

美月 いいなああああああ。

美青 だからなるって多分、お姉ちゃんも。

美月 あ、こっち向いて。

美青 ん。

美月 いやでも多分私さ、これ何度も言ってるけど、「彼氏ほしい」って言ってるのが

楽しいんだと思う。

美青 あー、ね?

美月 あー、でも欲しい、彼氏ほしい。精神的なよりどころがほしい。

美青 お姉ちゃん、求めてるうちは手に入らないよ?

美月 はああああ。

美青 え、ねえあんさあ。

美月 ん?

美青 実はさ、休みの日に会うの初めてなんやおね。

美月 は!?初めて聞いたんだけど!え、てっきりもう何度もしてるもんだと。

美青 いや放課後とかにはあったんだけどさ。

美月 ええええええ超どきどきやんーーー!!

美青 絶対お姉ちゃんのほうが楽しみじゃん。

美月 そりゃそうじゃん、えええー!

美青 やばいよね。

美月 え、超かわいくするから。え、何時?

美青 2時。

美月 えー、まじか。どうしよ、変えよっかな。

美青 このやつでいいよ。

美月 えー、だって歴史的瞬間じゃん。

美青 規模でか。

美月 いいなあ、初めてかあ。

美青 え、お姉ちゃん今日何すんの。

美月 特に決めてない、え、どうしよっかな。

美青 あのさ、あれ買ってきてよ。あのキャンメイクの新作。

美月 うそパシんの。

美青 いいじゃん暇なんだから。

美月 いや否定はできないけど、え、美青どうせ出かけるじゃん。

美青 でもそん時に買えるとはわかんないじゃん、ねえ、いいでしょー?

美月 ええー。

美青 ねえええおねがいい。あ、ほら、前言ってたじゃんマスカラ無くなりそうって。

美月 ああ。

美青 ね?ついで!ね?

美月 …はいはい。

美青 えっありがと!

美月 しょ・う・が・な・い・な・あ!

美青 なんかおごるから。

美月 うそおごっちゃってくれるの?

美青 あんま高いのは無理だよ。

美月 あのさ、岐阜駅の近くのとこのあの、ハウス。

美青 ん?

美月 なんだっけ、あ、忘れた。あの、みんな載せてるじゃんインスタ。

美青 …あ、あ?あ、アジアンティーハウス。

美月 あ、そうそう。

美青 え、じゃあ今度一緒に行こ。

美月 やったね。

美青 …あー、なんか緊張する。

美月 いいなあ。ん、できた。

美青 おおー。

美月 うん、かわいい!

美青 ほんと?

美月 うんかわいい!

美青 そろそろ出よっかな。

美月 おお、

美青 えー、カバンどうしよっかな。

美月 準備してないの。

美青 あ、お姉ちゃんのあの、ちっちゃめのかわいいカバン貸して。

美月 ええーん、いいけど。

美青 適当に借りてくね。

美月 おっけー。

美青、カバンを取りに一時的に部屋を出る。

美青 メイクばっちり?

美月 ばっちり!

美青 服かわいい?

美月 超かわいい!

美青 髪は?

美月 最高!

美青 それじゃあ、行ってきます!

美月 行ってらっしゃーい。

美青、退出。

電話。

美月 はーい。うん、今ね、そうそう出たとこ。え、覚えてる?もうめっちゃ頑張ったの。

ね。うん。ん?あ、ちょっと聞こえない、え?ちょ、もしもーし、ん?

しもしもー。…聞こえてますかー。おーい。

【春野×日向 #4いつもある日のこと】

春野、誰かと電話をしながら入ってくる。片手には本。(『わが星』)

春野 (美月にかぶせて)おーい、…。聞こえてますかおーい。

美月、退出。

春野、何かを口ずさむ。母の声が聞こえてくる。

春野 ん、えー?はーい。あ、食べるー。え、あ、選ぶー。

春野、退出。その間に日向入ってくる。

春野 お、今日ケンタッキーだって。選べるみたいだけどどうする。

日向 …。(首を軽くかしげる)

春野 なんでもいっか。

日向 …。(うなずく)

春野 日向なんでもいいってー。はあーい。

日向、勉強をしている。その様子を春野はずっと見ている。

春野 …ずっと勉強してんね。楽しい?

