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僧侶に学ぶ看護師研修

※文化時報2021年5月27日号の掲載記事です。

 熊本県看護協会(本尚美会長)は19日、「地域包括ケアシステム=用語解説=における看仏連携~僧侶・寺院との協働の可能性を探る」と題した看護師向けのオンライン研修会を行った。看取りなどを巡って医療と宗教が協力する「看仏連携」を目指す取り組みで、都道府県看護協会主催の研修は大阪、鹿児島に次いで3例目。団体・個人から計70件の受講申し込みがあり、関心の高さをうかがわせた。(主筆 小野木康雄)

 看仏連携研究会代表で臨済宗妙心寺派僧侶の河野秀一氏と、真宗大谷派浄玄寺(熊本市南区)住職で臨床宗教師=用語解説=の吉尾天声氏が講義を行った。

 河野氏は、地域包括ケアシステムが「病院で治す」から「地域で支える」へと変化を促していると指摘。「医療・介護従事者には、地域生活の支援者という役割もある。死の専門職である僧侶や、コミュニティーの場である寺院を活用できれば」と語った。

 また、在宅死では医療・介護従事者と僧侶が臨終の場に居合わせるとして、「看取りと弔いの分業ではなく、シームレスな(途切れのない)連携が求められる」と述べた。僧侶の強みとしては、傾聴を通じたスピリチュアルケア=用語解説=や葬儀・法要などの宗教儀礼、死後の世界や魂の存在を受け入れられることを挙げた。

 吉尾氏は、臨床宗教師について、2016(平成28)年の熊本地震などでの活動を紹介し、「心を支えるだけでなく、多様な価値観を受容できる存在」と解説した。

 また、スピリチュアルケアでは相手の世界観に入り込む必要があるものの、「話をありのままに聞くことは難しい」と強調。自分の〝色眼鏡〟を透明に近づける努力が必要とした上で、「相手を理解する前に自分を知ることが重要。それが自分自身のケアにもなる」と話した。

看仏連携・吉尾氏note

早期介入、死生観育成にも貢献

 研修は3時間超に及び、質疑応答では看仏連携に前向きな質問や意見が多く出された。
 
「病院だと早期介入が難しいが、お寺でまちの保健室=用語解説=を行えば、医療や福祉へ早期につなげられる」。病棟勤務の看護師はそう語り、「全国の寺院に看仏連携の情報は伝わっているのか」と尋ねた。

 河野秀一氏は「まだ新しい考え方で、知識のある住職は少ない。少しずつ事例が増えていってほしい」と答えた。

 別の看護師は「日本人の宗教離れが進む中で、どう連携していけると考えるか」と質問。吉尾天声氏は「特定の宗教・宗派に所属しなくても、行事に参加する人や宗教心を持つ人は多い」と述べ、連携に支障はないとの見方を示した。

 また、参加者からは「お寺という癒やしと学びの場がACP=用語解説=の舞台になれば、死生観の育成に役立つ」との意見も出た。

 今回の研修は、熊本県看護協会の本尚美会長が昨年末に河野氏と相談して企画。県内全域で行っているまちの保健室を寺院にも広げようと、当初は関係者のみを対象にする予定だったが、多くの看護師に伝えたいと門戸を広げた。

 本会長によれば、僧侶が檀家・門徒や宗教・宗派にかかわらず対応することが、看護師にはあまり知られていないという。本会長は「患者には、宗教者によるケアへのニーズがあると思う。看護師も意識して心の痛みに対処したいと考えているが、戸惑いがある」と明かした。

 吉尾住職は今後、県看護協会の協力を得て、自坊でまちの保健室を開催する計画。「昨年の豪雨災害の被災地で活動している臨床宗教師もいる。様子を見ながら声を掛けたい」と語る。

 河野氏は「研修を重ねることが大切。今回で終わりとせず、実践事例から学んで、がん患者や高齢者への実際のケアにつなげていただきたい」と話している。
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【用語解説】地域包括ケアシステム
 誰もが住み慣れた地域で自分らしく最期まで暮らせる社会を目指し、厚生労働省が提唱している仕組み。医療機関と介護施設、自治会などが連携し、予防や生活支援を含めて一体的に高齢者を支える。団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに実現を図っている。

【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)
 被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は21年3月現在で203人。

【用語解説】スピリチュアルケア
 人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。

【用語解説】まちの保健室
 学校の保健室のように、地域住民が健康などさまざまな問題を気軽に相談できる場所。図書館や公民館、ショッピングモールなどに定期的に設けられ、看護師らによる健康チェックや情報提供が行われる。病気の予防や健康の増進を目的に、日本看護協会が2001(平成13)年度から展開している。

【用語解説】ACP(アドバンス・ケア・プランニング)
 主に終末期医療において希望する治療やケアを受けるために、本人と家族、医療従事者らが事前に話し合って方針を共有すること。過度な延命治療を疑問視する声から考案された。「人生会議」の愛称で知られる。

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