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コロナを越えて⑧オンライン時代に「発心」

天台宗普賢寺住職・株式会社結縁企画代表取締役 小野常寛氏

※文化時報2020年10月10日号の記事を再構成しました。

 天台宗普賢寺(東京都府中市)の小野常寛住職(33)は、仏教との架け橋になるビジネスを手掛ける株式会社結縁(けちえん)企画の代表取締役を務める。早稲田大学卒業後、ベンチャー企業の世界に飛び込み、経験を積みながら起業。現在は千葉県市川市の寺院でカフェを運営する一方、スマートフォンのアプリケーションを開発する。2020年4月には自坊の住職に就任。「苦しむ人たちのために仏教がある」と、新型コロナウイルスの感染拡大で揺れる世の中のために、ビジネスを方便として何ができるのかを問い続ける。(編集委員 泉英明)

 小野常寛(おの・じょうかん)1986年12月、東京都府中市生まれ。早稲田大学第二文学部卒。ベンチャー企業・リンクアンドモチベーショングループでの勤務などを経て、2014年に結縁企画を創業。17年には比叡山で百日回峰行を満行し、20年4月に普賢寺住職に就任した。

寺カフェを日本中に

 《結縁企画は、地域や社会に開かれた寺院づくりの支援を掲げる。市川市で2014年から運営する「カフェテラス回向院」は、寺院のハードルを下げる取り組みで、ノウハウの蓄積と他寺院への普及を目指す》

――寺院でカフェを開くことの意味とは何でしょう。

 「寺院のカフェといえば、浄土真宗本願寺派光明寺(東京都港区)の『お寺カフェ』などの先行事例がある。特に檀家寺は、檀家のための寺院というイメージが強くハードルが高い。カフェは気軽に足を運んでもらうきっかけになる。特に寺院は飲食の機能が備わった建物である場合が多く、これが日本中に増えれば、お寺に行きやすくなるのではないか」

 「日本では、仏教に対して安心と信頼がある。カフェテラス回向院では、お客さんが『勤行のお念仏を聞くたびに癒やされる』と話す。リピーターも多く、そこからコミュニティーが生まれることを実感している。スターバックスコーヒーが、自宅でも職場・学校でもないサードプレイス(第三の場所)を提供するように、日本のお寺がサードプレイスになれないだろうか」

 《カフェテラス回向院は、浄土宗回向院(東京都墨田区)の市川別院の客間を利用している。開店のきっかけは、3カ月で退社したベンチャー企業の顧客だったコーヒー販売会社との出会いだった》

――社会人経験を経てカフェを開いていますが。

 「通商産業省(現経済産業省)の官僚から入寺した祖父は、社会とのつながりを持ち続けていた。その姿に影響を受け、寺に生まれたからそのまま僧侶になるのではなく、社会的な経験を積んでから僧侶になりたいと考えた。師僧には『30歳で寺へ戻る』と約束し、なるべく厳しい環境に身を置こうと、新卒でベンチャー企業に入社。IR情報のコンサルティング業務を手掛けた」

 「その後、グローバルな視点を求めて転職したが、期待に応えられず3カ月で解雇となった。その時の顧客だったコーヒー販売会社が、僧侶だった自分に興味を持ち、そこから今のカフェの企画が立ち上がった。結縁企画の起業と並行して始まった形だ。ただ、現在は新型コロナウイルスの影響で休業せざるを得ない状況が続いている」

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「カフェテラス回向院」には、多くの人が足を運ぶ

声明のアプリ開発

《結縁企画は、ほかにもスマートフォン用アプリの開発などを行っており、現在は声明の〝チューニング〟に用いるアプリ販売が事業の中心となっている》

――アプリ販売も手掛けています。

 「法要の際に声明の十二律のチューニングができる携帯アプリ『調(ちょう)』を開発し、2016年から販売している。これまでは機械で音を合わせていたが、高価で持ち運びも不便だった。調子笛だと音を調べるまでに手間がかかる。比叡山延暦寺の小鴨覚俊副執行にも監修していただいた」

 「今年7月には改良版の『調ライト』を発売した。インターフェースを変更し、機能を絞って使いやすさを強化した。天台宗だけでなく、他宗派の僧侶にも分かりやすい形を目指している」

 「僧侶向けアプリなので販売数は限られるが、安定して売れるのでありがたい。今は60代や70代でもスマートフォンが当たり前の時代になりつつある。今後も有用なアプリがあれば開発していきたい」

国際的な僧侶目指す

《カフェの運営が休止状態にある中、夢である「国際的な僧侶」を目指し、世界に向けてオンラインの座禅会を開くなど自坊の運営に力を入れる》

――世界を常に意識されていますね。

 「大学3年の時に休学し、比叡山で加行を終えてからアメリカで1年間宗教学を学んだ。キリスト教やイスラム教の人たちと話して宗教観が広がり、日本の宗教観の特殊さも実感した。神道と仏教が中心にあって、無宗教を語る人が多いが、心の底には宗教心が根付いている。一神教とも大きく違う。視野が広がるきっかけになった」

 「夢は国際的な僧侶になること。他者を認め一人一人が胸を張って一隅を照らすような世の中を実現したい。日本の和の精神を誇りとして抱きながら、地球の視点を持って国際的に発信し、地域にも愛されるような『グローカル』な僧侶を目指したい」

 「オンライン座禅会は毎週行うことで少しずつ参加者が増えており、広がりを感じる。有事や平時にかかわらず、生きづらさを感じる人たちのために仏教があると考えると、やりようによってはいくらでも可能性がある。僧侶は仏と衆生の媒介者。技術の進歩でつなぎ方も変化している。オンラインの時代に、画面上でいかに発心や信心を喚起できるかが僧侶に問われているのかもしれない。そのお手伝いを、結縁企画で手掛けられたら幸甚だ」

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