日向 …。

春野 私さあ、高校のときとかそんな真面目にやってなかったからさあ、

勉強してた記憶そんなにないんだよね。いや現文とかは好きだったけど。

日向 …。

春野 …教えてあげよっか。

日向 (じっと春野を見る)…。

春野 すいませんっ。

日向 …。

暇すぎる春野。暇すぎて日向のノートに落書きを始める。

日向 (春野を見る)

春野 …えへへ。

日向、その落書きの上にさらに足す。

春野 えっ、待って私のポン・デ・ライオンが!うそでしょ。めっちゃ気持ち悪いんだけど。

え、なんで顔から足3本生えてるの。怖すぎるよ。

日向 (楽しそう)。

春野 ちょ、こわいこわい。

日向、さらに書き始める。

春野 なにこれ。

日向 (やっぱり楽しそう)

春野 こわいこわい。

母からの声がする。

春野 ご飯だって。

日向 …。(机を片付ける)

春野 今から行くきまーーす。行こ。

2人、退出。入れ替わりで美青入ってくる。少し後に美月も入ってくる。

【美月×美青 #5姉妹】

美月 え、それわが星じゃない。

美青 そう。

美月 うっわあ懐かしい。

美青 学校の図書館にあったんだよね。

美月 いいなあ、やってみたかったわが星。

美青 演劇部員はみんなやってみたくなるよね。

美月 え、ねえちょっと読まん?

美青 えー。

美月 いいじゃんたまにはこういうのも。

美青 まあいいけどさ。どの辺?

美月 えー、私的にはお父さんお母さんのところが好きなんだけど。

美青 えー。

美月 はあ!?超感動ポイントだから。

美青 お、おお。

美月 でもあえてここはその前のとこにしよ。

美青 前かい。

美月 そうそう。ここかわいいよね。

美青 確かに。

美月 めっちゃフィクションって感じするけどね。

美青 ね。

美青、あくびをする。

美月 眠たいんでしょ

美青 ううん、

美月 いい加減に寝なさいよ

美青 まだ起きてる

美月 何、意地張ってるの

美青 煙たくなんかない

美月 嘘つけ

美青 あたしが眠ったら終わっちゃうんでしょ

美月 何、言ってんの?

美青 明日が眠ったら終わっちゃうんでしょ

美月 寝ぼけてる、

美青 ………お姉ちゃん、

美月 なに、

美青 あたしのこと嫌いだった?

美月 嫌いだった、時もあった

美青 どうして

美月 だって、うるさいし、とろいし、うっとおしいし、なんかあんた猿みたいだし、

美青 ひどい

美月 初めて聞いたあの日は、どきどきして全然眠れなかった 
弟か妹、妹か弟、あたしはお姉さんになる
弟もいいけどほんとのホントは、妹がいいなって思ってた
一緒に遊んだり、お菓子食べたり、漫画を読んだり、歌、歌ったり
勉強したり、髪を結ったり、しようってずっと思ってた

美青 わー、

美月 妹だってわかったあの日はほんとのホントにうれしくて
落書き帳にクレヨンで、あんたと私の絵を描いた

美青 見たい

美月 でもそれも生まれてくるまで、実際生まれたら最悪、

美青 え、

美月 すぐ泣くし、ギャーギャー騒ぐし、おしっこもらすし、あたしの物取るし、食い意地張ってるし、わがまましか言わないし、お母さん取るし、あたしの後ばっかついてくるし、言うこと全然聞かないし、そのくせ、妙になつっこくて、なんか、甘えてくるし想像したのと違う、全然かわいくない
だから一緒にいるのが恥ずかしくてしょうがなかったの

美青 ……恥ずかしかった?

美月 えー、そうかなあ。わかんない。

美青 そうなの。

美月 だって私妹が生まれてくるときのこと覚えてないもん。だって年近いじゃん。

美青 それはそうだけど。

美月 なんかだから、こう、お姉ちゃんになるぞーって感覚わかんない。だってお姉ちゃんだもん、私。

美青 深そうで浅いこと言ってんね。

美月 でしょ。でもほんとにそうなんだもん。

美青 へえー。

美月 でもあこがれるお姉ちゃん像とかはあったよ。

梢、三咲入ってくる。

美青 そうなの?

美月 うん、サツキちゃんとか。めちゃあこがれたもん。

美青 トトロの?

