【能登半島地震】暢裕門首とサチカ夫人、能登お見舞い 真宗大谷派
※文化時報2024年4月2日号の掲載記事です。
真宗大谷派の大谷暢裕門首とサチカ夫人が3月21、22の両日、能登半島地震で甚大な被害を受けた能登教区を訪問した。暢裕門首が能登教区を訪れるのは、2022年に行われた教区での宗祖親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年慶讃法要お待ち受け=用語解説=大会以来。宗派は現地の負担を考慮し、段階的に視察を継続する方針。
複数の関係者によると、暢裕門首は地震発生直後から現地入りに意欲を示し、宗派は慎重に時期を見定めていたという。天皇皇后両陛下のお見舞いよりも早い時期での視察へ向け、宗派内で調整を進めていた。
門首夫妻は3月21日正午過ぎに金沢入りし、午後2時から能登教務所(竹原了珠教務所長、石川県七尾市)で現地の住職や門徒らと懇談。翌22日には、珠洲市内の2カ寺と避難所などを訪れた。
声詰まらせ、涙ぐむ
門徒と交流 復興へ勇気
能登半島地震の発生から3カ月を目前にした春の彼岸に、真宗大谷派の大谷暢裕門首夫妻が能登教区をお見舞いに訪れた。暢裕門首らは現地の僧侶や門徒らと積極的に交流。時折声を詰まらせ、涙ぐむ場面もあった。「真宗王国」にとっては、復興へと前を向き、勇気づけられる訪問となった。(高田京介)
今回の訪問には、本山から峰真内事部長と近松誉本廟部長らが同行。3月21日正午過ぎ、金沢駅に到着した一行を、能登教務所(石川県七尾市)の竹原了珠教務所長と大谷婦人会の月輪満子委員長が出迎え、車で能登教務所へと向かった。
能登教務所が入る済美精舎本堂には、住職や門徒ら70人超が集まり、懇談会が催された。最初に被災者を追悼する勤行が行われ、能登教区選出の宗議会議員である佐々木高参務や篠塚榮祐議員らも参列した。
その後、あいさつに立った暢裕門首は、真宗の土徳がある能登に住む大勢の門徒が被災したことを「心から悔やまれる」と述べ、「私たち全国の真宗門徒は、このサンガを途絶えさせないよう、寄り添っていくことが大切と感じている」と語り掛けた。
サチカ夫人のあいさつの後、休憩をはさんで、現地の住職や門徒らと懇談した。完恵・能登教区会議長は自坊・永誓寺(石川県珠洲市)の本堂と庫裏が全壊したとの罹災(りさい)証明書を受け取ったと報告。「3カ月間、寂しさを感じる場面は多々あったが、ご門首がこうしてお見えになるだけでも励まされる門徒がたくさんいる」と謝辞を述べた。
また、例年11月12、13の両日に営まれる教区報恩講への暢裕門首の親修を望む声や、「炊き出しをぜひご一緒したい」といった提案もあった。報恩講の親修について暢裕門首は「この場で即答はできないが、実現を目指して日々の宗務に当たりたい」と意欲を示した。
現地の被災状況を熱心に聞き入っていた暢裕門首が、声を詰まらせる場面もあった。「能登の真宗を途切らせないよう、復興へ向け、共に歩んでいきたい」と涙ぐみながら語った。
住職犠牲の廣榮寺にも
翌22日早朝、滞在場所の金沢を出発した一行は、昼過ぎまで奥能登を車で巡った。暢裕門首は黒色のジャケットにネクタイを外した姿、サチカ夫人は白色のタートルネックに黒色のセーターとカジュアルな服装。動きやすい格好の上から、東本願寺のジャンパーをまとった。
最初の奥能登ボランティアセンター(石川県能登町)には、幹線道路などの渋滞で午前9時半過ぎに到着。今回は行けなかった輪島市内の状況を、現地寺院の前住職から聞き取った。前住職は、自坊が市街地の観光名所「輪島朝市」の近くにあるといい、付近で5カ寺が全壊したと報告した。
その後、珠洲市の廣榮寺を訪ねた。同寺では、住職の大廣永世さん=当時(55)=が地震による土砂崩れに巻き込まれて亡くなった。
前住職で永世さんの父、世雄さんが案内。この地方特有の大きな伽藍(がらん)を、土砂と大きな岩石がのみ込んだ凄絶(せいぜつ)な光景に、一行は息をのんだ。
世雄さんは一行に、地震前の境内や法務に当たる在りし日の永世さんのアルバム写真を見せた。京都大学の工学部を経て、化学製品のメーカーで研究員を務めていた永世さんは50歳になったころ、住職として故郷に戻った。「連れ戻さなければ、被害に遭わなかったかもしれない」と、世雄さんは語った。
門首夫妻に同行していた近松本廟部長は、永世さんから見て1歳年下のいとこに当たり、涙を浮かべた。「母親が能登の出身で同世代の親戚が多い。その中でも永世さんは一番頭が良く、話題に上がる存在だった」と振り返った。
その後、門首夫妻は市内の避難所で門徒らと交流。「珠洲原発」の建設計画の反対運動に携わった珠洲焼作家、篠原敬さんの出身寺院である正福寺を訪問した。
【用語解説】お待ち受け(おまちうけ=仏教全般)
祖師の遠忌や宗門にとって重要な周年に向け、宗門内外のムードを高めるため、事前に行う法要や行事。「お待ち受け法要」などと称する。
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