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この作品は文芸誌・文活のリレー小説シリーズ『シェアハウス・comma』の第5話です。シリーズを通して読みたい方はこちらのマガジンをご覧ください。 ひたすらプログラミングをしていると、きっと音楽を奏でるひともこんな気分なんだろうなと感じる。キーボードにばらばらに並んでいる、"W"だとか"H"だとか"control"だとかの記号を、コードのバランスをくずさないように、ていねいに打ち込んでいく。考えるでもなく、考えないでもなく、何百回もつくってきた朝食をまた今朝もつくるかのように
(あれ、ぼくはどうしていたっけ) 気づくと少年は、また水面にぷかぷかと、立ち泳ぎをしながら浮かんでいました。頭がぼんやりしています。湖面のしたに沈んだはずなのに、なぜか髪の毛もぬれていませんでした。 はっきりと少年は、湖面のしたの、いつもとは別の世界に迷い込んでしまったことを感じました。その世界は、どこかみずうみのためだけにあつらえられたようでした。ふつうは空があり、雨があり、木々があり、土があり、それらをつたってみずが溜まっていく、それがみずうみのはずなのに、その世界に
あるみずうみの畔に、少年がひとりで住む小さな小屋がありました。その近くには、ひとが住む建物はまったくありませんでしたから、少年は「ぼくがこのみずうみに沈んで消えてしまったら、だれが気づいてくれるだろう?」などと、ある晩に想像したりもするのでした。 一昨年に育ての母親がゆくえをくらませてから、少年はムラを追われて身寄りはなく、毎日連絡をとるような相手もいませんでした。ただ少年は週にいちどほど、林を越えた先にあるムラの商店に、卵や干し肉やコーヒー豆を買いに出ていますから、買い出
1.ある遠い国で 外から聞こえてくる、おとなたちのうめき声にも似たざわめきで、アイラは目を覚ましました。 石づくりの質素な小屋。木の板でつくられた土間。ひとつのベッドで一緒に寝ている3歳の妹・シーラは、まだ隣で寝息を立てています。まだ朝は来ていないようです。部屋の中央に吊るされた裸電球だけがただ、ぼんやりと点いていました。 「おかあさん……?」 見当たらない家族を呼びながら、アイラはベッドから降りて、外のざわめきを確かめに、トタンの戸をぎぃと開けます。 ――まぶしい