美月 そうそう、しっかりしたお姉ちゃんってなんかあこがれたんだよね。

美青 へえー。

美月 でもまあ難しいよね現実。

美青 まあフィクションだしね。

美月 そうよね。

美青 姉妹ってどうなんだろね。あんま姉妹感ないよねうち。

美月 たぶんちっちゃいころのほうが姉妹っぽいよね絶対。

美青 わかる。

美月 てかこの部屋寒くない?

美青 いつものことじゃん。

美月 えー、ホットミルク飲まない?

美青 飲むー。

美月 え、どっちやる。

美青 は?言い出したのおねえちゃんじゃん。

美月 でも美青も飲むじゃん。

美青 じゃーんけん

2人 ぽん。

美月 そうだね、なんでも言い出しっぺがね、やらなきゃね。はーい。

美青 はーい。

美月、ホットミルクを作りに行く。

美月 あ、やばーい!

美青 ?

美月 あ、ねえこぼしたんだけどー!

美青 はあー!?

美月 え、やばいめっちゃこぼしたー!

【梢×三咲 #6いもうと】

三咲 私お姉ちゃんのおこぼればっかもらってきたからさ。

梢 おこぼれって。なんもこぼれてないって。

三咲 めちゃめちゃこぼしてるよ。こぼれすぎてビタビタ。

梢 ちょっと汚いものみたいに言うなよ私のおこぼれ。

三咲 私は産道通ってきた時から、お姉ちゃんのおこぼれを頂いているわけですよ。

梢 さかのぼるねえ。

三咲 そういう運命を背負って生きとし生きるすべての妹は生まれてくるわけですよ。

梢 おお…。

三咲 多分いつもの時代もどうせそうでしょ。

梢 そうなんかな。

三咲 そうでしょ。知らんけど。

梢 あー、出た都合のいい言葉知らんけど。

三咲 知らんけど。

梢 うわあー。

三咲 え、ねえさっきからずっと誰と電話してるの?ねえ、ちょっと

梢 (「代わってみる?」スマホを差し出す)

三咲 えっ、え?

三咲、おそるおそる電話に出る。すると梢、いなくなる。

その間、美月と美青、入ってきて椅子に座る。

三咲 …あ、お電話代わりました。…?もしもーし。あれ、え?あ、もしもーし。え、ねえ聞こえないんだけど。聞こえてますか、もしもーし。え、お姉ちゃん、

聞こえないんだけどー!ねーえ!

三咲、去る。

【美月×美青 #7いつかの話】

美青 お姉ちゃんさあ。

美月 ん?

美青 戻ってくんの。

美月 ああ、正月とかお盆とか。

美青 いやそうじゃなくて。

美月 え?

美青 戻ってくるの、岐阜。

美月 …あー。卒業した後ってこと?

美青 そう。

美月 えー、わかんない。だって卒業した後でしょ?

美青 うん。

美月 でもいつかは戻ると思う。

美青 そうなの?

美月 うん、なんか私、岐阜から離れる自分って、想像できなくて。

美青 めっちゃ好きじゃん。

美月 いや好きっていうかなんなんだろうな。え、妹はどうすんの。

美青 私?

美月 一応県外でしょ?

美青 まあそうだけど。

美月 戻ってくるの?

美青 えー、戻らんかも。

三咲、ギターをもって入ってくる。

美月 まじい?

美青 私とにかく出たいんだよね。家からも岐阜からも。

美月 うん。

美青 私特に思いれとかないからさ、お姉ちゃんみたいに。

美月 うん。

三咲、ギターで音楽を弾き始める。

美青 だから、岐阜に戻ってくるかはわかんない。多分戻んないと思う。

美月 えー、お姉ちゃんさみしい。

美青 はいはい。

【梢×三咲 #8姉妹】

梢 あ、わが星のやつじゃん。

三咲 そー。

梢 すごいなほんと、独学でしょ?

三咲 こんなん簡単だし。

梢 いやいや意味わかんない。

三咲 ざこいだけやん。

梢 おーい。

三咲、そのまま弾き続ける。すると、梢、言葉をこぼし始める。

梢 あんたが生まれた日から、私、ひとりじゃなくなったんだけど、ほんとは末っ子、もしくは真ん中、私はなって、みたかった
うらやましいけど それでもやっぱり おねえちゃんでよかったって思ってる
一緒に遊んだり、お菓子食べたり、漫画を読んだり、歌、わないけど
勉強したり、服もらったり、やっぱり姉妹って思うよね
妹ってなんだかいつでも競い合ってる友人みたいで
いつまでたっても勝てないような、クラスのあの子みたい
でもそうかと思えば違う、あんたが友達なのは無理
うるさいし、めっちゃ気まぐれだし、わがまま言えるし、やっぱ気まぐれだし
私より背高いし、丸顔じゃないし 、シュッとしてるし、
私と違って数学出来るし、漢字もいっぱい知ってるし、そのうえ変に大人っぽくて、私のコンプレックス、ずっと刺激してくるじゃん、ほんとそういうとこ好きじゃない 
だからうらやましくてしょうがなかったの
…だから姉妹ぐらいがやっぱちょうどいいって、思うんだよね。私。

