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【能登半島地震】時が止まった被災地 真宗大谷派法融寺

※文化時報2024年5月31日号の掲載記事です。

 真宗の金城湯池である石川県能登地方は、過疎化が叫ばれて久しいが、集落のコミュニティーとしてお寺が今も根付いている地域は多い。奥能登の名刹(めいさつ)、真宗大谷派法融寺が立地する石川県能登町小木地区は「一村一カ寺」で、住民のほとんどが門徒だ。「お寺は公共の空間」と話す篠塚榮祐住職は、能登半島地震の発生当初に法融寺を避難所として開放した。(高田京介)

豊かな歴史と海の恵み

 由緒書や系譜図などによると、法融寺は北陸の地を教化した本願寺第8代蓮如上人の孫・顯誓が開いた妙楽寺をルーツに持つ。その顯誓には2人の子どもがおり、兄の正順が2代目住職として、1524(大永4)年に法融寺を開創したと伝わる。ただ、系譜図に書かれている正順が顯誓と関係しているかは定かでない。一方、弟の正尊が開いた珠洲市大谷町の廣榮寺の由緒書からも法融寺の開基を正順としており、兄弟関係を示しているとされる。

寺史や集落の風土を宗教学者の島薗進氏に説明する篠塚住職(右)

 法融寺が立地する能登町小木地区は、リアス式海岸の九十九(つくも)湾に面し、三方を海に囲まれている。地元漁港の小木港は、北海道・函館、青森・八戸と並ぶ「日本三大イカ釣り漁港」として有名だ。

 江戸時代ごろから干物が名産となり、大正に入ってイカ釣りが根付いた。昭和には漁船が100艘(そう)を超え、最盛期の年間漁獲量は約3万トンに上ったが、現在は6艘まで減少した。

 漁村などでは、海を一望するように寺社が建てられることが多い。500年近く集落を見守る法融寺も高台に建てられている。また、境内地に面して御船神社が立地し、神仏習合の歴史をにおわせる。

被害軽微、門徒が避難

 能登半島地震が起きた元日、法融寺では恒例の修正会(しゅうしょうえ)が行われていた。法要や法話を終え、参加者らが帰った夕方に大きな揺れが寺を襲った。高台の小木小学校が避難所となったが、門徒50人超がこの地方特有の大きな本堂に集まった。

 境内は、山門に接する石垣が崩れたり、鐘楼堂が傾いたりしたが、本堂の被害は軽微だった。断水や停電はあったが、プロパンガスが通っており開放できる状態で、ストーブと毛布、残っていたおせちなどの食料も提供した。

山門に接する石垣が損壊した法融寺=石川県能登町

 小木小学校に物資がそろいはじめたころ、篠塚住職は移ってもらうよう呼び掛けたが、「ここにおりたい」と話す門徒もいた。2次避難をする門徒を車で送り届けたこともあった。

 小木地区の建物被害は、他地区と比べて軽微だったという。篠塚住職は「珠洲市や輪島市ほど打撃を受けていない分、後回しになっている感も否めない。時が止まっているように、復旧は遅れている」と語った。

 坊守の照美さんは、「能登の人々の性質なのかもしれないが、埋もれている声はあると思う」と指摘する。

地域に根差す重要性

 法融寺は、地区住民の大多数に当たる千人ほどの門徒を抱え、婦人会にも400人超が加盟している。報恩講をはじめとする年中の仏事や、寺の総会などには大勢の門徒が集う。コロナ後の報恩講には、お斎250食を用意したほどで、日ごろから寺と門徒との関わりは強い。

 特に篠塚住職が若手時代から2カ月に1度のペースで開いてきた法話会「同朋の会」には、毎回50人以上が集まっていた。2021年に宗議会議員となって以降、本山や与党・真宗興法議員団などの会合が増え、残念ながら会は休止しているという。

 地震発生後、地元の漁業者は漁獲量の激減や水産業者の倒産などで厳しい状況に直面したが、3月に小木港が再開。「仕切り直し」と定める法融寺の総会も4月8日に開催し、約70人が一堂に会した。

 「寺の修理箇所などの報告と共に、門徒ら同士が和気あいあいと近況報告し合った」と篠塚住職。「寺が地域のコミュニティーとしての存在感を失っているが、今こそ僧侶が社会活動に参画していくことが重要」と力を込めた。

島薗進氏と記念撮影に応じる篠塚住職と坊守の照美さん(左から)

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