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コロナを越えて⑪僧侶傾聴アプリをビジネスに
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コロナを越えて⑪僧侶傾聴アプリをビジネスに

文化時報社

株式会社くうる代表取締役 武智勝哉氏

※文化時報2021年2月1日号の記事を再構成しました。

 「僧侶は生死のストレスを扱える日本唯一のプロフェッショナル」。株式会社くうる(東京都港区)の代表取締役、武智勝哉氏(32)はそう語る。つらく苦しい気持ちを僧侶が傾聴するスマートフォンアプリ「Sion(しおん)」を昨年末に開発。非営利団体が扱いそうな事業に取り組む。「寄付で成り立つ事業は悪だと思う。生存のために努力し、利益を上げながら社会貢献することが大切」と話す。(大橋学修)

 武智勝哉(たけち・かつや) 1988年5月生まれ。松山市出身。愛媛大学卒業後、コンピューターシステム株式会社(松山市)に入社。公共機関向けシステムの開発と運用・保守などに携わった。2015年に事業の立ち上げ支援を手掛ける会社に転職。翌16年に独立し、19年2月に株式会社くうるを創業した。

苦しみのデータベース作る

《「Sion」では、投稿者が書き込んだ悩みや質問に僧侶がコメントを返し、利用者全員が閲覧できる。投稿は無料。1日あたり100件程度の書き込みがあり、12人の僧侶が対応している》

――なぜこうしたアプリを作ろうと思ったのですか。

 「お寺にどうあってほしいかを、形にした。今は新型コロナウイルス感染拡大で、仲間と雑談する機会すら持てない状況。悩みや不安を吐き出せる場を作ることにした」
 
 「投稿された悩みに対し、僧侶も共に悩んでコメントを返すことで、安心できる場を作ろうとしている。コメントできるのは僧侶だけとしているので、攻撃や炎上の心配はない。苦しみや悲しみに寄り添う道を選んだ僧侶だからこそ、投稿者の声に耳を傾けられると思う」

――収益が出ない事業のように感じるのですが、企業として成り立つのですか。

 「苦しみのデータベースを作り、商材とすることを考えている。どのような人が、何に苦しんでいるのかを示すことで、良いサービスが必要な人に届くようにしたいと思っている」

 「社会貢献活動や持続可能な開発目標(SDGs)=用語解説=に取り組む企業があるが、人に寄り添っていないと感じる。利益を積み上げて、そうした活動を支援する基金ができればと考えている。いわばネット社会の製薬会社が目指すところになる」

クールに「空」を売る

《社名は、仏教思想の空(くう)=用語解説=から着想を得た。絶対的な価値を持つものはなく、相対的に無価値なものもない。そうした価値観を「売る」のだという。「クールに空を売る」という意味も込めている》

――仏教との出会いをお聞かせください。

 「20歳の時、両親が離婚した。それから10年たって、父がステージ4のがんを患った。病院を訪れると、驚いたことに母が看病していた。そして、二人は再婚した」

 「ただ、それから1カ月後に父は亡くなった。憔悴し切った母に、掛ける言葉も見つからなかった。父の後を追うのではないか、母は苦しみ続けるのではないか、と心配した。そんな母を救ったのが、葬儀でお世話になった僧侶の説法や言葉だった。それが、私を仏教に目を向けさせるきっかけとなった」

2021-02-01 経済面・武智氏02

リモート会議で「Sion」について話し合う武智氏ら

――大変なご経験をされたのですね。

 「僧侶は『浄土に往くことで楽になる』『悲しいけれども、明日を生きていかなきゃいけないよ』などと声を掛けておられた。私が同じ言葉を口にしても、きっと効果はなかったと思う」

 「駆け込み寺という言葉があるように、昔から寺院は相談所でもあった。悩みを抱えている人を助けることができるのは、仏教や僧侶しかないと思う」

仏教は苦の取扱説明書

《くうるでは「Sion」のほか、地域課題の解決を支援するプロジェクト「THIN.RUN(しんらん)」や、寺院を共有オフィスとして提供するプロジェクトにも取り組む》

――仏教に関係した事業を始めたきっかけは何だったのですか。

 「独立して事業を始める際に友人と話し合っていた時、『衝撃を受けたことがある』と、ある体験談を聞かされたことだった。お寺の喫煙所でたばこを吸っていると、先に吸い終えた若者がわざわざ本堂の前まで行き、拝んでから帰って行った。さも当然であるかのようにそうしたという。コンビニエンスストアのレジで『ありがとう』と言える感覚が失われつつある現代だからこそ、仏教と連携する価値があると思う」

――神仏への畏敬の念が現代に必要ということですか。

 「インターネットの普及が、信仰心を失わせていると感じている。現代人は多くの情報に触れられるようになり、神仏への恐れがなくなった。一方で何を信じていいのか分からなくなり、生きづらさを生み出していると言える。どうしたら恐れを取り戻せるのか、思案している」

――武智さん自身は、仏教にどのような期待感がありますか。

 「仏教には、苦しみをどのようにケアするのかという思考術があると思う。あらゆる苦の取扱説明書や教科書がある、とでも言える」

 「昔も今も苦しみの本質は変わらないけれども、一方で昔と今では苦しみの形が違うように思う。ところが、長い歴史の中で引き継がれてきた説法などのスタイルは、変わっていない。現代の苦に対し、昔の教科書で話をされても、『それじゃない』と感じてしまう。現代に沿った形に、教科書をアップデートしてほしいという思いもある」
      ◇
【用語解説】持続可能な開発目標(SDGs)
 2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。15年に国連本部で開かれた「国連持続可能な開発サミット」で採択された。17の目標と169の達成基準からなり、誰一人取り残さないことを誓っている。

【用語解説】空(くう=仏教全般)
 全ての存在には実体(自性)がないという仏教理念の一つ。「無我」と同義。仏教では、全ての事物は因縁によって生起している(縁起)と説き、他によって存在するため永遠不変の固定された実体がないと考える。

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