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「ほてい市」コロナ禍にこそ寺開く

※文化時報2021年6月3日号の掲載記事を再構成しました。

 真言三宝宗の古刹、勝龍寺(國定道晃住職、京都府長岡京市)は今年度から、境内や堂宇を使った「ほてい市」を行っている。新型コロナウイルス感染拡大で開催はままならないが、毎月第1日曜に実施を予定。コロナ禍で人同士の距離が離れ、孤独を抱える人が少なくない今だからこそ、お寺の広い空間が、触れ合いと癒やしの場になれば―との願いが込められている。(春尾悦子)

 4月4日の第1回はあいにくの雨天だったが、無添加食品や天然素材の手作り服など、環境や体にやさしい商品を扱う11店が軒を連ねた。京都のこうじを使った「ほてい尊クッキー」や野菜の粉を入れてすいた越前和紙など、珍しいものも販売されていた。

 主催はグループ「neoseed(ネオシード)」。持続可能な社会を目指して新しい種をまこうと願った有志らで結成した。アートや引きこもり支援などに携わるさまざまな人が集まり、オンラインを含む会合を重ねて、「おいしいもの」と「かわいいもの」をキーワードに企画したという。

勝龍寺 ほてい市 (7)

「おいしいもの」が並んだほてい市

 本堂では布袋尊法要が営まれたほか、ミニライブやヨガ、副住職夫妻のトークショーも開かれるなど、イベントも盛りだくさん。國定晃淳副住職は「自治会などの協力も得て、地域おこしの一端を担うことができれば」と話した。

ガラシャ夫妻にもゆかり

 勝龍寺は806(大同元)年に弘法大師空海が開基した。寺伝によると、かつては恵解山青龍寺と呼ばれたが、平安中期に大旱魃(かんばつ)に見舞われた際、時の千観住職の祈禱(きとう)で雨が降り、龍神に勝ったという意味から「勝龍寺」に改名されたという。

 付近には、京都府で3番目の規模を誇る前方後円墳、恵解山(いげのやま)古墳(史跡)もある。JR長岡京駅から寺まで徒歩約10分の道のりには、勝龍寺町という地名があり、往時の威容を推察できる。

 豊臣秀吉に敗れた明智光秀が最期の夜を過ごしたとされる勝龍寺城は、寺の名に由来し、現在の神足神社付近まで及ぶ広大な城域をもっていたという。足利尊氏が築き、織田信長の命を受けた細川藤孝が1571(元亀2)年に改修した。今年築城450年を迎え、記念展などのイベントが行われている。現在は公園として整備されている。

 光秀の娘、玉(細川ガラシャ)が、藤孝の息子細川忠興と幸せな新婚生活を送った城としても知られる。1992(平成4)年に始まった11月第2日曜の「長岡京ガラシャ祭」は、輿入れの様子を再現したもので、特に主役のガラシャ夫妻役は人気が高い。

副住職夫人は切り絵作家

 晃淳副住職と真希夫人は結婚直後の2017年、応募者60人の抽選を突破し、主役の座を射止めたという。

勝竜寺 ほてい市 トークショー (2)

本堂で行われた晃淳副住職と真希夫人のトークショー

 真希夫人は切り絵作家の「KAMIKO」としても活動する。結婚前は大本山清荒神清澄寺(兵庫県宝塚市)の参道で、アトリエ兼ショップを開いていた。展覧会で晃淳副住職と出会ったという。

 今では、勝龍寺の御朱印や参拝授与品も真希夫人が制作。「マインドフルネス切り絵」と呼ぶ切り絵教室も開いている。

 同じく清澄寺参道で長年商いをしていた佃つくだ煮店が、3年ほど前に閉店。先代からの縁で、店にまつられていた布袋尊7体が勝龍寺に来た。「ほてい市」は、この布袋尊にちなんでいる。

 真希夫人は「布袋さんがやってきたタイミングで、私にも、主人の妹にも子宝が授かり、改めて御利益に感謝している。衣食住を中心に、小さいけれど心に残る出会いの場を積み重ね、未来へつなげる種をまきたい」と話した。

親子連れに親しまれて

 晃淳副住職によれば、勝龍寺は秘仏・十一面観世音菩薩像(重要文化財)を開帳する8月18日の観音大祭と、長岡京ガラシャ祭以外は、ほとんど閉じられていた。寺の行事に来るのは檀家だけで、一般には近寄り難いという印象があったという。

 晃淳副住職は「ほてい市をきっかけに、いろいろな方に親しまれるお寺にしたい。できれば親子連れで来てもらって、その子どもが将来また子どもを連れて来てもらえるようになればうれしい」と、夢を語った。

 御朱印の授与所では、清荒神の宗務長を務める道晃住職と、裁縫が得意な昭江夫人がにこやかに迎えてくれる。着物をリメイクした「御守付ききんちゃく袋」や「御朱印帳入れ」などが並び、なかなかの人気だった。

 真希夫人から「お義母さん、いい腕持ってはりますね! 何か作ってください」と言われて昭江夫人が作り始めたという。昭江夫人は「つい、その気になって頑張っています」と、道晃住職と顔を見合わせてはにかんだ。

 副住職夫妻のお手本は、「人の縁」を大切にする住職夫妻のようだ。

勝龍寺 ほてい市 (3)

ほてい市の由来となった布袋尊の一つ
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