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答えはない。見つからない。それでも話を聴く。

日蓮宗僧侶・臨床仏教師 星 光照さん

※文化時報2021年6月7日号の掲載記事です。写真は本応寺の本堂で学ぶ子どもたち

 日蓮宗本応寺(埼玉県川越市)の僧侶、星光照さん(42)は、終末期を迎えた人々のスピリチュアルケア=用語解説=に当たる臨床仏教師=用語解説=であり、保護司としての顔も持つ。自坊では、困窮者家庭への食料支援や子どもの学習支援に携わる。なぜ精力的に社会活動に取り組むのか。原点にあるのが、若くして亡くした姉の存在だった。(山根陽一)

教えを授けない

 埼玉県川越市とさいたま市緑区にある「はなみずきの家」(大井真澄代表)。主にがん患者が暮らす終末期専用賃貸住宅(在宅ホスピス)が、星さんのもう一つの〝職場〟だ。

 はなみずきの家は、最期まで尊厳のある療養生活ができるよう、本人や家族の意思に沿ってサポートする。高齢者が多いが、中には40代の患者もいる。医師、看護師、介護士、ケアマネジャー。そうした医療・介護従事者と共に本人や家族に寄り添い、人生を全うしてもらうことが、臨床仏教師の務めだ。

 新型コロナウイルス感染拡大でしばらく訪問できなかったが、感染症対策を徹底することで5月中旬から活動を再開した。

 「とにかく話を聴くことだ」と、星さんは言う。50人いれば50通りの人生があり、50の悔しさや楽しみがあったはずだ。「僧侶として教えを授けたいとは思わない。一人の人間として話を聴く」と言い切る。

 後悔や謝罪、罪の告白。死を目前にすると、人は心の奥底を吐露しようとする。だが、うまく言葉にできない。一番近くにいる星さんが、相手と同じ目線で耳を傾ける。「答えはないし、見つからない。でも、話ができればそれでいい。話を聴く私の後ろには仏様がいて、一緒に聴いてくれている」

内観法で自分知る

 臨床仏教師になったのは、姉の死を経験したからだった。

 9歳上の姉は若い頃から非行に走り、薬物の影響で心身を壊した。10年ほど前、40歳で死去。星さんはすでに僧侶だったが、自分の無力さを痛感した。「最期の思いを聴いてあげることすらできなかった。信仰とは何なのだ」。自問自答を繰り返した。

 そうした中で臨床仏教師の養成講座を知り、受講。1回目は認定されなかった。約100人が受講し、合格者はわずか8人という狭き門だったが、落第の理由を講師の一人が教えてくれた。

 「君自身が姉の死に固執している。お姉さんを救えなかった自分自身を責め続けている」

 その言葉を受け止めた星さんは、自分自身を見つめ直そうと、民間の内観法=用語解説=を学んだ。幼い頃からの出来事を、時代を区切って思い出し、客観視する。そうして自らに気付きを促し、自己を再発見する。両親や兄弟との関わりを洗い出す作業だった。

 気付いたことがあった。「私はずっと不遇な姉の人生を哀れんでいた。しかし、それは違う。姉にも充実した時があり、幸福感もあった。短くても決してかわいそうな人生ではなかった」

 人は生きているだけで価値があると真に理解し、臨床仏教師への思いがより強く、固くなったという。

保護司と困窮者支援も

 2017(平成29)年、晴れて臨床仏教師になったのと軌を一にして、檀家の推薦で保護司にもなった。ボランティアで、特に資格制度はない。「非行や犯罪に走ってしまう要因は、頼れる人や相談できる人がいないから。更生には、声を聴いてもらう人が不可欠であり、自ら語ることが大切だ」。臨床仏教師と同様、傾聴の重要性を自覚している。

 ただ耳を傾ける。その姿勢が人の心を和らげ、胸襟を開いてくれる。

 お寺での社会活動にも、その信念は生かされている。地域には、貧困に苦しむ人々が決して少なくない。経済的な事情が子どもの格差を生み出し、十分な食事や学習機会、進学のチャンスが奪われていく。そこで行政や市民団体と協力し、お寺を使って食料支援と学習支援を行っている。

 「一人親や困窮家庭の子どもは、大人が想像する以上に気を遣ったり、ストレスをためたりしている。何でも話せて伸び伸びできる場に、寺がなればいい」

 新型コロナウイルスの影響で、人と人が対面で接する機会は減り、悩みや苦しみはますます見えにくくなっている。そういう時代だからこそ、お寺や僧侶の聴く力が問われている。

DSC星さんタテ

 星光照(ほし・こうしょう)日蓮宗円真教会代表役員。1979(昭和54)年生まれ。宮城県出身。実家は仙台市で建設業を営んでいた。大学卒業後に星光喩本応寺住職の長女と結婚し、僧侶に。2017(平成29)年に臨床仏教師の資格を取得。ほぼ同時に保護司になった。

【用語解説】スピリチュアルケア
 人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。

【用語解説】臨床仏教師(りんしょうぶっきょうし=仏教全般)
 医療や福祉、被災地などの現場で、生老病死にまつわる苦に向き合いながらケアを行う仏教者。座学、ワークショップ、実践研修を経て臨床仏教研究所が資格認定する。従来キリスト教関係者が手掛けてきた臨床牧会教育プログラムや、台湾の臨床仏教宗教師の研修制度を踏まえ、2013年に創設された。

【用語解説】内観法(ないかんほう)
 自身を客観的に見つめ直す自己探求法。両親、兄弟、親しい人々との関わりを繰り返し思い出すことで、自分や他者への理解と信頼が深まるといわれる。さまざまな医療機関や民間で行われている。

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