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【文活6月号ライナーノーツ】夕空しづく「神様の質問箱」

この記事は、文活マガジンをご購読している方への特典としてご用意したライナーノーツ(作品解説)です。ご購読されていない方にも一部公開しています。ぜひ作品をお読みになってから、当記事をおたのしみくださいませ。

『あなたは概念みたいだ』

時折、そう言われることがあります。

それは私が、ネットで文章を書いている人間だからかもしれません。

ネットに綴られる文章には、実体が伴いません。
その人の一側面、思考の断片が、文章というかたちで表れているに過ぎません。
それは血を吐くような思いで紡ぎ出したものかもしれないし、息を吐くように呟いたものかもしれない。それでも、その人がその人として生み出したものに相違ありません。

けれど本当は、私にもあなたにもあの人にも「実体」があります。
各々の生活があり、過去があり、傷があります。それを隠しながら、時々泣きながら、私たちは日々を営んでいます。

今回寄稿させていただいた『神様の相談箱』は、SNS上の「概念」に成り果てようとしている、失恋後の女性が主人公です。

*

物語は、受け取り手によって色合いが変わるものであっていいと思うので、受け取り方は、読んでくださったあなたにお任せします。

しかしあえて私が、この物語に込めた思いをひとつ挙げさせてもらうなら、それは

あなたは安心して傷ついていい

ということです。

「失う」ことは、とてもこわいことです。今回描いたのは「恋」ですが、それに限らず。人を失うのも、物を失うのも、思い出を失うのも、全部。

しかし生きるということは、失い続けることです。何かを得ると同時に、私たちは何かを失っていく。その度深く傷つき、絶望し、時にすべて終わらせてしまいたくなります。

これを書き上げる過程で、私は職を失いました。幾分かの健康を失い、自信を失い、お金と心の余裕を失いました。

そのたびに「乗り越えよう」と歯を食いしばってきましたが、そのひとつひとつは深い「傷」でした。

傷は、「乗り越える」ものではないのかもしれません。葛藤の最中、そう思い至りました。

起きてしまった出来事は、なかったことにはできません。出会った人とも、出会う前には戻れません。かなしい時はどうしたってかなしい。苦しい時は何をしても苦しい。

その傷は、今あなたを苦しめているかもしれない。それゆえ憎みたくなるかもしれない。止まない雨はないと言っても、一番くるしいのは雨に降られている時だし、明けない夜はないと言っても、真っ暗な夜は耐え難い。

でも、その傷がいつか、あなたを生かすものになるかもしれない。だから、傷つくことを恐れないでほしい。傷ついてしまった時は、傷つき尽くしていい。

あなたは、安心して傷ついていていい。

そう伝えたかった。

今泣いている誰かに。かつて泣いていた誰かに。いつか泣いてしまうかもしれない誰かに。あるいは、私自身に。

*

小説を書くことは、孤独な神様に成り果てることなのかもしれない、と思うことがあります。

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