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全国水平社100周年「新しい歴史刻む」

※文化時報2022年3月11日号の掲載記事です。

 差別撤廃を掲げた全国水平社の創立から100周年となった3日、後継団体の部落解放同盟中央本部は、京都市左京区のロームシアター京都で記念集会を開催した。全国の関係団体や宗教教団などから千人以上が駆け付け、100年にわたる解放運動の軌跡を振り返り、「新しい歴史を刻む」と決意を表明した。

 全国水平社は、大正時代のデモクラシー運動の高まりなどから、被差別部落の解放を掲げ、浄土真宗本願寺派寺院の長男として生まれた西光万吉(1895~1970)らの呼び掛けにより、1922(大正11)年3月3日に創立された。

 創立大会が開かれた岡崎公会堂(当時)には、2千人を超える代表者らが集まり、日本初の人権宣言といわれる「水平社宣言」を採択。解放運動は全国に波及した。

 記念集会では、式典と記念映画の上映を行った。部落解放同盟中央本部の組坂繁之・中央執行委員長が「運動に関わった多くの先人の血と汗と涙で今日がある」と回顧。ロシアによるウクライナ侵攻にも言及し「戦争は最大の人権侵害。部落差別を中心とするあらゆる差別がなくなるまで戦い続ける」とあいさつした。

 式典では、59年前の狭山事件=用語解説=で現在も再審請求している石川一雄さんらが支援を訴えたほか、功労者や物故者を表彰。超宗派でつくる「『同和問題』にとりくむ宗教教団連帯会議(同宗連)」の足立宜了議長ら関係団体の代表者も出席し、祝辞を述べた。

 決意表明は、インターネット社会の到来による現代のさまざまな差別に対し、「変化に対応するため、組織の再生を懸ける」と意気込みを示した。今後の取り組みとして、①人権の法制化②格差と排除に関わる価値観の是正③持続可能な開発目標(SDGs)の推進④未来へ向けた組織改革―を掲げた。

 組坂委員長は集会後、文化時報の取材に、解放同盟と宗教界の関わりについて「差別を行う人でも、もし正しい教育を受けていれば正しい行動を取っていた。宗教者こそが、本当の教えを授けることができるはずだ」と期待を込めた。

水平社100周年組坂委員長

全国水平社創立100 周年の記念集会であいさつする組坂委員長

伝統教団、取り組み加速

 全国水平社は創立以来、後継団体の部落解放同盟に至るまで、東西本願寺をはじめとする伝統仏教教団に、仏典の記載内容の是正を求めてきた。1979(昭和54)年の「世界宗教者平和会議」で起きた宗教者の差別発言以降は、戒名や過去帳などの記載内容を調査し、差別体質が残る宗教教団に改善を促してきた。

 だが、浄土真宗本願寺派では昨年、富山教区の住職が地元紙の取材で過去帳を開示した問題が起きた。過去帳は身元調査につながるとして宗派が開示を禁止しており、研修会や啓発リーフレットの配布などを行う最中の出来事だった。

 宗派は再発防止のため、機関誌『宗報』1月号に過去帳などの取扱基準を改めて掲載。また「寺院サポート講座(仮称)」で取扱基準に関する講義映像を来年度にも完成させるほか、各種研修会で講義を行っていく方針だ。

 真宗大谷派は、解放同盟から指摘された「是旃陀羅」問題=用語解説=について協議を進めている。

 昨年6月には宗参両議会が、「人間の尊厳を否定する差別語」と断じて謝罪する決議を行った。加えて、「部落差別問題等に関する協議会」や「『観無量寿経』に聞く研究会」などを開催し、中間報告を取りまとめた。

 今後、全国の寺院・教会への意識喚起や学習資料の精査など7項目を定めた宗派施策の方向性などを基に、協議を継続するほか、課題の啓発を目的とした手引書の作成を6月末までに予定しており、具体的な施策の立案を目指す。

 「同和問題」にとりくむ宗教教団連帯会議(同宗連)は、79年の国際会議での発言を機に人権擁護の理解を深めようと発足。昨年結成40周年を迎え、現在は臨済宗妙心寺派が議長教団となっている。部落差別解消へ向けた学習会・啓発活動を通じ、差別戒名や狭山事件などの差別問題について意思統一を行っている。

東西本願寺が声明発表

 全国水平社が創立100周年を迎えた3日、真宗大谷派の木越渉宗務総長は「100周年の歴史の重さは、慚愧(ざんき)すべき年月であると受け止めている」とのコメントを出した。

 その上で、創立以来、教団の差別事件に問題提起や糾弾を受けたことを「本願寺教団との深いつながりを基底にした『親鸞に帰れ』との悲痛な叫びと深い願い」と表現。「是旃陀羅」問題について「教団に属する一人一人の信心を問い返す重要な提起として、教団内の課題共有を徹底すべく、取り組みを進めている」と述べ、問題提起を受けた部落解放同盟広島県連合会へ近日中に報告することを明らかにした。

 浄土真宗本願寺派の石上智康総長は「親鸞聖人の同朋精神に立ち還ってほしいとの水平社の解放への願いに、当時の教団が十分応えられなかったことを重く受け止めたい」と表明。改めて宗派として差別・被差別からの解放を目指して真摯に取り組むと強調した。

 石上総長が理事長を務める外郭団体、一般財団法人同和教育振興会も同日、水平社の掲げた「人間の尊厳」という理念を大事にしながら課題に取り組むとの声明を発表した。

【用語解説】狭山事件(さやまじけん)
 1963(昭和38)年に埼玉県狭山市で起きた女子高生殺人事件。被差別部落出身の石川一雄元被告(当時24)が逮捕・起訴され、無期懲役が確定し、服役した。被差別部落への見込み捜査により自白を強要された冤罪(えんざい)事件だったとして、現在も再審を求める運動が続いている。

【用語解説】「是旃陀羅」問題(ぜせんだらもんだい=仏教全般)
 浄土真宗の聖典の一つ『仏説観無量寿経』の中にある差別表現を巡る問題。「旃陀羅」はインド古代の被差別民「チャンダーラ」を指す。王舎城の悲劇で、阿闍世(あじゃせ)王が母を殺そうとしたとき、大臣が「旃陀羅と同じだ」といさめたとして記載されている。1922(大正11)年の全国水平社創立以来、差別を助長してきたとして批判され続けており、2013(平成25)年には部落解放同盟広島県連合会より改めて問題提起された。

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