三咲 …それは、思う。

梢 ……この家、

三咲 ん?

梢 私らがいなくなったらどうなんのかな。

三咲 え?

梢 や、だってさ、私ら女の子じゃん姉妹じゃん。どちらかというと出ていく側じゃん。

三咲 あー。まあ確かに?

梢 こんなに大きな家、誰も住まなくなることなんて、あるのかな。

三咲 あるでしょそら。いつかは。

梢 そしたら無くなっちゃうのかー。

三咲 って言ってもだいぶ先じゃん?

梢 やだなー。

三咲 でもしょうがないっていつかはなるんだからさ。

梢 あ、わかった。うちに来てくれる人と結婚したらいいんだ。

三咲 絶対言うと思った。

梢 だって何なら私苗字変えたくないもん。最強だもんうちの苗字。

三咲 どうする佐藤さんとか田中さんだったら。

梢 絶対嫌よ変えてもらうわこっちに。

三咲 ますおさんだ。

梢 てか生まれてきてからずっと名乗ってきた苗字変えること自体ナンセンスだよね。

三咲 ナンセンスて。

梢 大学で先輩がめっちゃ多用してた。

三咲 ナンセンスだ。

梢 苗字まで変えたら、もうおそろいのもの無くなるよね。

三咲 そう?

梢 どんどんおそろいがなくなってくね。

三咲 そうね。

梢 出てきたところは一緒だったのに、これから出ていくところは違うんだね。

三咲 …枝毛だ!

梢 いや枝毛と一緒にすんなし。

三咲 ほら見てこれ枝毛。ほらやばくね。

梢 知らんわ。

三咲 私枝毛見つけるのめっちゃ早いの。ほら。

梢 うわほんとだ。

三咲 すごくない?

梢 てか私自分の枝毛見つけられないわ。

三咲 髪痛んでないってことじゃない?

梢 いえーいキューティクル。

三咲 私ばしばしだからな。

梢 ほんとに枝分かれするんだね。初めて見た。

三咲 嫌味すぎる。

梢 丈夫だから私の髪。あ、でも最近めっちゃ抜ける。

三咲 生え代わりの季節ってことじゃない?

梢 えー、そうかなあ。マジでめっちゃ抜けちゃうし抜いちゃう。

三咲 やめなあ?

梢 いやあのこう、ぷっつん抜くんじゃなくてさ。こう…自然に抜けちゃうやつ量産しちゃう。

三咲 やめなあ?

梢 こんだけ抜けるのマジでやばいと思うんだけど、え?ほんとに大丈夫?

三咲 私もそういう時あったけど大丈夫って言われたし。

梢 先輩…!

三咲 まあ故意に抜くのはやめといたほうがいいって。

梢 ねー。でもなんか最近癖になってきちゃった。

三咲 もうハゲ決定だ。

梢 やめて?

三咲 ハゲになったら、もうなにしてもおそろい感はなくなるよ?

梢 そうかもしれんけどやめて?

三咲 でも氏(うじ)さ、確か昔はおそろいっていやじゃなかった?

梢 あー…、うん、めっちゃ嫌だった。服とかほんとに嫌だったわ。

三咲 ほんと嫌そうだったもん。

梢 なんでだろうね、今も若干いやなんだけど。”おそろい”ってほんとに好きじゃなくて、なんで真似すんのってずっと思ってた。まああんたに限らず、まねされるの好きじゃないしあとばっかついてこられるの好きじゃない。

三咲 いるよねそういう人。人の後ばっかついていく人。

梢 そう。せっかく私が苦労して開拓したのに、なんで楽してんのよってなる。

三咲 そういうとこ卑屈だよね。

梢 わかるー。

三咲 でも私も誰かとおそろいなの死ぬほどいや。

梢 おそろいディズニーとか無理でしょ。

三咲 絶対いや。見てるだけで反吐が出る。

梢 めっちゃ言う。

三咲 なにがそんないいのお揃いでいくって。アイデンティティどうしたのよじゃない?なに、思春期来てないの?自我芽生えてないの?

