特設神社で初詣を
※文化時報2021年2月25日号の掲載記事です。
正月限定の「特設神社」で、居ながらにして初詣ができる。そんな高齢者施設があることに、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程の神職、金田伊代さん(38)が着目して、論文を書いた。介護が必要で神社へ行けない利用者は多く、ましてや新型コロナウイルスの感染拡大。せめて気分だけでも、と職員が手作りする神社が、仮設とは思えないほど本格的という。(主筆 小野木康雄)
高齢者施設の特設神社は、目的を初詣に特化している。花見や夏祭り、クリスマス会などと並ぶ年中行事と位置付けているためだ。年末年始に限って、玄関やロビーに設置される。鳥居や神殿だけでなく、賽銭(さいせん)箱、おみくじ、絵馬掛けを設ける施設もあるという。金田さんがインターネットで検索したところ、少なくとも37都道府県の165カ所にあることが判明した。
神社と名付けているものの、神棚や祠(ほこら)とは異なり、必ずしもお札や御神体があるわけではない。それでも施設の名前を冠するなど親しまれており、鎮守のような存在になっているという。
金田さんが論文で取り上げた特別養護老人ホーム「越谷さくらの杜」(埼玉県越谷市)は、2015年ごろから正月に特設神社を設け、利用者らに喜ばれている。18年からは近隣の神社のお札を祭るなど、より本格的に。賽銭箱には手製の5円玉を入れてもらうことで、金銭トラブルを防ぐ工夫もしている。
「越谷さくらの杜」に設けられた本格的なしつらえの特設神社
なぜ、高齢者施設は特設神社にこだわるのか。
金田さんは、精神的に落ち着く効果に加え、参拝の際に体を動かすことが、筋力や認知機能の維持に役立つと考えている。さらに、初詣を通じて祖先や自然とのつながりを感じ、施設内では失われがちな日常の祈りを取り戻すことにも通じるとみている。
ただ、神職の目には、手を合わせる場としてはふさわしくないと映る特設神社もあるという。金田さんは「高齢者施設と地元の氏神神社=用語解説=がうまく連携すれば、利用者により良いケアができるのではないか」と話している。
金田さんの論文「高齢者施設内特別設置(特設)神社の意義と役割」は、電子ジャーナル『宗教と社会貢献』10巻2号に掲載。大阪大学学術情報庫(OUKA)のホームページから無料で読める。
越谷さくらの杜
【用語解説】氏神神社(うじがみじんじゃ=神道)
地域を守る氏神をまつる神社。周辺に住む人々を氏子という。
【サポートのお願い✨】
いつも記事をお読みいただき、ありがとうございます。
私たちは宗教専門紙「文化時報」を週2回発行する新聞社です。なるべく多くの方々に記事を読んでもらえるよう、どんどんnoteにアップしていきたいと考えています。
新聞には「十取材して一書く」という金言があります。いかに良質な情報を多く集められるかで、記事の良しあしが決まる、という意味です。コストがそれなりにかかるのです。
しかし、「インターネットの記事は無料だ」という風習が根付いた結果、手間暇をかけない質の悪い記事やフェイクニュースがはびこっている、という悲しい実態があります。
無理のない範囲で結構です。サポートしていただけないでしょうか。いただければいただいた分、良質な記事をお届けいたします。
ご協力のほど、よろしくお願いいたします。
サポートをいただければ、より充実した新聞記事をお届けできます。よろしくお願いいたします<m(__)m>