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コロナを越えて⑥電力会社は仏教が柱

浄土真宗本願寺派西照寺住職・TERA Energy代表取締役 竹本了悟氏

※文化時報2020年8月29日号の掲載記事を再構成しました。

 「僧侶として、仏教を柱に環境問題など、ローカルな活動へ資本が循環する仕組みを作りたかった」。浄土真宗本願寺派西照寺(奈良県葛城市)住職で、寄付付きの電気を販売する新電力会社「TERA Energy株式会社」(京都市右京区)を2018年6月に立ち上げた竹本了悟代表取締役は、起業した目的をそう語る。企業理念は「温かなつながりをつむぐ」。安価で安心な「テラエナジーでんき」を使うと、地域に貢献するNPOや寺院に寄付できる仕組みで、契約者数は約600件になった。出資や業務も僧侶らが手掛け、7月に2千万円を増資。黒字化の目安となる契約者数2千件に向け邁進する。(編集委員 泉英明)

 竹本了悟(たけもと・りょうご) 1977年12月、広島県江田島市生まれ。浄土真宗本願寺派西照寺住職。防衛大学校から自衛隊に入隊。除隊後に龍谷大学大学院博士後期課程を終えて本願寺派総合研究所入所。2010年にNPO法人「京都自死・自殺相談センターSotto」を立ち上げ、2018年6月にTERA Energy創業。翌年6月に中国地方で電力供給を開始し、関西、九州、関東、四国、東北でサービスを提供。趣味は近所の温泉施設のサウナ。

市民団体が注目の新電力

 《事業の中核となる寄付付きの「テラエナジーでんき」は、当初の寺院向けを継続しながら、NPO法人をはじめ、地域でソーシャルビジネスを手掛ける人たちから注目されつつある》

──徳島県の市民団体「あわエナジー」を窓口に、7月から四国地方に進出しました。

 「電力供給を19年6月に中国地方で始め、関西、九州、関東に広げた。あわエナジーに次いで10月に供給を開始する東北地方は、曹洞宗の僧侶らが被災地で地蔵を設置するNPO法人「被災地に届けたい『お地蔵さん』プロジェクト」と協力する。いずれも売り上げの2.5%を団体に寄付する『テラエナジーでんき』の枠組みを活用した」

 「開始当初は寺院に足場を置いていたが、NPOをはじめ、ソーシャルビジネスを手掛ける人たちの寄付付き電気への関心が高まっている。どちらかと言えば、安価で安心な電気を使ってもらうことに比重を置くようになった。この場合、加入者は、こちらが選定した団体の中から、自身が支援したい団体や寺院を選択できる」

 《竹本社長は、新型コロナウイルスに伴う景気低迷でも手数料を下げ、大手電力会社比で70~16 %の電気料金値下げを9月30日の検針日まで行う「困ったときはお互いさまキャンペーン」を提案。契約者数は増加を続けている》

──契約者数が約600件になったと聞きました。

 「契約者の多くは口コミが中心。このコロナ禍でオンラインを用いながら営業を進めている。一般家庭だと4割ほど電気代が安くなることもあり、数カ月で100件ずつ増えた。しかも扱う電気は、再生可能エネルギーの比率が高い。変えない理由がない」

 「日本は変わる必要がある。コロナ禍で象徴的なのが、欧州などで言われる『グリーンリカバリー』。コロナ禍で失った部分を元に戻すだけだと温室効果ガスを排出し、人類に未来がないという考え方だが、日本では全く言われていない。持続可能な開発目標(SDGs)などの火が消えかかっているほどだ。コロナ禍は新たなルールの変更時期だ。お寺や教団も危機感を持ってチャレンジしなければならない」

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企業理念に「温かなつながり」

 《テラエナジーには僧侶や篤信の門徒・檀信徒らのみが出資し、竹本社長のほかにも僧侶が従業員として勤務する。事業の柱はあくまで仏教。企業理念の『温かなつながりをつむぐ』は、仏教の慈悲と縁起をベースに置いていることを表現した》

──企業理念は仏教を基にしていますね。

 「経営判断の基準を仏教の信仰に置くことにこだわっている。仏法に救われて、僧侶として生きる道を選んだので、僧侶として取り組みたいという思いが強くある。企業理念には、つながりという『縁起』の質を『慈悲』の心が支えるという意味がある。仏法に生きる僧侶は、誰しも協力者として違和感なく合流していただけるのではないか。先月には2千万円増資し、資本金が3642万円になった」

 「環境問題もビジネスも、仏教の考え方で取り組む方がうまくいくと実感している。仏教の幸せの形の一つは喜捨。寄付付き電気は無理をしない喜捨で、電気を切り替えただけで自分が応援したい活動に寄付できる。活動に参加できる喜びの広がりを感じている」

挑戦しないことが最大の失敗

 《竹本社長は本願寺派関連のNPO法人「京都自死・自殺相談センターSotto」の代表も務めている。起業の目的は活動資金の捻出だった》

──事業の背景には自死へ寄り添う活動があります。

 「『テラエナジーでんき』には、各団体や寺院向けに寄付する2.5%に加え、Sottoと市民団体『気候ネットワーク』に1%を寄付する枠組みがある。テラエナジーが大きくなれば1%が大きな資金になる。黒字化する2千件で約4億円の売り上げになる。そうなれば1%で400万円だ」

 「京都の自死者は年間200人強。その約10~20倍の希死念慮者(自殺までは考えないが、死を願う気持ちを抱える人)がいると言われている。Sottoに常勤の相談員を雇い、カウンセラーにとって憧れのポジションにすることが理想。その人たちがボランティアのレクチャーや資金集めなどもしながら進める。そこまでやれば、死にたい気持ちを抱える人たちの心の居場所を安定して作れる」

──今後の見通しは。

 「電力の供給を始めて1年になる。12月に1回目の寄付を行う予定だ。事業計画では年末までに900件と契約し、来年中の黒字化を目指している。契約が千件を超えれば、目標の半数に達するので銀行などにも働き掛けやすくなる」

 「3年以内にテラエナジーを軌道に乗せたい。事業拡大は不可能ではない。チャレンジしないことが一番の失敗だ」

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