梢 多分土の中。

三咲 もう一生出てくんな。

梢 過激すぎやん。でもまあ服の系統全然違うもんな。

三咲 ね。

梢 よく漫画とかで見る、「お姉ちゃん服貸して」もないし。

三咲 いいよ着ても。

梢 いやあんたの服は着れないわ。

三咲 イケイケでしょ。

梢 まじばちばち。三咲さんにしか着れないもん。

三咲 いえーい。

梢 え、あんさ、私だいぶ服かわいくなったよね?え、かわいくなったよね?

三咲 じゃなーい?

梢 ねええ。

三咲 でも確かに服への芽生えは遅かったよね。

梢 でしょ?だいぶかわいくなったよね?

三咲 何回言うの。

梢 え?かわいい?

三咲 じゃなーい?

梢 適当。

三咲 いやその適当は、適切っていう適当だから。

梢 テキトーすぎる。

三咲 あー、明日何着てこーかな。

梢 え、どっか行くの?

三咲 名古屋。

梢 へー、え、朝何時?

三咲 多分11時?服決まらんかったら行かへんから。

梢 やっべえ。

三咲 もうめんどくさいわ。断ろっかな。

梢 服決めて寝なよ。

三咲 私の夜は、これからだから。

梢 あほやん。

三咲 ほら、氏の夜もこれからでしょ。

梢 …ええ。

三咲 え、何か見よ。

梢 完全にそれオールして爆睡するやつやん。

三咲 大丈夫大丈夫。朝なんか来ないから。

梢 いや朝はくるって。

三咲 私に朝が来るかはわたし次第。

梢 とりあえず明日は朝来たほうがいいでしょ。友達と?

三咲 ううん、一人。

梢 ならいっか。

三咲 せやろ。ほら。

梢 え、ちょ待って、トイレ行ってくるわ。

三咲 つけとくね。

梢 はーい。

梢、退出。舞台には三咲だけ。梢のスマホから電話の音が鳴る。出る。

三咲 …もしもーし。

応答はない。

三咲 もしもーし。聞こえてますかー!もしもーし!

【春野 #9もしもし】

春野、電話をしている。

春野 もし、私が岐阜帰らなかったらどうする?ほら、いつだったかしゃべったじゃん。

それでさ、あの東京行く前にさ、しゃべったじゃん。

【美月×美青 #10おしまい】

美青 明日朝何時。

美月 7時。

美青 そっか。とうとう来たね。

美月 ほんと、もう寝んとやばい。

美青 眠ったら終わりだね。

美月 何言ってんの。

美青 もーいくつねーるーとー、はいっ

美月 ひとーりーぐーらーしー・・・?

三咲の弾くギターの音が聞こえてくる。

美月 え、LINEしてね。

美青 する。

美月 彼氏となんかあったら言ってね。

美青 お姉ちゃんはできたらね。

美月 たまには遊びに来て。

美青 多分。

美月 お酒も飲めるようになったら一緒に飲もうね。

美青 だいぶ先じゃん。

美月 夜電話したくなったら掛けるから。

美青 私も。

美月 またどっか2人で行こうね。

美青 いつかね。

美月 バイト先食べに来てよ。

美青 やだわ。

美月 じゃあ行くね。

美青 それもやだわ。

美月 そろそろ寝てくるね。

美青 うん。

美月 じゃ、行ってきます。

美青 行ってらっしゃい。

美月、キャリーケースを引き、退出。

美青は電話をかけようとする。電話の音はずっと鳴り、リズムになる。

美青 もしもーし、聞こえてますか。聞こえてるよー。…あのね、お姉ちゃんに言いたいのに、言えなかったことがあるの、ずっと言わなきゃって思ってるのに言えなかった、なんか、恥ずかしくて、勇気が、でなくて、明日はちゃんと言えるかな、明日はちゃんと言えたらいいな、でももしかしたら言えないかもやっぱ。
うん、だから入れといたの。キャリーケースに。おそろいってことで。
ね。だから苗字変えてもいいんだよ!てか、早く彼氏作りなよ!

美青、退出。

美月、戻ってくる。

美月 うっせ!

<終>


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