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健康の拠点はお寺 まちの保健室×介護者カフェ

※文化時報2021年5月24日号の掲載記事です。

 お寺を地域住民のよりどころにする。その実現に向けて、大阪市住吉区の浄土宗願生寺(大河内大博住職)が10日、第一歩となるイベントを行った。まちの保健室=用語解説=介護者カフェ=用語解説=の同時開催だ。地域の医療・福祉関係者を巻き込み、檀信徒だけでなく多彩な人々が出入りするよう仕掛けていく。意欲的な取り組みが、静かに始まった。(主筆 小野木康雄)

看仏連携の可能性

 「体操とか、してはる?」。高齢女性の血圧と体脂肪率、握力を測定する合間、看護師が何げなく尋ねた。していないと聞くと「散歩するとか1階分だけ階段使うとか、小さい運動でも筋力は付きますよ」と助言した。

 願生寺客殿で行われた、まちの保健室。傍らには、乳幼児の身長計と体重計もあった。出産や育児の悩みから生活習慣病・介護予防まで、老若男女を問わず相談に応じる体制を整えている。

 この日は大阪府看護協会の看護師と保健師ら4人が対応。辻道代さんは「地域に密着しているお寺が、在宅医療や看取りに関わるきっかけになるのではないか」と、〝看仏連携〟の可能性を口にした。

高齢者の心を守る

 まちの保健室を訪れた6人は、いずれも近くに住む高齢者だった。

 山本裕子さん(79)は、願生寺の檀家。運動不足解消のためスクワットを日課にするなど、体には気を遣っているが、来たのには別の理由があった。

 「新型コロナで長らくお友達と会えていなかったので、『一緒に行こう』と声を掛けたんです。今は喫茶店で、とは誘いにくいし、お寺だと集まりやすいから」

 コロナ禍は、心の健康にも影を落とす。高齢者はただでさえ孤立しがちな上に、マスク越しの会話は聞こえにくいという難点もある。他のまちの保健室でも、少し話すだけで安心して帰る高齢者は多いという。

 一方、本堂で行われた介護者カフェにはこの日、相談での来場者はいなかった。

 ただ、地元の住吉区西地域包括支援センターの職員がスタンバイ。職員の山下郁美さんは「介護保険を必要とされる方々を見つけることも、私たちの大事な役割」と話した。

まちの保健室外観

門前にまちの保健室と介護者カフェの両方ののぼりが立てられた

地域共生社会の縮図

 願生寺の介護者カフェに携わっているのが、スピリチュアルケア師=用語解説=だ。高野山大学や上智大学グリーフケア研究所などで非常勤講師を務めてきた大河内住職の教え子らが、悩みを抱える介護者らに寄り添う。

 大河内住職は昨年4月、一般社団法人スピリチュアルケア在宅臨床センターを設立。訪問看護ステーションや在宅診療所と連携し、スピリチュアルケアの提供を構想している。感染拡大で活動が滞る中、介護者カフェはケアの専門職にとって数少ない実践の場にもなる。

 まちの保健室と介護者カフェの同時開催は、来月以降も8月を除く毎月第2月曜に開く予定だ。

 大河内住職は「お寺に来てもらうためには、コロナ禍でも十分な感染症対策を取ってコンテンツをそろえることが大切。地域共生社会=用語解説=の縮図を、お寺につくりたい」と話している。
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【用語解説】まちの保健室
 学校の保健室のように、地域住民が健康などさまざまな問題を気軽に相談できる場所。図書館や公民館、ショッピングモールなどに定期的に設けられ、看護師らによる健康チェックや情報提供が行われる。病気の予防や健康の増進を目的に、日本看護協会が2001年(平成13)度から展開している。

【用語解説】介護者カフェ
 在宅介護の介護者(ケアラー)らが集まり、悩みや疑問を自由に語り合うことで、分かち合いや情報交換をする場。「ケアラーズカフェ」とも呼ばれる。主にNPO法人や自治体などが行い、孤立を防ぐ活動として注目される。

【用語解説】スピリチュアルケア師
 日本スピリチュアルケア学会が認定する心のケアに関する資格。社会のあらゆる場面でケアを実践できるよう、医療、福祉、教育などの分野で活動する。2012年に制度が設けられ、上智大学や高野山大学など8団体で認定教育プログラムが行われている。

【用語解説】地域共生社会
 厚生労働省が掲げるビジョン。地域住民らが世代や分野を超えてつながり、一人一人の暮らしと生きがいを共につくる社会を目指す。公的支援の「縦割り」から「丸ごと」への転換なども図る。2016(平成28)年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」 に盛り込まれた。

まちの保健室01

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